第26話聖地アウグスブルクにて

 俺様とアルは馬車で聖地アウグスブルクへ向かった。1か月位の馬車の旅はもう結構です。旅にはあーちゃんが随伴してくれた。流石にお嬢様の俺様にアルと二人きりの旅行はまずいのだろう。それに、俺様、大抵の事は一人で出来ん。仕方ないだろう。そういう境遇なんだから。


 俺様には聖なるローブと聖なる杖という初めて見る物が与えられた。初めて見るRPG的なものに心が躍った。もしかして、俺様って戦いの聖女だから、凄い覚醒があって、強くなるの? て思ったが、それは無いらしい。戦いの聖女は普通の聖女の様に癒しの魔法の他、勇者を強くする聖なる歌を歌う事ができるそうだ。つまり、アルを強くしたり癒したりする事は出来るのだが、俺様自身は全然強くならないそうだ。俺様がっかりだよ。せめて、魔人剣位使いたかったよ。


 馬車の中で、俺様は治癒魔法や聖女の歌を必死に覚えた。これができないと、アルも俺様も命に関わる。そりゃ必死になる。何より、あーちゃんも一緒に旅するんだ。あーちゃんが死んだりしない様、頑張らないと!


「しかし、この歌って?」

「そうですよね。この歌って!」


 聖なる歌は何故かドリカムの歌ばかりだった。俺様はドリカムは少し好きだったから、ほとんどの歌が簡単に覚えられた。それにしてもこの世界の人達って、いつものブレーキランプ 5回点滅 ア・イ・シ・テ・ルのサインとかって、意味分かるのかな? かなり無理がある様な気がする・・・


 ちなみに魔の鏡を壊す時の歌は「決戦は金曜日」だ。なんか適当なチョイスだな。


 そうこうして、あーちゃんの用意してくれた治癒魔法の魔法詠唱例、通称薄い本は全て暗記したし、ドリカムの歌もとい、聖なる歌は全部覚えた。こうして、聖地アウグスブルクに到着して、即、俺様達は北の魔境に入った。魔境には魔物が今でも出没すると言われている。入る者はいないから、真相は不明だが、言い伝えではそうだ。それにアルが言うには、間違いなく、魔物はいるそうだ。この世界に勇者や聖女がいるのは、魔王が万が一復活した際、戦いの先陣を務める為だ。我がアトランティス王国に魔法使いが多いのも、魔王が復活すると言われる魔境に近く、万が一魔物が人を襲ってきても、戦う事ができる魔法使いを擁する必要がある為だ。


 そして、俺様達3人は魔境に入った。あーちゃんは魔境でもメイド服だ。俺様は聖なるローブ。一見、そんな格好で、魔境に入ったら? という出で立ちだが、俺様のローブもあーちゃんのメイド服も魔法がかかっており、破れたりしない。万が一破れても自動修復装置付きだ。現代日本を凌ぐ技術がある事に驚いた。




そいつらは突然現れた。ゴブリンだ。



「クリス、アリシアさん、僕の後ろに隠れて!」

「そうはいくか! 俺様も戦う!」

「わかりましたクリス様」


こうして、俺様とアルは5匹のゴブリンと対峙した。


シュン


と残音を残すとアルは姿を消して、ゴブリンをたちまち2匹を血まみれにする。俺様は・・・


「あ、はっ、はあっ、うわあぁぁああ! た、たずげ……たずげでぐれえぇぇぇぇぇっ!」


俺様はアルが倒して肉片になったゴブリンを見てビビった。俺様だからスプラッタは駄目だってば!


ゴブリンが俺様に1匹近づいて来る。


「ぎゃっ、ぎああぁぁあああああ!」


俺様、無理、無理、無理、ちっちゃいけど、ゴブリン、顔が凄い怖い!


ザシュ!


 気が付くと、アルが俺様の目の前のゴブリンをあっさり倒す。だから、なんでアルはそんな簡単に生き物の命が奪えるの? 子供の頃、虫も殺せなかった癖に。俺様がトンボにひもを付けて飛ばして遊んでいたら、トンボの首がとれちゃつて、アルが泣きべそかいた記憶がある。そんなアルが平然とゴブリンとはいえ、簡単に命を奪えるのが信じられなかった。


「あ! あーちゃん! 危ない!」


 俺様は自分の前のゴブリンに気を取られている隙にあーちゃんの前にゴブリンが迫っていた。まずい、結構距離がある!


「アル! お願い!」

「ああ! わかってる!」


シュン


という残音と共にアルの姿が消える。そして、


ザシュ!


という、剣の斬撃の音が響く。しかし、ゴブリンを倒したのはアルではなかった。


「学生時代の学び事が役に立つとは思いませんでした」


シュッ!


という音を立てて、あーちゃんが剣を振り、ゴブリンの血を払い、剣を鞘に納める。


「見事な太刀筋です。何処で剣を修められたのですか?」

「騎士学園中等部と高等部で剣を学びました」


 嘘でしょ? まさかのあーちゃん強い設定? 嘘でしょ? 俺様、好きな女の子を守れない処か守られるの? 絶対・・・嫌やぁぁぁぁぁ!!!!!!!


少し、アルとあーちゃんが話すと、アルが提案をしてきた


「クリス、君が優しく、生き物を害せない聖なる心の持ち主な事は判ってる。だけど、この魔境ではその優しさは危険だ。クリスにも心を鬼にしてもらう必要がある。いざという時の為に・・・そこで、練習してもらいたい」


 畜生、俺様、そんな聖人じゃねぇ! 単に、びびってるだけだ! 実はお前の事、密かに毒殺しようと考えた位の女だ! 畜生、悔しくて涙が出てきた。


「ああ、クリス、ごめんよ。清らかな君に魔物とはいえ、生き物を害する事を強いる事がどんなに罪な事かは判っている。だから、そんな顔で泣かないでくれ。これは君の為なんだ」


俺様、悔し涙を流してる処を勘違いされたでち・・・


「一匹、傷が浅いゴブリンがいた。まだ、命はあるが、長くはない。君はこのゴブリンを倒すんだ。場合によっては君の命が危ない時がやってくる。せめて、魔物に聖なる杖で殴れる位の強さをもって欲しい。僕だって、君のそんな姿は見たくないんだ。だけど、僕は君の命が一番大事なんだ。わかってくれ」


「わ、わかったよ・・・アル」


 俺様は気が進まないが縛られて、無抵抗のゴブリンの前に聖なる杖を持って立った。幸い、ゴブリンは血とか内臓を出してない・・・あれ? 血とか内臓出てないと、平気だぞ! それにこのゴブリン縛られていて、反撃不能だ。絶対に安全な処にいて、なぶるだけなら、俺様でもできそう!


『ひーひっひ、ゴブリンめ、さっきはよくもビビらしてくれたな! 無抵抗で、絶対安全なら、俺様決してびびったりしないぞ!』


心の中で最低な叫びを叫びながら、ゴブリンを杖で殴った!


ドカッ! ドカッ! ドカッ!


『か・い・か・ん』


無抵抗の小さい魔物を殴って、俺様凄い気分良くなった。俺様最低でち。


ブシュッ!!


「えっ!」


 俺様は驚いた。俺様の杖がゴブリンの頭にクリーンヒットすると、ゴブリンの頭がスプラッタになった。


「うっ! うぇぇぇぇぇぇ!」


「大丈夫か? クリス?」

「大丈夫ですか? クリス様」


「あひっ、ひいいぃぃ……ゆ、ゆるじて……! 死なないで……止めて…死な”な”い”ぃぃぃっで! 謝る、謝るがらぁっ!」

「ク、クリス、すまない!」


 アルは腰を抜かした俺様を抱き起すと顔を近づけた。このイケメンは心臓に悪いんだよ! アルは元々整った顔をしていた。でも、いつも陰気臭く、イケメン臭はなかった。でも、勇者となり、自信をつけたアルはイケメンに成り下がった。幼馴染でも、イケメンは敵だ! 例えアルでも駄目!


 アルは俺様を強く抱きしめた。また、嫌な予感がした。心配してくれるのは嬉しいんだけど、俺様を女の子として見るの止めてくれない? 頼むからマジで! まさか夜のおかずにしてないだろうな? いつの間にか俺様を使うなよ! 頼むぞアルの自制心!


 アルは更に俺様を強く抱きしめると、言葉を紡いだ。


「クリス、僕の愛しい人。僕に君を守らせてくれないか? 例え、君の想い人が僕じゃなくても、想うだけならいいだろう? 守るだけならいいだろう?」


 長い睫毛が物憂げにその瞳を隠す、アルの体がふいに動いた。アルは俺様の頬を両手で支えて、俺様の顔を持ち上げる。アルは笑顔を見せる。アルの吐息が近くに感じる。そして、俺様の胸が高鳴った。なんで、こんなに胸が高鳴るんだよ!


「クリス」

「はい」


 俺様は何故か恍惚とした表情でアルを見上げると、また、アルに頬を触れられた。俺様から細く、震える吐息がこぼれる。俺様が拒絶しないからだろう、アルはゆっくりと顔を寄せた。漏れた吐息が重なる。お互いの唇が触れあいそうになる、その時!


「これ以上はお金取るよ!」


 アルの唇を俺様は人差し指で抑えていた。いつもの自分にギリギリ戻った俺様はアルの溶ろけた顔と対照的に冷静な表情で一言発した。




 ヤバい。ヤバかった。体が女の子だからだろうか? アルにドキドキした。胸が高鳴るってこういう事? 俺様、アルにドキドキしたの? ヤバい、俺様事態が流されそうになった。ホント、やばかった。あぶなく、アルの女になる処だった。




恋愛感情ゼロです。ごめんなさい。申し訳ないです。本当に。見逃してください…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る