第24話イェスタの求婚

 いつもの様にアンとアリスに揶揄われる......


「クリス様の睫毛長すぎないですか?」

「そうね。凄い長いわね。いいわね。付け睫毛いらないわね」

「いや、二人だって、凄い長いじゃん。なんで俺様だけ睫毛言われんの?」

「それはね!」

「クリスが一番可愛いから!」


「ひっ! あ”っ、んあ”っ、んあ”あ”あ”あ”ん”ん”ん!!」


「クリス様、可愛くなりすぎだからね」

「本当ですわ、睫毛そんな長くて、お人形さんみたい」

「「クリス(様)、可愛過ぎる!」」


「ごめ゛んなざい! ごめ゛ん゛なざい! ゆるじでください!! だからもう、言わないで……からかわないで……」


 俺様は悶絶していた。ここしばらく、アンとアリスに散々いじられてる。アンのいじめは無くなったのだが、この変ないじめは止めてくれなかった。何度か土下座して、お願いしたんだが、しばらくしか効果が無い。いい人達なんだけど、時々俺様をいじめる・・・俺様前世でいじめはした事あったけど、いじめられた事はなかった。ごめんなさい、ごめんなさい。あの頃のみんなごめんなさい。きっと、これはあの時の因果応報だ。女の子相手に凄んだり、暴力を振るう訳にはいかない。かといって、アンやアリスに口で勝てそうになかった。


「ごめ゛んなざい! ごめ゛ん゛なざい! ゆるじでください!! わだじがぜんぶわ゛るがったでず! だからゆるじでください!!」


 俺様は今月何度目かの土下座をした。これするとしばらくは収まるんだけど。しばらくすると二人共忘れるんだよ。俺様、まいっちんぐ。


「うーん。駄目ね。最近分ってきたけど、クリスの土下座には心がこもっていないのよね」

「そう。そもそも、クリス様は何も悪い事してないのよ! だから土下座されてもねー」


 いや、なら、何でいじめるの?

・・・誰か、助けてください……お願いします。誰か俺様の屈辱を晴らしてください!


「もー、いい加減、自分が綺麗で可愛い事認めなさいよ!」

「そうですよ。クリス様! 謙遜するから、からかいたくなるんだから、認めちゃった方が楽ですよ」


「俺様、可愛くない、綺麗なんかじゃない・・・汗臭いし・・・」

「女の子がそんな事言っちゃ駄目です!」

「そうです。クリス様は美しくて、可愛いんです!」


「お、俺様が自分の事、可愛いって言ったら、許してくれんの?」

「おっ! ようやく自覚の兆し?」

「随分時間がかかったけど、ようやく、自己評価できる様になりましたね」


「じゃ、俺様は・・・か・かわ・い・いからゆ・ゆる・して・・・」


 顔が火照る。何を言っとるんじゃ! 俺様は! 屈辱だ!

でも、これで、許してくれるなら・・・


「ようやく、わかった様ね」

「そうみたいですね」


「じゃぁ! 許してくれるの?」


「何を言ってるの?」

「そうですよ。クリス様。可愛い自覚があったら、可愛いと言われたら嬉しいでしょ?」


「や……やめ……っ……やめてくれぇぇぇえええっ!」


 これはやっぱり報いなんだ。前世の報いなんだ。だって、それじゃあ、無限ループじゃん!


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーん」


 俺様は今月何度目か・・・泣いてしまった。情けないでち・・・


「君達・・・クリスティーナ穣は本気で嫌がってる様に見えるが・・・」


 声をかけてくれる人がいた。助けてくれる人が! 俺様はその聖人様を上目遣いに見た・・・・・・駄目だ。この男に助けられる訳にはいかない・・・その男はパシフィス帝国第四王子イエスタ・メクレンブルグだった。金髪碧眼のいかにも王子様という出で立ち・・・俺様から殺意が湧き出て来ているのが誰にでもわかるだろう。イケメンは例外無く俺様の敵だ。こいつだけには助けられたくない! 頼む! 誰か俺様に安らぎを与えてくれるフツメン! フツメンに助けられたい!


「だ、大丈夫だから!」


 俺様はきっぱり、はっきりイェスタに言った。今月何度目かの台詞を言った。お前には助けられたくないんだよ! 誰がイケメンの助けなど享受するか! イケメンは死ね!


「し、しかし」


 イェスタは困惑した顔をするが、俺様はなおも続けた。


「いつものおふざけだから。本気じゃないから、気にすんな!」


 一喝するとイェスタはその場を去った。いつもの様に・・・なんでフツメンは助けてくれないんだよと心の中で叫ぶ。


「ねぇ、アリス様・・・クリス様、本気で嫌がってませんか? ぶってるんじゃ無くて、マジに・・・」

「まさか、そんな女の子いる訳が・・・」

「でも、クリス様つて、変な女の子ですよ?」

「そう言われてみれば、クリスはどこに出して恥ずかしくない変な女の子ね」


 二人はようやく、俺様が本気で嫌がってる事に気が付いたらしい。普通気が付かんかな? これだけ嫌がって、土下座までしてるのに・・・


「クリス、本気で嫌なの?」

「クリス様、私、クリス様を傷つけてたの?」


「お、おねひゃい、します。俺様、恥ずかしいし、そんな事言われたくない」


 気が付くと、俺様の頬に涙が伝わっていた。涙で、二人は気が付いたんだ。俺様が嫌な事に。


「ご、ごめんさい。クリス、私、てっきり、もっと言ってと言わんばかりに、ぶってるのかと思ってましたわ」

「わ、私も、クリス様欲しがりなんだからって・・・思ってた」


 二人は何度も俺様に謝った。そして、俺様をこの手の事でからかう事はなくなった。



 作者より解説。クリスは本気で自身の美貌に気が付いていない。あまり鏡見ないし、周りにアリス、アン・ソフィ、ベアトリスという美少女ばかりで、美少女の基準がおかしくなっている点もあり、二人に単にからかわれているだけと思っている。フツメンが助けてくれないのも、気後れして、誰も声がかけられないのだ。クリスは悪役令嬢の悪い顔でなく、普通に笑顔になると、びっくりする位の美少女なのだ、実は!



 そんなこんなで、中等部入学から1年、アリスとアンの変ないじめも無くなったが、二人共、何故それ程嫌がるのか、不思議に思った様。だが、嫌なものは嫌な事はわかった。二人は元々いじめっ子気質ではなかったので、意外とあっさりこの件は収束していた。



 そして、2年生進級前の、恒例の記念パーティが催された。新学年が始まった後、毎年開催される懇親会を兼ねたパーティだ。このパーティは全学科合同だ。毎年何組かカップルが産まれるらしい。悲しい事に婚約者がいる身のクリスには関係ない話だが・・・いや、男の婚約者がいる時点で悲しみが止まらないらしいのだが・・・その筈だったが、やっぱり、あれが来てしまうのである。新しい男からの求婚・・・もちろん、イエスタ・メクレンブルグだ。彼はなんとクリスとカールが婚約している事に気が付かないままここまで来てしまったのだ。



 パーティはダンスパーティの形式だ。中の人が男の俺様にとって、メンドクサイ、よしんば譲って、婚約者のカールと踊るのは義務みたいなものだが、他の貴族のとの調整がメンドクサイ。誰と踊るとか、踊らないとか、誰と話すとか、話さないとか・・・俺様のスケジュールは秒刻みなのだ。父ちゃんがこの国一の貴族な為、俺様と踊る事も話す事も、有力な貴族の子息、令嬢にとっては重要な仕事なのだ。もちろん俺様だって、自分の家の為、仕事する。ホント、何も考えずに遊びたいもんだぜ。それに加えて、当日、どんなドレスを着るとか着ないとか・・・お色直し4回もあるんだぜ? 信じられないだろ? 結婚式の花嫁よりハードだぜ? なんでかって? 勝手に各方面から寄贈されて、相応の相手だと、着ないと失礼になるんだ。だから、1日に4回も着替える羽目になった。しかも、ドレス変えるだけでなく、髪型まで変えるんだぜ? 信じられない! 俺様も流石に慣れてはきたが、貴族世界のもったいなさに辟易とする。すべてにおいてメンドクサイし、もったいない。


 とはいうものの、ブラック企業戦士の俺様は手を抜く事もできず、全力で令嬢の任務を遂行していた。既に俺様の頭には当日のスケジュールがミッチリだ。遂行完了する前にゲロでそうだ。特に、スケジュール表に書かれた帝国第四王子イエスタとのダンスが頭が痛い。カールも大概嫌いだが、俺様はこの超絶イケメンが大嫌いだった。とにかく、イケメンは嫌いなんだよ! なんで、よりにもよって、こいつと踊らなあかんのだ? 父ちゃんから頼まれたから断れる筈もないが、あまり、俺様の家にはメリット無い筈だから、余計嫌になる。



 ダンスパーティーが始まった。俺様は最初のお相手アリスの兄のアクセルだ。ドレスの裾をあげて挨拶をする。金髪は今日は揺らめかない。バレッタで留めて、アップにしている。そして、恒例の手の甲へのキス。だから、そんな事してたから、コロナ流行るのだよ! 


「クリスティーナ穣、私と是非一曲」


アクセルが優雅に挨拶する。


「はひっ、ひひひっ……ひいぃっ……」


俺様はさっきのキスで悪寒がまだ止まらない。声が上ずり、小さな声でやっとこさ、答える。


「噂に違えぬ美しさに加えて、 なんと愛くるしい!」

「ひゃぁい! アクセル様も素敵です」


 心にもない事を言って、心の中で毒ずく。さっさと死にさらせ、例えアリスの兄ちゃんでも、イケメンは敵だって、昔から言ってるだろ? 心の中で!


 何とか一曲、踊り終える。悲しい事に英才教育されている俺様のダンスは完璧だ。間違っても、殿方の足を踏んずけたりしない。


 そして、小一時間位は踊ったろうか? ようやく後二人で、終わり、ラストは俺様カールと踊る事になっている。正式に婚約している者同士はだいたい最後のパートナーとなるのがしきたりだ。そして、その前に奴がいた。イェスタだ・・・・・・


 流れ作業的に既に手は少し出してる。キスを手の甲にスムーズに受ける為だ。そして、イェスタは流石に王子様だけあって、素早く俺様の手をすくう様に取る、そして、唇が触れるか触れないかの手慣れた技だ。腹立つ、これだけ慣れてるとムカつく! だが、俺様は直後に固まってしまった。何故って? イェスタは予想外の行動をしていたのだ。彼は俺様の前で跪ずいていた。何故に? 俺様混乱する。帝国式のマナーももちろん学んでいる。未来の王女様だから、無理やり学ばされている。しかし、こんなマナー知らない。こんなタイミングで跪ずくなんて、それこそ、急な求婚位・・・求婚? 求婚位・・・まさかね・・・俺様売約済品だし、できれば非売品にして欲しい。


「クリスティーナ穣、お慕いしてました。私の求婚を受けて欲しい」


 唐突にイェスタは求婚した。俺様どうなるの? 婚約者いるのに求婚されるとどうなるの? 無いよね? 浮気じゃないもん! 死刑? そんなのあまりにも酷いぞ!


「いひっ、いぎっ……ぎいぃいいい……ぎゅっ、ふっ、ぐううぅ……!」


 ああ、もう変な声が出る。もう、訳判んない。誰かたちけて!


「これはイェスタ王子、私の婚約者が何か粗相でも?」

「婚約者?」

「こちらのクリスティーナ穣は私の婚約者です。七歳の頃から・・・」

「なんと、これは大変失礼しました。クリスティーナ穣のあまりの美しさに心を奪われてしまいました。しかし、既に婚約者がおられていたとは、これは失礼を致しました」


 カールだ。次のダンスの相手のカールは俺様の近くに既に来ていた。そういう順番になっているんだ。俺様は初めて、カールが頼もしく見えた。頼むから、この悍ましいシチュエーションから救ってくれ!


「まぁ、素敵、カール王子にイェスタ王子」

「素敵ですわ。お二人共」

「夢の競演ですわ」


 モブの貴族令嬢が黄色い声を上げる。俺様どうも死刑はないみたいだ。ちょっと安心。しかし、カールに心をちょっぴり許している自分を戒める。だから幼馴染でもイケメンは敵だ。


 こうして、俺様はダンスパーティという仕事を何とかこなした。リア充爆発してしまえ!


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