第15話 テッドと女神。
白と赤を基調とした服に身を包んだ真っ赤な髪の少女は教会に降り立ち絨毯の上に足を乗せると真っ赤な髪色は黒に変わった。
自身を調停神と名乗った女神はネイを見て「いつもお祈りありがとう。お疲れ様」と微笑みかけ、僧侶達にも「お勤めお疲れ様」と声をかける。
そしてオプトを見て「プラスタ、オプトね。今回はプラスタの保護をしてくれてありがとう」と声をかける。
「チィト様!勿体無いお言葉です!ありがとうございます!僕、感激です!生涯の思い出にします!」
チィトは「ふふふ」と笑うとリリオを見る。
「プレイヤー…この子…」と小さく驚くと顔を戻してリリオを見て「今だけ姿を現します」と言ってリリオにも姿を視認させる。
「わぁ!人が出た!?あれ?この人…知ってるかも?」
「リリオさん!女神チィト様ですよ!」
「女神様…なんだ。はじめまして」
「はい。はじめまして」
そして僧侶に囲まれたテッドを見るチィト。
声には出さなかったがチィトはテッドを見た時に教会の空気が張り詰めた。
それはチィトが緊張をしたからだ。
「チィト様?」とネイが不安げにチィトを見る。
「ネイ、あなたの判断は正しかった。祝福封じの用意は?」
「出来ています」
「ありがとう」
「祝福封じ」と言う不穏な単語が飛び交う会話を聞いていたテッドが口を開く。
「あなたが神か?俺は何者だ?」
「あなたがテッドね。私はチィト。はじめまして」
テッドの物腰にチィトは多少警戒を解く。
そして今わかる限りのことを話しはじめた。
「テッド、あなたはそこにいるオプトの見立てではプラスタです。
ですがイィトもジィマも…そして私も、今は始まりの地でプラスタを産むことをしていません」
それはオプトに言われるがまま自身をプラスタと信じていたテッドにとって衝撃の言葉だった。
「では…俺はなんだ?」
「ですが、あなたは確実にプレイヤーではありません。それは断言出来ます。
そしてスタッフでもマイスタでもない。
そこからすればプラスタと言ってもいいと思います」
「ならば俺は何なのだ?」
「今はまだわかりません。そして今降り立つまでにあなたの行動を見ました。見て追いました。確かに突然そこのオプトの屋敷に発生して20の祝福を授かっていた。
だがあなたの授かった祝福は存在こそしていてもまだこの世界に顕現を許したものではありません。
そして「生命犠牲強化」は私もイィトもジィマも用意をしていない祝福です。
そしてあなたは起床前に何者かと話をしている。
それは誰ですか?
誰と何を、何の話をしていますか?
あなたは何者ですか?」
チィトはテッドの存在に驚いていた。
自身の兄が身につけたアーティファクト「光の腕輪」が生み出す光の剣と光の盾、火や水の属性から作られる空を飛ぶ剣、兄の剣技、兄の師でもある奇跡の少女が極めた武芸等、サルディニスを作る時に確かに存在させた祝福だが、それらを地上にもたらすのはまだ先だと他の神達と話し合っていた。
だが目の前のテッドはそれを身に付けているし兄達が修練の果てに身に付けた神殺しの力すら祝福として持っている。
ネイは「神殺し」と「生命犠牲強化」の祝福を不審がった、そして神を呼んだが問題はもっと別の所にある。
とにかく呼ばれた事は正しいと思った。
「何…者…か?……だと?俺が聞いているんだ!」
下を俯いていたテッドは絞り出すようにそう言うと怒気をはらんだ声でチィトを怒鳴りつける。
「俺が何者かを知りたいんだ!お前が俺を知らないどころか俺に何者かなどと問うな!」
「テッド…」
「朝起きるときの声?俺が知りたいくらいだ!毎朝毎朝名を呼んで何かの目的を果たせと言う。
声が届いていないのにだ!
俺が百日後の事を考えたら頭痛に襲われたのは何故だ?
神話を読んで頭痛に襲われたのは?
神話の英雄の活躍を見て頭痛に襲われたのは?」
「テッドさん!」
「テッド、落ち着きなよ」
「うるせえ女!
おい神!俺がお前の声を聞くとこんなに苛立つのは何でだ!?説明しやがれ!【ライトソード】【エレメント・ファイア】」
突然、ゴブリンを倒していた時の変貌したテッドが現れるとライトソードと火のエレメントを使いはじめた。
狙いは勿論チィトだ。
「やめなさい!」
チィトは光の盾を作って防ぐ。
「黄色…、本当に俺の色と同じなんだな!
答えろよ女神チィト!何で俺の頭の中に神を殺せって毎朝聞こえる不愉快な声が聞こえるんだよ!
そして声に従って殺したくなるのはなんでなんだよ!
答えてくれよ!」
テッドはライトソードを振りかざしてチィトに斬りかかる。
チィトはそれを問題なくかわす。
「チィト様!僧兵達、テッドを止めなさい!チィト様をお守りするのです!」
「ネイ!ダメです!テッドの戦闘力はこの場に居る誰も敵いません」
「チィト様!?」
「私が彼を止めます」
チィトはそう言うと手に黄色のライトソードを作りテッドに話しかける。
「テッド、その声に惑わされないで自分をしっかりと持ちなさい」
「うるせえ!女神!お前、調停神なんて戦いに縁遠い名前で呼ばれているが戦う方の神だな?俺はお前を殺す。
それが嫌なら本気で向かって来い!【ライトソード】」
テッドは二本目の剣を出す。
その黄色い刀身はチィトの出した剣と全く同じ色だった。
「兄様の剣と同じ二刀流、そして兄様の最愛の人と同じ赤と黄色を合わせたオレンジの刀身…」
「余裕だな!女神!!」
テッドが本気の動きで前に出る。
いつの間にかチィトの周りにはライトシールドが4枚程浮いてチィトを守っている。
今までどんな物も容易く切り裂いたライトソードがチィトの盾に阻まれてテッドは驚くことしか出来なかった。
だが口には出さなかったがチィトも驚いていた。
スタッフであろうがプレイヤーであろうが神に傷をつける事は普通には出来ないのだ。
だがテッドの攻撃は盾に当たり、盾は破損こそしなかったがチィトに衝撃は届いたのだ。
チィトはその力が何であるかは知っていた。
神殺しの力。
文字通り神を殺す、神の命に届く力。
神殺しの祝福の恩恵、それと自身の知らない祝福である生命犠牲特化により人の身でありながらチィトが知る限りトップクラスの戦闘力を有していた。
「何だそれ!?ふざけんな!ぶっつけ本番だがやってやる!【エレメントソード・ファイア】」
テッドが口にすると炎の剣が空中を浮いていた。
テッドは「俺が2人?そう言うことか…行け!」と言うと炎の剣はチィトに向かって飛んでいく。
「やめないのですね?わかりました」
チィトはそう言うと光の剣を2本出して飛ばしてきた。2本の剣は1本はテッド自身を、2本目はテッドの出した炎の剣を狙っていた。
「くそっ、同時にかわすのが厳しい!?」
エレメントソードにまだ不慣れなテッドは自身の回避と剣の回避に惑わされていた。
「この隙をつかせて貰います」とチィトは言い放つと更に剣が2本増えて4本の剣がテッドを襲う。
「ふざけんな!神だからって余裕かますんじゃねぇ!!俺にだってやれる【エレメントソード・ファイア】【エレメントソード・ファイア】」
テッドは何か確信めいた気持ちから力を振るう。
「やはりやれましたか…、ですがそれを待っていました」
チィトはあっという間に3本のエレメントソードをへし折ると「ぐぁぁぁっ」とテッドは苦み倒れ込む。
エレメントソードには自身が乗り移る感覚があるので慣れないと破壊された時に脳が混乱をして自身が倒されたと誤認するのだ。
チィトはすかさずそこに光の牢を作ってテッドを閉じ込める。
「終わりました」
あれだけの戦いをしたのに女神は優しげに微笑むとオプト達を見て「怖がらせてしまいましたね。もう大丈夫ですよ」と言う。
その顔は戦いなんてする風には見えない。
「ネイ、祝福封じのスタッフを用意してください」
「はい。今すぐ!」
ネイは慌てて奥に駆けて行った。
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