第3話 駄菓子屋の人形




翌日僕は神社へ向かった。駄菓子屋のおじちゃんから聞いた話をバスケ部に伝えるためだ。



神社の本殿の周りは背の高い木が立っており、そのうち一本はとても太くて大きい。


くすんだ色の縄が巻かれている。


その木によって本殿の周りは木陰になっている。上を見上げると葉と葉の間がキラキラと光っているように見える。



いつもの本殿の横には和服のおじいちゃんと和服のお姉さんがいた。


美人でちょっと緊張してしまう。



「あなた、昨日私んちで美和ちゃんのこと聞いてた子よね?」



「みわちゃん?」



「駄菓子屋の娘さんよ」



「ああそっか!お姉さんはだあれ?」



「私は美和ちゃんの人形よ」



僕はよくわからなかったが「そうなんだ」と答えた。



「久しぶりに、美和ちゃんの話が出たから思わず出てきちゃったわ」



「おじいちゃん、知り合い?」


「まあこの辺のことはだいたいわかるから、知り合いといえば知り合いだな」


「私は美和ちゃんと一緒にお参りに来たことがありますのよ」


「それは覚えてるよ」


おじいちゃんとお姉さんは知り合いらしかった。



「あなた、美和ちゃんのこと知りたがってたでしょ?懐かしくなってちょっとお話したくなっちゃった」


僕はちょうどいいやと思ってお姉さんに聞かせてと頼んだ。



お姉さんの話によるとこうだ。


美和ちゃんはバスケ部の告白相手のことだった。


告白された日、美和ちゃんはすごく嬉しそうな様子で帰ってきた。


しかし、驚きのあまり返事をせずにその場から逃げ出してしまったとのことだ。



バスケ部のエースはわざわざ、中学校の校門の少し奥の方に美和ちゃんを呼び出して告白したらしい。


「県大会の決勝戦、絶対勝つから付き合ってください!」


「え、わわ!ちょっと待って!また今度返事するから!」



と言って駆け出してしまったらしく、ニヤニヤしながら家に帰ってきたのだった。



バスケ部のエースの話と合わせると、その後、彼は交通事故にあって告白も試合も頓挫してしまったようだ。


その後、美和ちゃんは結婚し愛する人の子どもを身ごもったが、出産がうまくいかず子どもは助かったが美和ちゃんは亡くなったとのことだった。


「おじいちゃん、今日はバスケ部いないの?」


「いないな」


「どうして?」


「さあ、どうしてだろうな」


お姉さんの話を直接聞かせてあげればバスケ部の無念も多少晴れるのではないかと思ったが、残念だ。


お姉さんが言った。


「それはね、できないのよ。私は彼のことを見たり聞いたりできるんだけどね」



「なんで?」


「それはね、彼が私を信じられないからよ」


僕にはよくわからない話だったが「そうなんだ」と答えた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る