ペアレス(朝)⑤

案内すると言ったものの、これから向かう講義室は同じなので、図書館までの道を遡るように案内した。


その間、シーシェル国について観光名所などを聞いたりし、少しずつであるが和やかに話が出来るようになってきた。

そんな時、シーシェル様から「ちょっといいかしら?」と一言。


「どうかされましたか?」

「いえ、その話し方だとすごく距離を感じます。同級生ですし、それに、ピアのパートナーだとか。

同級生として、友人と扱って欲しいです」

「しかし、僕は平民でシーシェル様は……わかりました、シーシェルさん」

「マイア、っで」

「……マイアさん」

「はい、リクラ君。

これからよろしくお願いします♪

私、男性の友人が出来るのは初めてなんですよね」


楽しそうにするマイアさんだが、僕としては『どうしてこうなった』状態である。

ただでも普通に暮らしたいのに、姫様と友人って。

平民の僕が隣を歩いているだけでも、何かが起こる気しかしない。


それと、途中、断ろうとしたところ、否定を許さないと言うような笑顔を向けられた。

……平民の僕にとって、命がいくつあっても足りない。


講義室に着き、開かれていた後ろ扉から入ると、前側の席に人集りが出来ていた。

それは、ある一点を囲むようになっており、男子学生の比率が多い感じだ。


そして、その輪に加わっていなかった人たちを中心にこちらへ視線が向く。

一方は、僕の隣に立つマイアさんへの好意の視線。

もう一方は、『なんだ、あの野郎は』と言いたげな僕への視線。


こうなるのが嫌なんだよなぁ。


こんな状況だが、隣のマイアさんは何のそのと言う感じで、人集りの方に興味を示しつつ、僕との話を続けてくれる。


「あの集まりは何でしょうか?」

「たぶん、特定の方とお話したいとかでは?」

「あの位置で、話をしたいとなると……」


そう考え始めるマイアさんに、『たぶんじゃなくても、ピアなんだろうなぁ』と思う僕。


理由は単純なことだ。

この国、オルベス国の上将の娘が同級生になったのだ。隣のマイアさんの出身であるシーシェル国では公爵と同等の位の家柄。

少しでも関係を持ちたいと思うのは当たり前だろう。


それに加え、本人が美人であることが男子学生を集めるのに拍車をかけている。

あそこに集まっている人たちを見る限り、上将以上の家柄の人は居なさそうなので、美人な嫁と上将の位を目指しているのだろう。


君たち、結婚してから後悔しても知らないぞ?

少しモヤッとしながらも呆れるだけに止めることとした。


そして、そんな光景の中、こちらにも人が集まり始めていた。


「あ、あのシーシェル様」

「おはようございます、シーシェル様」

「ごきげんよう、シーシェル様」


当たり前のことだが、僕に話しかけてくる人は一人もいない。

『お前は邪魔だ』とばかりにマイアさんから離され、囲いの外へ追い出される始末である。

当事者のマイアさんは、複数人に話し掛けられ、困り顔をしながらも一人一人に丁寧な対応。

さすが姫様。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る