第四話 厄払いと 善哉《ぜんざい》

 幾度かの年を越え、峰も随分とおおきゅうおおきくなりました。

 御店おたなの雑用は新参者に譲り、外回りの仕事を与えて頂きまして、今流行いまはやりの自転車で、お客様のお宅まで御用聞ごようききに参ります。

 己がすっぽり入るくらいの籠が荷台に御座りますので、お預かりした洗濯物を、山のように詰め込めば、前輪が浮き上がって難儀致します。なんともばつ具合の悪い見栄えで御座りましょうか。。

 荷台の籠には、丈夫なほろの覆いが垂れて御座ります。これに屋号が描かれて、どこの何者かも一目瞭然いちもくりょうぜんで御座りました。

 お揃いの屋号を入れた前掛けに、粋な鳥打ち帽ハンチングを被り、これも背中に屋号を入れた法被姿はっぴすがたの峰を見て、頬を赤らめる女子おなごしもおりました。 

 まぁそれはそれ、朴念仁の峰で御座りまするので、ついぞ気付かぬは花、で御座りましょう。。

 御用聞きに回るのも、ずいぶん馴れた年明けで御座りました。

 仕上がった洗濯物をお届けに参りますれば「どうぞお入りやす」と、奥へ案内あないされまして、大きなお椀いっぱいに、ぎっしりと小豆の入った善哉ぜんざいを出されました。

 き立ての餅の白さに、思わず喉を鳴らした峰で御座りまするが、これを頂いても良いものかと、不安で箸を取れませなんだ。

「遠慮のう、おべやす。ささ、どうぞ」

 にこやかに勧めて下さったのを機に、間違えていたならば謝ろうと、峰はなけなしの根性で腹を決め、箸をつけたので御座ります。

 その日はどこの御店おたなでも善哉を勧められ、腹一杯に幸せな気分で帰った峰で御座りますが、勝手な事をしたと叱られる覚悟を決めて、恐る恐る番頭さんに伺いを立てました。

「今日は、祭りか何かで御座いましょうか」と。。

 普段は厳しい番頭さんが、にこりと笑ったのに仰天したのは、内緒で御座ります。

 叱られるときは震えるほど怖いのに、笑ったほうがもっと怖かったとは、口が裂けても申せません。

「厄払いの行事に行き合わせはったんや。たんとよばれてたくさんいただいてよろしおしたよかった

 いろいろと新しい事を経験させて頂いた、峰で御座りました。

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