第1話 邂逅

 耳障りなアラーム音で目が覚める。鉛の入ったような体を起こし、アラームを切り、TVをつける。

 少々作り物めいた美しさのある女性が、世の中で起こったことを日本に伝えていた。どうやら今回も日本政府は本当のことを明かすつもりはないらしい。TVの中で暴れるアイビーはいつも通りテロリストとして報道されていた。

 今、この瞬間も僕と同じように戦うことを生業にした世間一般で言うところのロクでなし連中がどこかで殺し、殺されている。それを知ってか知らずかハゲ頭のコメンテイターは旧人類の人権がどうのとしたり顔で語り、強い口調でアイビーを非難している。

 勝手なものではあるが、彼らも仕事だ。コーヒーと共に不快感を飲み干し、頭を覚醒させる。今日はD-roidのパーツのセールデイだ。僕は朝食もそこそこにホームから、マーケットへと繰り出した。

 D-roidは大戦当時の歩行戦闘機とよばれる兵器の流れを汲む巨大な人型のマシンである。戦後復興のために歩行戦闘機を改良して生まれたのだという。

 難しい操作もいらず、メンテンナンス性、カスタマイズ性も優れ、基本的には燃料を必要とせず、運搬や長距離の移動、ロボットコンテスト、リンク機能を用いたリハビリ、災害時の救助活動、そして戦争と様々な用途で活躍している。

 今日のセールは駆動系等の予備パーツで僕のように足を酷使する戦争屋には消耗品に等しいパーツでありたくさん持っておきたいのは人情というものだ。

 壁のような人だかりを掻き分け、目当てのパーツを確保し会計を済ませる。店を後にし、

 太陽が穏やかに照らす街並みを歩く。

 海の向こうの地獄がウソのようだった。画一的に並んだ建物はウィンドウから様々な商品がのぞいおり、人々は雑談に興じながら道を歩いている。スクールのだれそれが付き合ってるだの、どこそこの店がまずかっただの、ニュースのテロや政治批判。生き死にの絡まない雑談をのんびりとすることができる彼らは少なくとも生活の場を脅かされる旧人類よりは幸福なのだろう。

 とりとめもなく考えつつ足を進めて、ホームに戻ると違和感を覚える。ナノマシンで強化された感覚がホームに誰かがいることを告げていた。

 カバーストーリーがばれたということはないだろうが・・・いつでも銃を抜けるようにしながらドアを開く。

 身を隠しているが、お粗末な隠れ方であっさりと見つけられた。ため息が出る。

 どうやら今の日本にも海の外のような世界は割と身近にあるらしい。小さな侵入者の武器をうばい拘束するとしばらく暴れていたがこれからのことを想像したのかやがて泣き出した。

 感情的なのは旧人類だからか、まだナノマシンが適合していないせいか。本来なら警備局に突き出すのが筋なのだろう。だが、僕は彼女の話を聞いてからどうするか決めることにした。仕事とはいえテロリスト扱いが続いたのが思っていた以上にストレスだったのかもしれない。普段の僕とは違うことをしている自覚はあった。

 彼女は旧人類の保護施設から逃げ出してきたのだという。新人類の保護派の「守ってやっている」ような態度が気に入らなかったこと、そのくせ自分の故郷を守ってくれはしなかったことをつたない言葉で話していた。

 よくある話だ。新人類の施設を抜け出し、僕の家に侵入したというとびぬけた実力を無視すればだが。どこにでも転がっている旧人類の悲劇だ。そして、僕もそんな子供たちを作る側の人間だ。感慨等沸くはずもない。やはり、警備局に突き出そう。そう思って口にしたのは―――

「なら、家に住むかい?」

 僕の思っていたのとは、全く別の言葉だった。


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