第二話 朝餉の事

 丁稚でっちの朝は、早う御座ります。

 それこそ暗いうちに寝床を離れ、仕事場の掃除に掛かるのが、躾の始まりに御座りました。

 一日でも二日でも、先に御店おたなへ上がった者が、目上の雇われ者で御座ります。

 なれば一言の言い訳も、赦される相手では御座りません。

 ああせよ、こうせよと、命ぜられれば意のままに、動かねばならぬのは、新参者の立場と言うもの。

 不平不満は、ご法度で御座ります。

 峰はしっかり者で御座りまするが、性根は至って素直で御座りました。

 それが故に、日にちが経ちます毎に、皆様から可愛がられるようになったので御座ります。

 さてさて、朝の掃除が終わりましてから、やっと朝餉あさげを頂けるので御座りまするが、大きな釜に炊き上げた粥は、実に薄い物で御座りました。

 頂ける順番は、丁稚からで御座ります。

 まかないの女中が根性悪でないならば、多少はかき混ぜて飯粒をよそってくれますが、滅多にそんな事は御座りません。

 初めて頂いた粥に、自分の目玉が映った時は、泣きたい思いで肩を落とした峰で御座りました。

 丁稚が終われば職人へ、手代や番頭を経て御店おたなの主人によそって参りますが、後になるほど飯粒の数は増えて御座ります。

 なんとも哀しい事で御座りました。

 これも皆、試練で御座りましょうか。

 丁稚のあいだは、為人ひととなりを試されるのが道理で御座ります。

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