初夜(期待は〇✕)④

今日は色んなことがあって疲れた。

大体の疲れが『移動(4):登壇(1):ピア(5)』の配合で、考えてみると苦労しているなと自分を慰める。


ため息を吐きながら体を洗い終え、タオルで拭いていると部屋の方から物音が聞こえた。


『……いった!

ちょっとなんなのよ。このくらい、私だったら―――あれ、う、動かない!』


いや、物音以上のものが聞こえたような。

聞こえはしたものの、自分のペースは崩さずゆっくり寝間着を着ることとする。

そして、部屋への扉を開いてみれば。


「……ちょっと、見ていないで助けなさいよ!」


こちらを見てピアが叫んでくるが、状況を把握することが優先なのだ。

なぜか、壁の一部が四角く溝ができており、縦軸を中心に回転するような仕組みをしていた。

そして、回転扉になるはずだったのか、途中までは回転していたが、子供一人が通れる程しか動かず、その間に人が挟まる。

挟まっている張本人は、赤面しながらもこちらに怒鳴り散らしてくる。

本人は必死だろうが、はたから見ると美女が可愛く困っているだけの光景。


「はぁ……何やってんのさ。

そんな仕組み、聞いていないよ?」

「あんたのことだから、扉の鍵をかうだろうと思って作っておいたのよ!

しっかり鍵はかってあるし、いざこの扉を使ってみれば、立て付けが悪いし!

はやく助けなさいよ!」


なおもジタバタするピア。

そんな様子を見て少し笑うと、さらに彼女は頬を膨らませた。


「そんな意地悪するなら、あんたの昔話を学校で―――「よっと」……面白くない!」

「いやいや、助けたんだから、僕はお礼を言われてもいいはずなんだけどなぁ」

「あれだけもてあそんでおいて」


僕は軸の支え部分に魔術を展開することで、回転部分の摩擦を小さくし、ピアが通れる程まで扉を開く。

やっと解放された彼女は、まだお怒りのようで。


「そもそも、リクラが悪いんだから。何もなく部屋に戻っちゃうなんて」

「特に用事がなければ部屋に戻るだろう?

それと、こんな穴作って」

「元々一緒に暮らすんだから、そんな細かいこと言わないの。

まあ、これはこれで部屋がつながっているように見えるからある意味いい―――「よっと」あぁぁぁ!」


ピアが危険なことを言い出したので、魔術を使って扉を元の位置に戻すこととした。

そして、あとちょっとで閉め終わるというところで、地面から扉の隙間に向けてニョキっと棘が。


「このままにしておきなさい!

今後も使うんだから。」

「残しておくって……もう閉めれないようにしてるじゃないか」


はぁ。

せっかくお風呂で気持ちよくなった後なのに、また疲れてしまう。

そんな僕の様子に、ニマニマとするピア。

なんだよ。


「何疲れてるのよ。

可愛い私と暮らせるんだから、喜ばしいことでしょ。

それが、部屋つながりにもなるんだし」

「そう望んではないし、静かな部屋を僕は求める。

それに、さっきそこに引っかかってたのは誰だい?」

「うぅ……もう、細かいわね!」

「そりゃあ、助けたお礼を言われてないしね」

「ネチネチとぉー。

……あ、そうかそうか。お礼ねお・れ・い♪」


先ほどまで不満全開だったピアだが、何か思いついたのか突如笑顔に。

この流れはやばい。


僕は全力で逃走を図ろうとするが、外への扉前にはすでに筒状の植物が行先を塞ぐように生えていた。

っく、無駄に展開が早い。


あと逃げられる場所は―――窓は無理、風呂場も無理。

唯一残されていたのが、あの壁扉だった。


……いや、これは罠だ。

しかし、ピアの部屋から外に出ればこちらのものでもある。

少しの葛藤をしつつも、運にかけることとした。


ピアの方を振り返らず、向こうの部屋へ侵入。

そして、外扉へ目指そうと視線を向けると―――塞がれていた。


「これで良しっと♪」


僕が通った壁扉をピアも通って二人でピアの部屋に集まる状態となる。

白を基調とした部屋作りで、お嬢さまだとすぐわかる豪華なベッドが目につく。


「これで、たっぷりとお礼ができる。

欲しいんでしょ、お・れ・い♪♪♪」


これまでの人生で最悪の章が、始まりを告げてしまった。




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