あの道


「ああ、あの道ね……」

 綱さんは、その道の話を聞かれて、苦笑いをした。

 その道は、山中の一般道だった。道が細く、急カーブになっていて、その上に街灯も立っていない。

 あまり急いでいると、カーブに気付かずに突っ込んで、曲がりきれずに岩の壁に正面衝突することになる。

 いわゆる、事故多発地帯である。

 実際、死亡を含む事故は多く、申し訳程度にカーブの前に、小さな、死亡事故多発、急カーブ注意、の看板が立っている。

「今年ももう、二、三件は事故が起こってるんじゃないかな」

 毎年死亡事故が起こり、そこには花が絶えないのだ。

 で、有るにも関わらず、そこに街灯をつけようとか、別の道を通してこの道を通る人間を減らそうとか、そういう話は全くもって出ないのだという。

「それはね、この山に関係が有るんだよ」

 件の道が有る山は、かつて荒ぶる神が居たのだ――と伝えられている。

 山に入ったものを殺し、時として里まで降りてきて暴れるような神が。

 その神に、かつての村人たちは生贄を差し出して、荒ぶる神を鎮めていたらしい。

 何か災害が起こったりする度に、山に人を捧げてきた記録が、残っているという。

 無論、今の時代に、そんな事が出来るわけがない。

 だから――

「道をそのままにしておいて、年に数回、交通事故を起こしてもらうんだとさ」

 そうやって死んだ命を、贄の代わりにしているのだ。

 その事を誰も彼も容認しているのだという。

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