第十二話 家族再会

 軍艦には、誰も入ってはならぬ場所が御座ります。


 船内地図は御座りませんので、どの部分とは申せませんが、初めの頃に手掛けた船室は、入室ご法度で御座ります。

 ただし峰は、直接に知っているわけでは御座りませんので、軍艦七不思議と申せば宜しいかと。。


 船の建造には、得手して時間がかかります。

 それは最初に作られた部屋で、換気など致しておりませなんだ。

 それ故に空気の入れ替えなど無く、いつしか腐った空気が毒となりまして、一瞬に人の命を奪ったそうで。。


 何とも申し上げにくい…………七不思議にて。。


 呉市内に御座りました海軍工廠かいぐんこうしょうの寮から、家族を呼べる社宅へ移れるように話が決まり、峰は大阪まで出向いて参りました。


 国鉄大坂駅の改札にて待てば、堺より子供を連れた嫁が参りまして、晴れて今日から一家が揃う、新しき日々の始まりで御座ります。


 まぁ困った事に、一才になりました次女が峰を見て、「よそのおじちゃん」と声を上げた折には、凹みに凹んだ峰で御座りました。


 家具は堺の実家に預けまして、身の回りの着替えだけ持って参った次第で、生活に必要な物は先に広島駅の預かり所へ送って御座ります。


 嵩張る物は、幼い次女の枕蚊帳まくらかやのみ。

 これはおおきゅう大きくなった長女が抱えておりました。

 枕蚊帳まくらかやと申しますのは、幼い子供に蚊がたからぬよう、蓋を被せるごとく差しかける蚊帳の事で御座ります。


 骨は丈夫な竹籤たけひごを使い、目の荒い麻や木綿の生地で御座りまするので、嵩張るわりには、そうそう重い物でも御座りませなんだ。


「ええか? よそ様が何と言おうと、絶対に離したらいかん」


 何気なしに長女へ言いつけました言葉を、峰は生涯、悔やむ事になるので御座りました。

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