第16話 テッドと謎の言葉。

テッドが目を覚ますとそこは地下牢だった。

先ほどまでの出来事を思い出してみたが記憶は曖昧だ。

女神に怒鳴ったのは確かだ。

その先の記憶がない。


そう言えば初日にもゴブリン退治に夢中になった後は気付いたらオプトの屋敷に居た。

その時は豹変して暴れたと言われたので、もしかしたら女神に喧嘩を売ったのかもしれない。



そう考えればこの状況は返り討ちにあったのかもしれないなと思った。


「女神にもわからない存在か…、困ったな」


テッドは当面の目標、自身を知ると言う事を失ってしまい呆然としていた。




足音がする。

しばらくすると足音は自分の牢屋の前で止まる。

テッドが前を見るとそれはネイと女神だった。

女神には先程から感じた気配のようなものがない。


「テッドさん、今は落ち着いていますか?」

「ああ、この状況…、恐らく俺は我を忘れて女神に攻撃をして返り討ちに遭ったのか?」


ネイが「そうです」と答える。

そして「何があったか知りたいですか?」と聞いてくる。


「いや、今はいい。後でもしもオプトに会えるならその時オプトから聞く。

それよりも女神チィト、何故今俺は冷静でいられる?神を目の前にして苛立たない?」


女神チィトは少し困った顔をした後嬉しそうに「神の気配に貴方が反応をしたと仮定しました。

だから私は今、人に近い存在としてここに居ます。

だから貴方は私に反応をしない。

今も貴方が何者かを調べています。

何か覚えている事やヒントになる事があればそこから導き出せるのですが…」


そう聞いてテッドはチィトが憎いのではなく神が憎いと言う事がわかった事に嬉しくなった。

何か一つでもわかると言う事が嬉しくて堪らないのだ。


「俺は何も覚えていない。

いや、オプトの所で目覚める時にチィトの声が聞こえた気がした。

チィトは祝福をすると言っていた」


「本当ですか!?」

慌てた女神チィトがテッドに聞き直す。


「確かだ。そしてその前に見知らぬ複数の…男女の声が聞こえた。何かのヒントになるか?」


「ええ、私の祝福すると言う声、その時に他に声は聞こえませんでしたか?」

「男の声がした。男は歓迎と…後、チィトと別の女の声で刺激と言っていた」


それを聞いてチィトが驚いたのがわかった。


「何故、テッドがその声を聞けたのかはわかりません。

ですが今言えるのは、テッドはプレイヤーではないのにプレイヤーと同じ形でこのサルディニスに来た事がわかりました。

後はその前に聞いたという複数の男女の声です。

私が神の力を使います。

ですがここで使えば貴方はまた怒りに飲まれるかもしれません。

ネイ、私の力でテッドがこれから男女の話を再現します。

それを聞き漏らさず全てを私に教えてください」


「はい!」


テッドは正直自身がプラスタのハズなのにプレイヤーと同じ形でサルディニスに現れた事が気になっていたのだが考える間もなくチィトは部屋を出て行きテッドは気が遠くなる。


そして気がついた時、目の前にまた神の気配がしないチィトが居た。


「ネイ、テッドは何と言いましたか?」


ネイが「はい」と言ってから言い始めたのは…

「お爺ちゃん、まだここにプラスタさんが残っているよ?」

「え?おかしいな、神様とジョマに言われた分は全て用意したハズなんだけど…

お前たち、チトセさんから個別に頼まれてプラスタの用意なんて…」

「しないよ!」

「ねー。それに男性だからお爺ちゃんかリークの仕事だよ」

「ふむ…、まだ目覚めていないね。じゃあ僕が連れて行くよ」

「うーん、なんか引っかからない?」

「何が?」

「神様かジョマとかチトセちゃんに聞かないでいいの?」

「今はサードの事で忙しいから邪魔しちゃ悪いよ。後で僕から言っておくよ。さあ行こうかプラスタ君」

「よっこいしょ…さあ着いたよ、君はプラスタ。幸せになるんだよ。それが神様たちや僕たちの願いだ」

と言う言葉だった。

それを聞いたチィトの顔付きが険しいものになる。


「チィト様?」

「ネイ!今の話は本当ですか!?」


「はい!確かにテッドさんは言っていました」

「始まりの地?始まりの地にヒントがあるの?それも4年前の?」


チィトは余裕のない表情でテッドを見る。

その顔つきにテッドは何も言えなくなる。


「テッド、やはりあなたはプラスタです。

それは記憶の中に眠る言葉が証明をしてくれました。

ですが時間が合わない。

今の会話は間違いなく4年前に始まりの地でされて居なければならない会話です。

貴方がプレイヤーと同じ形でこのサルディニスに来た事、そして空白の4年…、いえ正確には11年。

始まりの地とサルディニスには時間の壁があります。

サルディニスの一日は始まりの地の8時間にしかなりません。

なので始まりの地で4年前は大まかに言えば12年前になります。

ですがまだ私の管理で11年しか経っていない」


チィトの告白に誰も何も言えなくなる。

それはネイすら知らなかった話で始まりの地は伝説の世界で今もあるとは思っていなかったのだ。


「ネイ、今の話は教会内でも誰にもしないでください」

「は…はい!」


「テッド、私はこれから一度始まりの地に赴きあなたの事を確かめてきます」

「行ってくれるのか?」


「ええ、当然です。

そしてネイ、貴方の声が最優先に届くようにします。

何かあればすぐに連絡をください」


そう言うとチィトの身体が光って消えた。

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