ぎらぎら


「ぎらぎらってゆーんだよ」

 ぎらぎら、とは小原くんが通っている小学校で、今年の夏から噂になっているものなのだという。

 ぎらぎら、は通学路に現れる、平面的な、水たまりのような何かであるらしい。その表面は重油のように光を乱反射しており、虹色に輝いている。それ故にぎらぎら、と呼ばれているのだという。

 ぎらぎら、は大きさも雨上がりの水たまりくらいで、現れる場所は固定されていない。と言っても、小学生が見ている前で何処かに移動したりするわけではない。

 その場から離れて――それどころか、目を逸らしている間に消えてしまい、また時間を置いてその場に訪れてもそこにはなにもないのだという。

 ぎらぎら、は必ず一人で居る時にだけ見つけることが出来るのだという。そして、それを見つけることが出来るのは小学生だけで、噂になっているのも小学生の間だけ、らしい。

 大人だけでなく、中学生や高校生の兄姉を持っている同級生が聞いてみても、そんな話は知らないと言われたのだと、小原くんは言っていた。

「ぎらぎらは何でも飲み込んじゃうんだ」

 ぎらぎら、の特徴は、それの中に入ったものを何でも飲み込んでしまう事なのだという。まるで底なし沼のように、ぎらぎらに入る大きさの物であるなら、なんでも。

 小原くんも一度、ぎらぎら、を見つけた事があるのだという。

 それは、ある日の帰り道だったという。

 一人で帰っていた小原くんは、細い道の端の方に、光を乱反射する水たまりのようなもの……ぎらぎらを見つけたのだという。

 噂のそれを見つけて、小原くんは噂の通りに何でも飲み込んでしまうのか、試してみることにしたのだという。

 まずは、少し離れた位置から、少しだけ削り落とした消しゴムを投げてみた。

 何度か道路の上を跳ねて、消しゴムはぎらぎらまで到達する。その瞬間、消しゴムはぎらぎらに飲み込まれて消えてしまったのだという。

 奇妙なのは、水面に何かを投げ入れたときのように、ぎらぎらに波紋が起こったりはしなかったことなのだ、という。

 どちらかというと、まるで真っ黒な落とし穴の、何処まで続くかもしれない深い闇黒に消しゴムが飲み込まれたかのような。

 面白くなり、小原くんはそのままいくつかのものを投げ込んでみた。

 その辺に落ちていた小石、ポケットの中にあったゴミ、空のペットボトル……それら全てを、ぎらぎらは飲み込んだのだという。

 本当になんでも飲み込むのかもしれない……そう考えて、小原くんはあることに気付いたのだという。そして、恐ろしくなって、その場から逃げ出した。

「ぎらぎらを見たのはその一回だけだよ」

 ……小原くんの小学校では、今年の夏に入ってから三人の行方不明者が出ている。

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