第13話ケーニスマルク家お茶会事件

 新しいお母さんと妹が来て1か月、そして、あの事件が起きた。それは父ちゃんが二人の為に開いた親戚同士のお茶会での出来事だった。おそらく、本来は俺様が二人に、かなりきつくあたったんだろう。でも、俺様は二人を傷つける様な気持ちはなかった。だから、何も起きず、穏便にこのお茶会は終わると思っていた。だけど、そうではなかった。わだかまりは決して俺様だけのものではなかったのだ。


 お茶会はケーニスマルク家主催で開かれた。目的はお母さんの社会界へのデビューの練習だろう。もちろん俺様とベアトリスの練習も兼ねている。


 お茶会にはケーニスマルク家の親戚が3家族集まった。父ちゃんは気がつかなかったんだろう。俺様の気持ちに無神経に対応した様に、女性の気持ちが分からなかったのだろう。


「私、ドキドキします。お姉ちゃん」

「今はお姉様でしょ? 駄目よベアトリス」

「あ! ごめんなさい。お姉様」

「そうよ、気をつけなさい。私もだけどね」

「お姉様が私って言ってる!」

「親戚と言っても、他の家の人が来るんだから、当然よ」


 ベアトリスは大きな目を更に大きくして俺様を覗き込んだ。珍しいものを見て、びっくりした様だ。私はベアトリスに微笑みかけた。ベアトリスもにっこり微笑む。


 お茶会の席に着席する。父ちゃんの隣はいつも母ちゃんだった。今はアニカ母様が座る。その隣は俺様ではなかった。本来、長女が座る席。しかし、父ちゃんは無神経だった。俺様より、ベアトリスへ気遣いをしてしまった。それで、アニカ母様の隣にベアトリスを座らせてしまった。それがこの事件の発端だった。そう、父ちゃんは俺様意外に気を遣う相手がいる事に気がつかなかったのだ。俺様もそうだ。自分だけが我慢すればいい。父ちゃんに悪気はないのだ。ただ、無神経なだけ。父ちゃんの性格を知っている俺様に異存はなかった。だが・・・


「どこまで無神経なのよ! あなたは!」

「ど、どうしたんだ? お前?」


 声を荒らげたのはブリット・ステンキル、母ちゃんの妹だった。


「何故、長女のクリスがそんな処に座っているの? クリスは長女なのよ!」

「ブリット様、これは何も他意はございません」

「他意が無いでは済まないでしょう? マリアお姉様が亡くなったばかりなのに、クリスがどう思うか分からないの?」


 事実だった。俺様は傷ついていた。いつもの席、そこに座れず、父ちゃんの隣には母ちゃんではなく、アニカさんが座っている。父ちゃんには想像力が欠如していた。しかし、これは父ちゃんの責任だ。アニカ母様もベアトリスも、そんな事に気が回らないだろう。二人共、今日まで緊張しているのが良くわかった。二人に俺様を気遣う余裕など、無いし、こんな経験もないんだ。俺様は二人の為にブリット叔母さんに説明しようとした。


「ブリット叔母様。勘違いです。この席はお父様が決められました。まだ、お茶会を経験した事の無い。お母様とベアトリスの為にこの席順になったんです。お母様は悪くないんです」

「ク、クリス、いいの? それで? こんなのって、あんまりよ!」

「ブリット、止めるんだ。これはケーニスマルク家の事なんだ。例え、お前の姉の娘の事でも、私達には口を出すべきではない・・・」


 辛そうに、ブリット叔母さんの旦那さんが叔母さんを諭す。俺様はもう少し、ブリットさんに言おうと思った。安心してもらいたい。母ちゃんの事を想ってくれるブリットさんに安心してもらいたかった。それが母ちゃんを想ってくれる人への感謝の気持ちだと思った。


「ブリット叔母様、私、大丈夫です。ベアトリスは未だ、経験が少なくて、とても緊張してました。だから、私、この席順でいいと思います。それにお父様が決めた事なんです。二人に罪はないですよ」

「クリス・・・」


 ブロットさんは目に涙を浮かべて俺様を見た。彼女は実の姉の娘の俺様に同情したんだろう。それに、かつて父ちゃんの隣にいつもいた、姉の母ちゃんの代わりにアニカ母様がいる事に納得できないのだろう・・でも、俺様、少し、本音が出てしまった。ブリットさんが察する通り、俺様も傷ついていたから・・・


「本当はね、辛いんです。いつもの場所にお母様がもういなくて、いつもの場所に私がいれなくて・・・本当は辛いんです。でも、我慢しなければいけないです。お母様はもう、帰って来ないんです。お父様には新しい奥様が必要です。貴族だから・・・それに・・・これから、お父様は段々私を見なくなる・・・お母様はもういないんです。新しお母様やベアトリスの方に気持ちが大きくなるのは仕方無いんです・・・」


 俺様は目に涙が浮かんだ。ちくしょー。25歳の経験も母ちゃんの事とこれからの事を思うと泣けてくる。


「ク、クリス、お前、そんな事を思っていたのか?」


 ガタンと父ちゃんは席を立ちがった。マナー違反だ、それがわからない筈はない。父ちゃんは俺の傍に来ると俺様を抱きしめた。


「すまない。クリス、私はお前の事を良く、わかっていなかった!」

「クリスさん」

「お姉ちゃん」


アニカ母様とベアトリスも目に涙を浮かべていた。ベアトリスが俺様に抱きついてきた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ベアトリスがお姉ちゃんの場所盗ったんだ。ごめんなさい。そんな事、思わなかった。ごめんなさい。許して、大好きなお姉ちゃんに嫌われたくない」


 父ちゃんとベアトリスに抱き着かれた俺様は、ベアトリスの頭を撫でると。


「私はベアトリスの事大好きよ。嫌いになんてならないわよ」

「お姉ちゃん!」


 アニカ母様も涙して、


「クリスさん。ごめんなさい。私、クリスさんに甘えてました。ごめんなさい」


 俺様はにっこり笑って。


「お母様、私は母様の娘ですよ。クリスさんって言われるとおかしいですよ」

「クリス!」


 アニカ母様も私に抱き着いてきた。三人に包まれて。俺様、少し、泣いてしまった。


「ブリット、やはり私達が口を出すことではない、それにクリスティーナ穣は既に立派なレディだ。高貴な魂を持ったレディなんだ。お前の姪は立派だ。それを誇りに思うことだ」

「クリス、あなたは何て・・・」


 ブリット叔母さんまで、俺様に抱き着いてきた。俺様、もうたくさんの人に抱き着かれて達磨さん状態だ・・・


「あなた、クリスの席を!」

「ああ、すぐに変えよう」


 アニカ母様と父ちゃんはそう言った。


「お父様、いいんです。これから、段々この席順になるから、今から慣れておいた方がいいから・・・」

「そうはいかない。すまない。私は大変な過ちをした。例え自身の娘にでもしてはいけない事をした。許してくれ、クリス!」


 父ちゃんに無理やり席順を変えられた。いつか、変わってしまうんだからいいのに・・・そう思っていたが、この世界では家長である父ちゃんの意見は絶対だ。


 俺様はアニカ母様とベアトリスの間に座った。かえって、居心地が悪かった。アニカ母様とベアトリスの間に入り込んでしまった。そんな所在ない俺様にアニカ母様もベアトリスも一生懸命話かけてくれた。しばらくすると慣れてきた。例え一時でも本来の場所に居れて良かった様な気がする。天国の母ちゃんがもし見ていたら、きっと微笑んでくれただろう。


「大変申し訳ございませんでした」

「大変申し訳ございません。妻が出すぎた事を」


ブリット叔母さんと、その旦那さんは父ちゃんに謝った。だが、


「こちらの方こそ、申し訳なかった。私には想像力が足らなかった。娘のクリスの気持ちに気が付かなかった。あなたのおかげで、私は良く分かった。それに、ブリット婦人に不快な気持ちにさせてしまった様だ。私は駄目な父親だ。こちらの方こそ、謝罪と、そして、お礼を言わせてもらいたい。だから、頭を上げて欲しい」


 父ちゃんは二人に頭を上げて欲しいと、そして、お詫びとお礼を言った。こうして、ブリット叔母さんのわだかまりも無くなった。俺様へのアニカ母様とベアトリスの会話は仲良い親子そのものだった。ブリット叔母さんはそれを理解しただろう。



作者より解説:この小さな事件は実は大きな事件となった。感極まったブリット叔母さんや旦那さん、そして同席した親戚達はこの事件を貴族社会に伝えた。多くの貴族が涙した。クリスの境遇はよくある事だった。だが、7歳の女の子がそれを受け入れた。これは貴族として高貴な事だった。模範とも言える事だった。ケーニスマルク家の長女は高貴な魂の持ち主。そんな噂が貴族の世界に広まった。そして、それは国王陛下や第三王子カール・フィリップの耳にも入った・・・

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