第12話 テッドとシスター・ネイ。

ひとまず倒すものは倒せたハズだと言うテッドの意見と洞窟が凍り付いていてとても中に入れないという理由から2人は街に戻る事にする。

オプトからは「もしお昼が必要でしたら用意をさせますが?」と出がけに言われたのだが、屋敷で世話になるにも何時に帰るかわからないし、弁当を貰っても戦闘中に台無しにしてしまうのも心苦しいので適当に街で何か食べると言う事にしていたので街に着いてすぐにリリオのお気に入りの店で食事を食べた、


「美味しいでしょ?」

リリオが嬉しそうに聞いてくる。


「確かに美味しいな……」


「そうでしょ!…って、どうしたの?」

無言になるテッドを見てリリオが心配そうに聞く。


「いや、これが美味しいで良いのか?

俺には美味しいの基準がわからない。

リリオの評価が一般的なのかを知りたい」

テッドはリリオの目鼻立ちを気にしたように美味しさの基準を気にしていた。


「バカね」

「なにがだ?」


「テッドが美味しいと思えば美味しいで良いのよ。なんで一般とか周りを気にしているのよ」


「気にして…」

「気にしているでしょ?

いちいち気にすんなって言ってんの。

テッドが可愛いと思えば可愛い。

美味しいと思えば美味しいでいいの、あまりにズレていたらはじめて気にすればいいのよ。

ったく…」


リリオは呆れながらテッドを見る。


「そうか…」と言ったテッドは天啓を授かった僧侶のような、道を示して貰った迷子の子供のような顔で嬉しそうにリリオを見る。


先ほども思ったがテッドは美形ではないが目鼻立ちのバランスは悪くない。

そのテッドに見られるとリリオは照れる。


「うん。リリオは凄いな。

そうか、俺が思えばか…。

ならリリオは可愛いと思う」


「うぎっ!?」

急に想定外の言葉を投げられたリリオは慌ててしまう。

面と向かって可愛いなんて親や祖父母と言った親族しか言わないので油断していた。


「リリオ?」

「な…、なんでもない!早く食べて報酬貰いに行こうよ!」


リリオは顔を赤くしながら照れ隠しで昼食を口に運びながらそう言った。


「俺が思えば…」なんて素敵な言葉だろう。

テッドはリリオがくれた言葉に素直に感動していた。



教会にクエスト完了の報告に行く。

この時間は忙しいのか朝や昨日対応してくれた僧侶は居なかった。

代わりに可愛らしいシスターが「はーい」と言いながらテッド達の所にやってくる。


「クエストが終わった」

「…と思うから鑑定を頼めますか?」

テッドが終わったと言ってリリオが付け加える。

リリオが思うと書いたのには理由があって、巣穴を氷漬けにしてしまって中に入れないので巣を潰せたのか、クエストクリアなのかわからないのだ。

そこでテッドとリリオが話し合ったのは「記録の札」に倒した魔物が記録されるのならクエストクリアもわかるのではないか。

ダメならテッドが火の祝福で氷を溶かして中に入る算段になった。


「はぁ…」

シスターが不思議そうに見るのでリリオがテッドのオーバーキルっぷりを交えながら説明をする。

シスターは「8個?水の祝福で洞窟を沈めて、雷の祝福を何回も流して、火の祝福で沸騰…、それでまた水に沈めてから、氷の祝福で凍らせる?」と途中途中に驚きの相槌を入れながら話を聞いてくれる。


「なるほど、それでクエストが完了しているのか知る由も無いので報告がてら確認に来たんですね。わかりました」


シスターはそう言ってテッドに記録の札を出させると鑑定を行う。


「!!?これは!?」

鑑定を行った瞬間、シスターが慌ててテッドを見る。


「なんだ?問題か?」

「いえ…あまりの戦果に驚いてしまいました。

ゴブリンが43…、ビッグゴブリンが1…

ビッグゴブリンが巣の主ですね。

はい。倒せています。クエスト完了です。

それではテッドさんとリリオさんには344エェンずつお支払いします」

そう言ってシスターがニコリと笑う。


「私も344エェン!やった!宿屋に100日は泊まれるよ!テッドありがとう!!」

リリオは突然の大金に大喜びだ。


「良かったなリリオ」

テッドはお金に関しては執着が無いので素っ気無いのだがリリオはそれが気に入らなかった。


「何よ、テッドだっていつまでもオプト君のお屋敷にお世話になれないでしょ?

先の事を考えなさいよ。

100日よ100日。

テッド、100日先の自分をイメージして見なさいよ」

「むっ…確かにそうか」

そう言ってテッドは静かに考え込む。

100日後、神々が来て記憶喪失や祝福が8個もある事への謎や、あの名前を呼ぶ声。

頭痛や神々を意識すると痛むこの胸の痛み。

そう言うものが解決しているのだろうか?

100日後に自分は何をしているのか?


そう考えた時に激しい頭痛がテッドを襲う。

「ぐぅぅぅぅっ!?」

「テッド!?やだどうしたの?大丈夫!?」


「大…丈夫…だ…」

「嘘だ、顔も真っ青だし苦しそうだし!」


ならば大丈夫か等と聞かなければ良いのにとテッドは思っていた。


「【治療】!」

シスターがテッドに向かって治療の祝福を使ってくれた。

手から優しげな緑色の光が現れてテッドを照らす。

その光のおかげか頭痛が大分マシになってきた。

暫くすると頭痛が落ち着いたテッドがリリオとシスターに向かって話をする。


「大丈夫だ。助かった。ありがとう」

「何があったの?」


「急に100日後を意識したら激しい頭痛に見舞われた。記憶がない事と関係しているのかもしれない」

「あ…、ごめん」


「テッドさんは記憶が無いのですか?」

シスターが驚きつつ心配そうにテッドに聞く。


「ああ、リリオ…水を持ってきてもらえないか?」

「いいよ」


そしてリリオが離れた所でテッドはシスターに向かって「オプトは知っているな?俺はオプトの家にある庭に何故か居た。起きた時に記憶が無かった。オプトは俺をプラスタと呼んで始まりの地から来たがなんらかのトラブルに見舞われたらしい。

今はこの街に神父が戻ってきて神に連絡を取ってもらう為にクエストを受けながら待っている。

そして俺には何故か複数の祝福があるらしいがオプトやここの僧侶達では全てを見られないらしい。その点でも神父を待っている」と説明をした。


「そんな経緯があられたんですね。わかりました。それでは水を飲んで落ち着かれたら日常に戻られた方が良いと思います。

恐らく記憶が戻らないのに未来を模索した事で身体が拒否反応を示したのでしょう。

まだ未完の首狩り蟷螂の巣の除去があります。

他の冒険者では少し心許ないのでテッドさんにお願い出来ませんか?」


「わかった。日常に戻れば頭痛は引くのだな」

「確証はありませんが恐らくは」


そこにリリオが水を持って戻ってくる。

テッドは水を飲み干すとリリオに向かって「首狩り蟷螂の巣の除去に向かう」と言い出した。

無論、リリオは頭痛を理由に心配したがシスターからも「記憶喪失と未来の話によるストレスでしょうから気晴らしに巣の除去をお願いします」と言われてしまいリリオは納得をするしか無かった。


「確か、神父が来るのは明日だったな。

首狩り蟷螂の報告は明日でも構わないか?」

「はい。実は除去が済めばイィト様のお力で教会には先にクエスト完了の知らせが来ますので精算は後日で問題ありませんよ。

まあ、量が多いと鑑定が大変なのでこまめには来てもらいたいですけど。

後、今後は私をご指名ください。

私はネイ。シスター、ネイです」


シスター…ネイはそう言って可愛らしく笑う。

毎回いちいち違う僧侶に説明をするのも手間なのでネイ1人に専と話が済むのはテッドにとってもありがたい事だ。


「それでは行ってくる」

「行ってきまーす」


「はい。お気をつけて」

その旅立つ背中を見てネイは呟いた。

「神話の祝福…、呪われた祝福…、大罪の祝福を授かりし者…その存在は善?それとも悪?」

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