第11話 テッドとオーバーキル。
テッドとリリオは洞窟に来ていた。
ここにゴブリンの巣があると言う情報なのだ。
教会でクエストを確認してみると首狩り蟷螂の方は巣の探索と除去。ゴブリンは除去になっていたので僧侶に確認を取ると、昨日探索を引き受けた冒険者が見事に巣を探してきたと言う。
「何故巣穴が奴らの巣穴だとわかるんだ?」
「あ、確かに。何で?」
「神々のお力で洞窟に近付けば分かるのです」
僧侶はありがたい事と話してくるのだが何というかテッドは胡散臭さを感じていた。
「なら何故神は洞窟の場所を初めから言わないのだ?」
「確かに、何で?」
僧侶は目を瞑りながら「装飾神ジィマ様の御心です。
魔物共の巣を我々に探させる試練を課してくださっているのです。
昨日の冒険者達が糧にありつけたのもジィマ様の御心があればこそです」と言って涙を流している。
「まあいい。クエストの参加者を確認出来るか?」
「確認ですか?名前などは申せませんが…」
「構わない」
「首狩り蟷螂の方は2組の冒険者が探索に出ております」
「ゴブリンは?」
「いえ、まだ誰も」
それを聞いたテッドは誰もゴブリンの巣に近づかせないように言うとゴブリンの巣を除去するクエストを受注した。
「私、てっきりテッドは首狩り蟷螂かと思ったよ」
洞窟への道中でテッドはリリオにそう言われた。
「そうか?」
「何でゴブリンにしたの?」
「まだ誰も選んでいないからだ」
そう言ってテッドは進む。
その後ろ姿を見ながらリリオは「個人主義?」と言っていた。
洞窟は僧侶が指定した場所にあった。
洞窟は入り口から見える範囲では地下に広がるアリの巣状の巣に見える。
ゴブリンは小さな身体なのだが、この洞窟は何故か人が入れるような大きさになっていた。
不釣り合い、不似合い、そう言う違和感がテッドの気分を悪くする。
「うわっ、凄く臭うね。いかにもゴブリンの巣ですーって感じだね。これからここに潜るのかぁ…、あ!松明買ってないよ。どうする?
私がそこら辺の木を拾ってくるから火のエレメントで松明作ってよ」
リリオは緊張からかペラペラと話し続ける。
「ああ、そうだな」
当のテッドは適当に相槌を打ちながら洞窟を眺めている。
「テッド?」
「いや、先にこの巣穴を潰そうと思う」
「はぁ?」
「【エレメント・ウォータ】!」
テッドは洞窟の入り口に向かって水のエレメントを発動する。
テッドの手元から発した水が止まる事なく中に流れ込む。
ドドド…と言う水の音にかき消えながら奥の方でキィキィと言う悲鳴が聞こえてくる。
「水責め!?うわ…エグい」
リリオは洞窟の中で起きている出来事を想像して首を押さえている。
暫く水を流し続けたテッドは入り口の方まで水が登ってきたのを見て満足したのか祝福を止める。
「リリオ、教えてくれ」
「何を?」
「水と相性のいい攻撃だ。
多分火は使えないだろう?」
「まあ水と言えば雷かな、雷は水を走るんだよ。…っておい!」
「【エレメント・サンダー】!!」
テッドはリリオから聞いた瞬間に手を出して雷のエレメントを放出した。
「うむ。効果が期待できて素晴らしい。流石はリリオだ。他には無いのか?」
「他?えっと……っておい!」
「【エレメント・サンダー】!!」
テッドはまた水に向かって雷のエレメントを放出する。
「待ちなよテッド。やり過ぎだよ!」
「そうか?そうなのか?
だが洞窟に空洞があって生き残って居たりしたら困るだろ?
折角やるなら徹底的にやらないといけないかと思った」
「まあ、生き残りが居て不意打ちとか怖いけど死んだと思うよ?」
「それでリリオ、他には効果的な攻撃はないのか?」
「他ねぇ、火で水を煮立たせてゴブリンを茹で殺すとか…、まああの水を煮立たせるなんて現実的じゃ…っておい!」
「【エレメント・ファイア】!!」
リリオの話を最後まで聞かないでテッドは火のエレメントを水に向かって放つ。
「バカ!それ…なんか普通の火じゃない!色がヤバい!爆発するよ!!」
リリオがそう言って急いでテッドの後ろに身を寄せる。
リリオの読み通りたくさんの水は一瞬でお湯になり煮立つと水蒸気を出して爆発を起こす。
テッドはライトシールドを作って爆発の衝撃を耐えていた。
轟音と衝撃、そして洞窟が崩落した事で起きる埃で前が見えなくなっていた。
それが晴れた所でテッドの後ろからリリオが出てくる。
「あー、死ぬかと思った」
リリオが心臓をバクバクと言わせながら洞窟を見ると入り口が見事に崩れていた。
「リリオ、他には何があった?」
「実践しない?もうやり過ぎだからやめてよね」
「…まだ生きているかも…」
「死んでるわよ!」
「そうか?」
「そうよ!」
「わかった。やらない」
「なら教える。
後は今みたいに巣穴を水で満たしたなら氷のエレメントで凍らせて閉じ込めちゃえばいいのよ」
「成る程。
凄いなリリオは。助かる」
テッドは本当に感動した顔でリリオを見る。
「い…いいって」
テッドは決して美形ではないが目鼻立ちのバランスは悪くない。
そのテッドに見つめられてリリオは悪い気はしなかった。
リリオの中にはこのまま抱きつかれたらどうしよう、その先に何かあったらと言う淫らな考えも湧き上がったいた。
「リリオ21歳!大人の階段を登ります!」
リリオの脳内ではこんな事が思い浮かんでいた。
ザク
「ざく?」
リリオとテッドが音の方を見ると洞窟から少し離れた場所の土が盛り上がって中から「キィキィ」と声を出しながら火傷を負ったゴブリンが出てきた。
「生き残りが居たぞリリオ。早速試さねば」
そう言ってテッドは這い上がろうとするゴブリンを穴に蹴り落とすと右手を翳して「【エレメント・ウォータ】!」と唱えた。
水が溜まった所でテッドが口を開く
「空気の溜まる場所まで水で満たしたい」
テッドの脳内には「折角やるなら徹底的に」と言う言葉が生まれていた。
「テッド次第じゃない?その穴から出てくる水すらも高圧で押し返せばなんとかなるかも?」
「成る程、リリオは凄いな。【エレメント・ウォータ】!」
テッドはまた水を流す。
キチンと奥まで入ったのか怪しいが暫く水を入れ続けたテッドは次に雷のエレメントを出す。
「うわ、またオーバーキルしてる」
「何を言う?ゴブリンは生きていたじゃないか。オーバーではない」
そう言って今度は水に手を翳して「【エレメント・アイス】!」と唱えて水を凍らせてしまった。
「出来た」
清々しい笑顔でそう言うテッドを見ていると、ああ砂場で水遊びする男の子みたいな顔をしていると思った。
大人の階段を登り損ねたリリオは始めこそ不機嫌だったが帰り道でテッドが「折角やるなら徹底的にやりたい」と言っていたのを聞いて「折角大人の階段を登るなら徹底的に登る」と言われるのではないかと思えて尻込みしていた。
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