人形の腸
「最初は普通の人形だと思ったんだけどね」
長田さんがその人形を手に入れたのは、古道具屋だったという。
店頭に並んでいるのを見て、目を引きつけられたのだ、と長田さんは言う。
その人形は、親が幼児に与えるような、子育て人形のようなもののように、長田さんには見えた。
なんでそんなものに惹かれたのか、それは今となってはわからないという。
大した値段でもなかったので、衝動買いしてしまった。
「で、買う時に、お店の人に聞いたのよ、これなんなんですか、って」
店主の老人は、それを聞いて首をひねったのだという。纏めて持ち込まれた品物の一つだから、来歴も分からないし、なんという商品なのかも分からない。
買ってくれるなら少し安くしよう、というので、長田さんは喜んで買ったのだという。
「で、それを手に取ったんだけど、なんか重みが有るのよ」
その手の人形は、子供が持ち歩いたり出来るように、重さは抑えられているものなのだという。
だが、長田さんがそれを手に取った時に感じたのは、ずしりとした重量感だったという。まるで、中に何かが入っているかのような。
気にはなったけれども、まぁ買ったものだしこれぐらいは良いかと思いながら、それを家まで持って帰ったのだという。
寝室、ベッドの近くに人形を置いて、その夜は眠りについた。
「最初はちゃんと眠れてたんだけどね……音がして目が覚めたの」
長田さんは、深夜の物音で目が覚めたのだという。
それは、かさかさ、かさかさ、という、何かが擦れるような音だった。暴風で揺られた樹木が、葉を擦らせているかのような。
聞き間違いか、とも思ったけれども、音はどんどん大きくなってくる。
これでは寝られない、と思って、長田さんは音の元を探ったのだという。
そうして、音の元を辿ってみたら――
「まぁ、人形だったわけ」
買ってきた人形から、がさごそ、がさごそと音がしていたのだ。
まるで、人形に中身があって、それが動いているかのように。
「もしかして、動く仕組みでもあったのかな、って思ったんだけど」
店主も良くわからない代物だったのだし、そういう事があってもおかしくはない。中古品だし、動く仕組みが何か故障して、今になって動き出したのかもしれない。
その仕組が、持ったときのずっしりとした重さの正体だったのだろうか。
もしも、その動く仕組みが電池で、古い電池が入ったままだったりすると危険だろう。そう考えて、長田さんは身体をベッドから起こして、人形を手に取って開けてみた。
そして、中身を見て、ひぃ、と声を上げた。
「骨、だったんだよ」
人形の中に入っていたのは骨……それも恐らくは、人間の骨だったのだという。それが、動力もないのに、がたがた、がたがたと、震えて擦れて、音を立てていたのだ。
長田さんは声を上げて、自分の家から出ていった。
朝になると、お寺に連絡を入れて、この人形と骨を引き取ってもらったのだという。
骨を引き取ってもらったお寺の住職によると、入っていたのは幼子一人分の骨だったそうだ。
子供をなくした母親が、骨壷代わりに子供の玩具にその子供の骨を入れていたのだが、母親が亡くなるなど、何らかの理由で人形が骨が入っているなど知らない内に処分されてしまい、それが古物商に渡ってしまったのだろう。
それを引き取ってしまったのが、長田さんだったのだ。
「ここに居るって、見つけてほしかったのかね……」
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