どうして


「夜、帰り道を歩いてたんですよ」

 一ノ瀬さんはそう言った。

 最寄り駅に降りて、家への帰り道。たまにはいつもと違う道を行こう、などと考えて、普段通らない道を歩いていたらしい。

 普段通らない道は人通りも少なく、車も通れないほど道幅も狭く、街頭が、ぽつ、ぽつ、と妙に距離を開けて立っている所為で、やけに薄暗い。

 とても今の時代とは思われない道だった。

 しまった、失敗したかな、などと思いながら、足早に家路を急いでいた。

 そんな中だった。

「人を、見つけたんだよ」

 恐らくは女性だったのだ、という。

 電信柱の根本に座り込んで、顔を隠している。

 しくしく、しくしく、と泣いているように肩を震わせている、白いワンピースに、黒い長髪の女。

 一ノ瀬さんは、その女が酷く不気味に思えたのだという。

「だから、無視して通り過ぎようとしたんだ」

 足早になって、その女を見ること無く、急いで通り過ぎようとした。

 そして、その女の横を通り過ぎた瞬間だった。

 どうして無視するの――

 耳元に息がかかったのが、一ノ瀬さんは分かったという。

「さすがにびっくりしたし、後ろを振り向いたりしないで、一気に走って逃げ帰ったよ」

 一ノ瀬さんはそれ以降、その細い道を通ったことはないという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る