閑話: 幼き者たち(そのいち)

街から少し離れた街道。

少し強めの雨に、木の下で雨宿りをする少年がいた。


見た目は庶民であり、幼さが少し残っている顔立ちをしている。

彼は魔術の練習をしにここまで来ていたが、突然の雨に服を濡らし、どうしたものかと考えていた。


「これ、母さんを心配させちゃうなぁ」


空を覗いても、雲が流れてくる方向は雨雲。

濡れること承知で帰るか、もう少し待つかの2択であった。


しかし、彼は急ぐ必要がある。

後ろを見ると野生の動物たちが血抜きされず倒されたままとなっていた。

彼が魔術の練習がてらに倒した動物だが、捌く知識は浅く、道具も持ち合わせていなかった。

元々の計画では、食べれる動物を狩ってくることで母を驚かせ、捌いて貰おうと考えていたのだ。

このままでは、肉が傷んでしまう。


彼の中で帰ることに強く傾きかけた時。


『『ガサッガサッ、ッド!』』


雨宿りしていた木の上から、枝を折るかたちで人が落ちてきた。

落ちてきた男は街道に俯せとなって動こうとしない。


「……大丈夫ですか?」


恐る恐る降ってきた男に問い掛けてみるが、反応が帰ってこない。


落ちた衝撃で気絶したのか?

どうして上から降ってきたのか疑問に持ちつつ、様子を見に近づくこととした。


すると、地面が少しずつであるが赤く染まり始めていた。


「!!?」


彼は焦って男に近づき、治癒魔術をかけ始めた。

男の見た目は少し汚れており、髪もくしゃくしゃ。

何かに襲われたのか。


一生懸命に魔術を行使するが、地面に広がる血の勢いは止まりそうにない。

彼は、どこから血が出ているのかと男のマントを退けて確めようとし、理解した。

お腹の一部に貫通した穴が空いており、体も既に冷たくなり始めていたのだ。

既に男は絶命していたのである。


彼は治癒魔術をかけるのを止め、どうしてこうなったのか、男が落ちてきた木の上を見上げる。

すると、街と反対方向から飛ばされて来ていたことがわかった。

彼がその先に視線を落としていくとーーー、大きな棘のようなものが、森の木より高く生えていた。


「な、なんだあれ?」


彼が今いる場所は、彼がよく来ていた場所だが、あんな棘が生えているのを見たことがない。

大きさからといい、突然のことから、何処かの魔術師が関係しているのではと彼は考えた。


絶命した男をそのままにし、折れて街道に散らばった枝の中から太いものを選んだ彼は、それを媒介にして魔術を展開し、移動を開始した。


(何が起きているんだ)


興味半分、怖さ半分の気持ちを抱きつつ、棘を目刺し始めた。

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