初夜(期待は〇✕)②

特別室に案内された僕たちは料理が来るまで、ワインを片手に始めることとした。


「今日はお疲れ様。学校までの移動で随分魔術を使ったんじゃない?」

「それを言うなら、ピアもだろう?

盗賊相手に媒介を大量に消費していたじゃないか」

「正直、疲れたわ。魔術じゃなくて、あんた関連で。

朝は置いてきぼりにされるし、何処かの女たちに愛想を振り撒くし、家探しで駄々をこねるし……」

「大体は思い込みだと提言する」

「あんたが悪いの!」


その後も明日の朝食はどうのと話し、結局はこの後の買い出しで僕が作ることとなった。

まぁ、家賃だと思えばどうともないのだが。


そうして話していると、先ほどの店員さんが料理を手に戻ってくる。


「はぁい、お待たせしました。二人のためにうちのコック、頑張っているわ~」


そう言って置かれたのは、花のように盛り付けられた野菜が入ったスープだった。

赤色、緑色、黄色と綺麗に盛り付けられた花たちは、スープの温かさに崩れることなく、美味しさを見た目で強調してくる。


「あの、こちらのコックさんは何処かの高級レストランで働いて?」

「そんな御大層な人じゃないわよ。ただ、趣味の先で楽しんでいる愉快な人。

二人のことを話したら張り切っちゃったの。

これから、あと2皿出すわ~」

「まさか、こちらのレベルが後も?」

「えぇ。あの人は始めたら止まらなくてね。

どうぞ、楽しんでくださいな。

あ、こんなもんでも、料金は居酒屋並みだから安心してくださいね~♪」

「「えっ!!」」



居酒屋並みということは、食材はありふれたものを?

いや、それを抜きにしても技術的にお金を出していいほどだ。


「じゃあ、楽しんでくださ~い」


そうして出ていった店員さんをお辞儀でお礼し、僕たちはまた皿に視線を落とす。


「……まずは食べてみましょ」

「そうだね……」


篭に入っていたスプーンを手に、スープを一口。


「「!!?」」


口に含んだ瞬間、野菜の甘さに似たしつこくない含みとスパイスの香ばしさ。

そして味はどちらかと言えば薄目だが、たぶん、野菜自体を味わうためだろう。


続けて、フォークで赤色の野菜、『パイカ』だと思われるものを口へ。

普段は少し煮込むことで、肉のような食感を楽しむ野菜だが、口の中にはシャキシャキ感が。

この野菜は、シャキシャキ感が残っているうちは苦味が強くて有名なのだが、この皿上のものからは全く感じない。


顔をピアの方に向けると、むこうもこちらを。


「ここのコック、どんな人なの。実家の料理人より美味しいわよ」

「料理人としての技術は、たぶん最高峰に近いかも。味、食感、香り、どれをとってもお客さんの度肝を抜くものだよ」


この時点で僕たちは、次に出てくるであろう料理を『高級料理店以上のもの』を格付けしていたのだった。

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