第三話 丁稚羊羹《でっちようかん》?

 島を出て、峰が一番に思いましたのは、はよう仕事を覚え、己の店を持つ事で御座ります。そうすれば、好きなものを腹一杯食べられる。

 いつもすきっ腹を抱える小僧ならではの、夢で御座りました。

 そうして己が主人あるじとなった暁には、奉公人に思いはさせぬと、心に決めたので御座ります。

 己に合わせて周りを測る。

 えにしを繋ぐ人様ひとさまが、そのような己の単純さを、何と受け取るのであるか、まだまだ推し量る術の幼い、峰で御座りました。

 そんなこんなで一年が行き、年末の薮入やぶいりの日がやって参りました。

 先だってのお盆には、実家より帰参は不要と手紙が参りましたので、御店おたなの隅で肩身の狭い思いをした峰で御座ります。

 まぁそれはそれとして、正月で御座りますから、薮入りする奉公人に上等の羊羹を持たせて下さりました。

 それが界隈の習わしで御座りまするのかどうかは、存じません。

 久しぶりの海は、少々荒れてございました。

 海の揺れには慣れていた筈の峰で御座りまするが、船を降りた時には、あまりの気持ち悪さに、へたり込んだので御座ります。

 それでも故郷の土を踏んだ峰は、老舗から取り寄せた立派な桐箱入りの羊羹を、必死に抱えておりました。

 山道を登り、やっとの思いで帰り着いた実家では、母親が寒天を、己より羊羹を待っていたと気付かされ、なんとも言えぬ心持ちが致しました。

 身も蓋も無いとは、これの事で御座りましょうか。。 

 丁稚が持って帰り、寒天で嵩増かさまし致しました水羊羹は、格別の味で御座りました。

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