第31話

ため息をついてから、ことさらに嫌そうに眉間のシワを延ばす仕草をしてみせます。

「……勿論、家事は一切やらないし、自分のアパートも相当汚なかった筈なのに、私が仕事のせいで家事を休日にまとめて済ませようとすると、文句を垂れ流しするし、わざとらしく咳をしてみせて、挙げ句の果てに『こんな埃だらけの部屋じゃあ寝られないから俺ベランダで寝る』とかほざくし、自分勝手なことばっかりで……」思い出すだに腹が立つというかんじで、水を飲み干して、テーブルの上にグラスを勢いよく置いてみましょう。三人共に身を縮めて、若干怯えたように聞き入っていますね。しめしめ。もうひと押し行きましょう。

「……しかもベランダで寝て風邪ひいたとかいって、病院代せしめた上にそのままパチンコに行ってパーっと使って、風邪引きで会社休んだら上司に叱られたって言って会社辞めて来るしでもう限界…」最低男のド定番、『ヒモ』への道まっしぐらです。

「………そ、それでどうなったんですか…?」それでも結末を知りたいという好奇心、恐るべしですね。

「……仕方ないから、『無職』でも『夫』だから2ヶ月位は面倒みたわよ。こっちは正社員で週休2日でフルタイム働いてるのに、帰ってきたら部屋で寝そべってテレビ見てるだけの奴に『メシ』『風呂』言われてどこの誰が我慢します?」昔と違って今は共働きが当然で、家事分担も当たり前。TVコマーシャルでも男性が掃除洗濯、料理にお風呂洗いまでこなす時代ですからね。やらない上に文句は言う。これが一番腹が立つ人物像でしょう。つらがよければギャップも際立ちます。三人娘の顔色がますます悪くなっていきますね。あとひと押しってとこでしょうか。

「…最後には、私の会社に仕事中に押し掛けてきて、『今日の俺の酒代とパチンコ代前借りしろ』よ。来た時点で既に酒臭い状態でさぁ……。お陰で前の会社は退職する羽目になったから、お金渡す代わりに離婚届けに判子押させて、私の借りてたアパートだけど、私が荷物まとめて出て行くことになった……というのが結末。」控えめに見えた小娘Bは自立心の強いタイプのようで、古臭い亭主関白の出来損ないみたいな話にげんなりしていますね。小娘Cは完全に気力を失って涙目になっています。

「……で…でも、今は真面目に仕事してますし…」小娘Aは涙目ながらもりょうを弁護しますね。まだ諦めきれないんですかね。私はわざと大きくため息をつき、

「私も最初に会ったときは、『この人には私がいないと…』くらい考えてたんだけどねぇ……」と呟きます。ヒモ男駄目男に捕まる女が陥りやすい考え方の典型ですからね。男にしてみれば、相手なんて結局誰でも一緒です。養って貰えたらそれでいいんですからね。私は三人娘の顔をじっと見ながら最後の一押しを繰り出します。

「あなた方も、今良い職場にせっかく勤めてるんだし、まだまだ若いんだからねぇ……。外面の良い男よりも、しっかり内面をみて、相手を選んだほうが良いと思うよ。あんなカス男、絶対根本変わらないんだから。人生棒にふらないようにねぇ……。あ、あと私の所は今後一切出入り禁止って伝えておいて。紙袋の中にも書いたけど……。」『あなたの為に』大作戦です。小娘Aもやっと涙目になって、納得してくれたようです。ふるふる小刻みに頷いています。ようやく目的を果たして、現在時刻はまもなく16時。私がわざとらしく時計を見ると、三人娘共に我にかえった様子でそわそわしはじめましたね。

『…やばっ……休憩長すぎたよー…』ひそひそ声で囁きながらこちらを伺っています。

「……じゃあそろそろ失礼してもよろしいですか?」立場逆転ですね。四人連れだって店内出口へ急ぎます。駐車場から私と別れて小走りになって事務所に戻る彼女達を見送って、一仕事終えた感じでのびをしながら車に戻ります。

「はぁぁー…疲れた……」車に乗り込むと後部座席から気配が。

「オツカレー。ばっちりカマしてくれたみたいじゃん。お陰でやっと平穏な毎日になりそうだー。」奴の名誉(あって無いようなものですが。)のために言っておきますが、『家事を一切しない』以外はまぁ、フィクションですよ。アヤカシは、“食費”が不要な分だけ貯金もありますからね。りょうは洗濯はしなかったものの、服は汚れたら捨てるか、アヤカシの仲間にあげるかしていましたしね。まぁ、今はさすがに寮生活で不審を招かない為にか洗濯機の使い方を覚えたようですが。文明の利器様々です。

「……甘味一つで済むと思うなよ。」私が脳内高速シュミレートのせいで糖分が欲しくなっているのを見越してか、ちゃっかりりょうは饅頭(一口サイズ、黒糖風味)をスタンバイしていました。もちろんお茶も。

ひたすら端から口に放り込み、お茶で流し込みながらも、『……これ美味しいなぁ……』と、ちゃっかり店名と所在地をチェックしておきます。アヤカシ好みの味です。

「じゃあ、また活きの良いのが入ったら連絡するわ。」そう良い置いて後部座席から奴は降りていきました。現在時刻は16時半過ぎ。

『……あ、洗濯物干しっぱなしだったぁ……』家に帰って湿気った洗濯物を部屋干しして、本日の休日は終了となりましたね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る