第25話
式場に戻ると流通センターの石上君が、大山さん達が花束用に取り分けた生花の残りの部分を撤収して、散らばった花びら等を左橋さんが片付けてくれています。
「…ありがとうございます。無事時間通り出棺しました。」まずは隣の小さなローズホールに
混雑している式場でそれをされると、座席を満席にすることができません。たとえ目に見えなくても、『気配』は感じ取れるんですね。お客様のご案内をする以前に、何故か『それ』の居る席が認識できなくなるようです。不思議なことに。私には空席が認識できるんですが、一体なにが起こっているのか謎のままですけど。まぁ、たいしたことができる『モノ』ではありません。不特定多数の人が出入りする場所には、大抵こうした『モノノケ』以前の何かが『棲んで』います。長い時間をかけて『凝って《こごって》』臨界点を超えると『形』がわかるようになりますからね。うちの式場のはまだまだ『子供』みたいなものです。あと100年はかかるでしょうね。アヤカシやモノノケの『時間』の単位は人間とは異なります。『十年一昔』なんてよく言いますけどねぇ。まぁ、どうやらこのままローズホールに居座るつもりのようなので、椅子を少し多めに用意してパールホールの手伝いをしに行きましょう。
式場内では出棺してから30分も経っていないのに花束の作成は完了して、掃除に取りかかっています。さすが仕事の早いベテランさんです。
「今回ご町内の方も御斎に着かれるので、花束はラックに載せて会食室のロビーにお願いします。初七日は
会食室のほうも、指示書の通りにセッティングして、準備は順調ですね。今日の会食室担当のパートさんは、先日左橋さんの式の担当だった中山さん脇野さんコンビですから、安心して任せられます。
「花束11束と、分け物が11袋ですので、会食終了後に喪主様から渡してもらうようにお願いしておきますね。お子様達はご親族なので、まとめて下座でお願いします。」中山さんに伝達事項を伝えると、
「はーい。わかりました。」ニッコリしながら中山さんが指示書にメモをとります。きちんとしたパートさんは必ず伝達事項のメモをとります。『聞いたつもり』でも細かい数字などはどうしてもうろ覚えになりがちです。下手すると、
「…じゃあまた、火葬場を出発された時間に上がって来ます。よろしくお願いしますね。」
「はいはーい。お疲れ様ー。」会食室のパートさん達に手を振って、事務所に戻ります。
「あーご苦労様。」事務所に入ると、山口係長の一言です。まぁ、立場からすれば、『上司』ですから、今回のは、間違いではありません。違いを理解しているのであれば。
「はい。W田家定刻通りに出棺しました。収骨してからの戻りです。西光寺様は若御院が、16時半頃にみえる予定です。」多分まだ、先日の
「はい、了解です。」係長がホワイトボードに連絡事項を記入していきます。もちろん私も記入された内容をしっかりダブルチェックします。ここでの『やらかし』も結構多いんですよ。この方は。
たまに遭遇しますが、『失敗』を、自分のやった行為の『結果』ではなく、『他の要因』等によって『引き起こされた』『不可抗力』的な『出来事』として捉える
『俺悪くねーし。』ってとこですか。人間としての成長は見込めませんね。某大国大統領に典型的なのがいましたね。『不都合な真実』は、決して認めないですからね。彼にとっては、『地球温暖化』も『フェイクニュース』だそうですよ。個人的には平安時代より江戸時代のほうが冬が過ごし易かったですし、江戸時代には、冬のさなかの道端の凍死者は良く見かけ、私の冬の定番ご飯でしたが、昭和になってからはそこまでの冷え込みは稀になりました。衣服や文明の進歩だけでは片付かない『何か』が起きているのは確かですけどね。まぁ、何を言っても彼らにとっては自分のためになることが『真実』ですから。私にしてみれば儚い人間の人生です。楽しい『夢』をみていればそれで構いません。前にもいいましたが、所詮『餌』です。頭の良し悪しは味に影響しませんからね。直接的な迷惑を被ることは避けたいですが。
「じゃあ適当に休憩して下さいね。」
「わかりました。」とはいっても現在時刻は15時すぎ。私は事務作業を片付けながらコーヒーと、事務所に常備してある差し入れの焼き菓子を頂きます。『脳』には『糖分』です。
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