第12話新しいお母さんと妹

 第一回破滅フラグ対策会議の結果を踏まえた俺様は、まず、カール王子が婚約したく無い様な女になろうと画策した。それで、たまたま知り合った近所の友達、アルベルトと散々女の子らしく無い事をした。幸い、アルベルトは攻略対象ではない、ゲームの世界にも登場しないモブだ。それに男爵家の子供で、侯爵家の俺様とはかなり身分が違うので、婚約を求める事はまずない。それに、アルベルトは弟の様に俺を慕ってきた。弟みたいなもんだから安全そうだ。


 アルベルトとはチャンバラごっこ、郊外の野原や小山に登り、虫取りや秘密の基地作りなど、男の子が喜びそうな遊びを散々やった。アルベルトはかなり喜んだ。実は俺様も結構楽しかった。子供は大好きなのだ。前世では親戚の甥と散々遊んだ事がある。楽しい思い出だ。


 そして、第二の破滅フラグへの第一歩が来てしまった。かあちゃんの死だ。悲しみは突然やってきた。ある日、かあちゃんが倒れた。そして、一か月も経たず、亡くなった。


 この世界は医学がほとんど発展していなかった。聖女様が時々来て、ヒールの魔法をかけてくれるのだが、一時的に良くなっても根本的な治療はできない様だ。


 俺は、かあちゃんの病気が盲腸ではないかと思った。初期症状がそっくりだ。この世界では盲腸でも・・・死んでしまう。手術なんて、この世界にはないんだ。


 俺様はかなり狼狽した。例え、物心ついて数年でも、かあちゃんは俺様に惜しみない愛情を注いでくれた。愛すべきかあちゃんなのだ。亡くなった時は泣き叫んだ。みっともない位・・・25歳の経験も7歳の俺様の心の方が強く出てしまった。


 そして、あの人達がやってきた。かあちゃんが亡くなって、お葬式から僅か3か月後の事だった。


「クリス、お前には、お母さんが必要だ。それにケーニスマルク家には絶えず正妻が必要なんだ。だから、妾からアニカを正妻に迎える事にした。それと、お前に妹ができるぞ」


 そう言って穏やかに微笑む父ちゃんの後ろに、所作なげに綺麗な女性と女の子が立っていた。そして、父ちゃんが二人を俺様の前に来る様促した。


「クリス、この人が新しいお母さんになるアニカさんだよ。ご挨拶しなさい」

「・・・・・・」


 俺様は一瞬、無言になった。正直、父ちゃんの無神経さに腹がたった。僅か3か月だぞ? 子供がそんな簡単に母親の死を乗り越えられる訳が無い。新しいお母さん。そんなの簡単に受け入れられる訳がないだろう? でも、俺様はそこを25歳の前世の経験とこれからの未来の事を考えて、頑張った。


「あ、あの、宜しくお願いします。お母さん・・・」

「まぁ!」


 クリスの幼少期の話はゲームではあまりたくさん触れられていない。だが、容易に察しはついた。気位の高い、我がままお嬢様がこんな事に耐えられる筈がない。きっと、平民出身の新しいお母さんを受け入れられなかっただろう。でも俺は受け入れる事にした。唯一の抵抗は俺様は新しいお母さんをかあちゃんとは呼ばなかった。かあちゃんはかあちゃんだけなのだ。ささやかな抵抗・・・


「クリスさん。まぁ、何て綺麗な女の子! これから、仲良くしてね!」


 アニカさんはとても素敵な笑顔でそう言った。ちくしょう。俺様のかあちゃんより魅力的な笑顔だ。貴族出身のかあちゃんは整った顔立ちだったけど、愛想はあまり良くなかった。平民出身の、このアニカさんは気取らず、とても気さくそうで、いい人そうだった。父ちゃんはかあちゃんよりこの人の方が本当は好きだったんだろうな。そう思った。父ちゃんとかあちゃんは政略結婚だった。相思相愛で結婚した訳じゃない。


「それからクリス、この子がこれからお前の妹になる子だ。ベアトリスと言う」


 お母さんの影からおずおずと出てきたのは、これも新しお母さんに負けず劣らず可愛いらしい子だった。緊張していても、その愛らしさは滲みでるものがあった。俺様は頑張って、声をかけた。頑張って、できるだけの笑顔で言った。


「私、クリス、仲良くしようね!」

「ク、クリス様、宜しくお願いします!」

「ベアトリス、駄目よ! あなたは私の妹なんだから、お姉ちゃんって、呼んで!」

「は、はい! お姉ちゃん!」


 ベアトリスは元気いっぱいに挨拶をしたが、俺様の事をクリス様と言った。彼女は本当は心細いのだろう。自分が姉にどう扱われるか心配だったのだろう。俺様は最大限の笑顔と好意で迎えるつもりだ。例え、父ちゃんの俺様への愛情がこれから無くなった行くにしても、この子や新しいお母さんを責めても仕方ない。25歳の前世の経験を持つ俺様は何とか折り合いをつける事ができた。


「3人共、仲良くできそうだな。良かった。良かった」


 父ちゃんは簡単に言った。多分、自覚がないんだろうな。どれだけ俺様を傷つけているのか? 貴族の世界ではこんな事はよくある事だそうだ。妾は公然といるし、正妻が長期間いないのは困るのだ。社交界では、貴族は必ず、パートナーと一緒に行動する。中には、妻が亡くなって1週間も経たず、再婚する事もあるそうだ。家庭教師のおじさんが教えてくれた。おそらく、父ちゃんの差し金の入れ知恵だろう。それでも人の心はそう簡単には折り合える筈が無いのだが・・・


「あっ、それから、俺様、自分の事、家の中とか仲良しの人の前では、俺様って言うから、慣れてね」

「は、はい、聞いておりますよ。クリスさん」


 アニカさんはそう言った。まだ、俺様の事、さんづけで言った。俺様から言った方がいいだろうな。多分、アニカさんもベアトリスと同様なのだろう。


「お母さん、娘の事、さん付けで呼んだら変だよ。俺様、へこんじゃうよ」

「ま、まあ、ごめんなさい。クリス、これから宜しくね。でも、俺様は何とか治す様、頑張るからね!」


 そういうと、アニカさんはとても優し気な笑顔を見せた。俺様も笑顔で返した。でも、変な決意表明されて少し・・・困った。


 俺様はベアトリスを見た。破滅フラグの要因。でも、可愛いらしい子だ。平民の気さくさと奔放さを身に着け、それでいて、大貴族の令嬢・・・そりゃ人気でるな。俺様と違って、これまで日陰で生きてきたんだ。きっと、人の苦しみや、痛みが分かる子だろう。だから、愛されるのだろう。


 でも、この娘、本当に可愛いな。この娘になら、本当の愛情を注げそうだった。俺様、妹も弟も前世でいなかった。でも、子供は大好きだった。甥っ子がいて。とても可愛がったが、女の子の姪はいなかった。可愛がってあげよう。それが破滅フラグ回避への道でもある訳だから。


 ていうか、必要以上に可愛がってしまうかも、だって、俺様、さっきから、この娘見て、にまにまを抑えるのが大変なんだ。それ位、可愛い女の子だった。ふっくらしたほっぺ。ああ、あのほっぺたをツンツンしたい! 俺様はすごい、ツンツンしたい衝動にかられた。


「ねえ、ベアトリス。ほっぺた、可愛いな! ちょっと、ツンツンさせて!」

「えっ!」

「頼むよ、その柔らかそうなほっぺ、もうツンツンしたくてたまらないんだ!」

「あ、はい。いいよ。お姉ちゃん」


 俺様はベアトリスのほっぺたをツンツンした。もう、かわええ。俺様はもうデレデレの顔してると思う。


「あ、あの、お姉ちゃん」

「うん、何?」

「私もお姉ちゃんのほっぺたツンツンしたいです」

「へっ?」


 それは予想外だった。俺様の頬っぺたに需要があるとは思えなかったから、驚いた。


「うん。いいよ、俺様の頬っぺたなんて。別に減るもんじゃないし。どうぞ」

「うん。ツンツン」


 そう言って。ベアトリスは俺様の頬っぺたをツンツンした


「柔らかい。お姉ちゃんの頬っぺた。凄い柔らかい」

「はは、どういたしまして。ありがとう。ベアトリス」


  こうして、俺達はツンツン姉妹になった。何故か、ベアトリスも頬っぺたツンツン大好きらしい。


「ベアトリス、家族の中ではお姉ちゃんでもいいが、他家の貴族の前や公式な場では、お姉様と呼ぶんだぞ」

「はい。お父様」


 ベアトリスは父ちゃんをお父様と呼んだ。いい事なんだろう。少し、複雑な気持ちもあるが、彼女は今まで、人前で父ちゃんをお父様と呼ぶ事がなかったのだろう。父ちゃんをお父様と呼ぶ時、感極まった様だ。少し涙ぐんでいた。


「うむ、これから姉妹で仲良くするんだぞ」

「はい、お父様」

「ああ、父ちゃん」

「クリス、いい加減、その父ちゃんは何とかならんのか?」

「ならんな。父ちゃんは父ちゃんだ。勘弁してくれ」

「社交界ではそうはいかん」

「わかってるよ。公式な場では特別にお父様って呼んでやるぜ」

「相変わらずだな。クリスは、まあ、頭打ってから、ずーと、その調子だから、時間が経てば、普通に戻るかな」

「いや、多分、無理」

「困った娘だ」

「父ちゃんが我がままお嬢様に育てたからしょうがないよ」

「自分で言うか。本当に頼むぞ。お前はケーニスマルク家の長女なんだからな。先日もカール王子の求婚を断ったみたいで、びっくりしたぞ。幸い、正式なものではなかったから、良かったが、当家と王家で正式に決まった上での事だったら、とんでもない事になっていたんだからな! もう少し、貴族の自覚をもってもらわないと。私は心配でしょうがない」


 こうして破滅フラグはやって来た。だが、アニカやベアトリスとは仲良くやっていけそうだ。先方はいい人なんだ。ゲームの中では俺様の方が悪い娘だった。俺様、仲良くする様努力する! アニカお母さんとは少しわだかまりを感じるが、ベアトリスには愛情を注げそうだった。俺様、可愛いもの大好きだから。

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