見極めと拾い物⑦

元の場所に戻ってきてからは、早々と作業が始まった。


黒軍さん達は2班に分かれ、1班が街道に散らばる盗賊の死体等を片付ける。

片付けるといっても、鉄製品の回収と生き残っているものの応急措置、拘束をする。そのまま生き残れたとしても奴隷落ちは免れない。

死体は山側に穴を掘り、そこに入れられてから焼却となる。


残りの1班は、捕まっていた人たちの手当て、搬送。それと、3人の盗賊の捕縛である。

僕たちが小屋に着くと、やっと解放されると安心し、泣き始める人もいた。

そんな彼女らを黒軍さん達は丁寧に対応していく。

特に扱いが酷かった人たちには女性兵員が対応し、起きているものを落ち着かせることでその場を難なく収めていた。


「お疲れ様、リクラ。ここまで早く帰ってくるとは思わなかった」

「彼女らの中には、早く対応をした方がいい人もいたし、僕たちも早く専門校に行く必要があるからね」

「そ、そういえば専門校!

このままじゃ入学式に遅れるわ!」


ピアはすぐにカリュアさんを呼んで、馬車を持ってくるように命令した。

しかし、僕たちが乗ってきた馬車は盗賊に壊され、代わりを用意しようにも近くに町村はなかった。

この状況で普通は、捕まっていた人たちと一緒に町村を目指す必要がある。


「カリュア、どうにかならないの!?」


ピアがカリュアさんの胸ぐらを両手で掴み、彼を揺らしつつ回答を求める。

カリュアさんは、「どうしましょうか」といい笑っていると僕の方を見てくる。


ん?

僕になにか?

……言われることはわかっていますが。


「リクラ様の魔術であれば、間に合うのではないでしょうか」

「……(ギロッ!)」


ピアの鋭い視線がこちらを向く。

そして、次の瞬間にはカリュアさんを掴んでいた手が僕の襟に移り、僕の顔を自分の顔に近づける。

行きが顔に当たるほど近い……ちょ!


「間に合わなかったら、あんたにキスをして、ギルドの掲示板で大々的に公開するから♪」

「……そんなことを僕がさせるとでも?」


そんな脅しは、ここ数年で聞き飽きている。

要は捕まらないようにすればいいだけ。

これも、これまで通りにやればーーー。


そんなことを考えていると、彼女はニヤッと笑う。

ヤバい、何か悪巧みをしている。

この状況で出来ることなんか無いよなぁ、ない……ま、まさーーー。


「!!?」


今の体制からピアの肩を掴んで、急いで引き剥がそうと試みた。

しかし、その前に、さらに襟を引かれて彼女の唇が。


。。。


7秒程、僕の頭が処理落ちする。

そして、自分から唇を遠ざけたピアは右手で口を覆い勝ち誇った顔をする。


「あーあ、私の初めてがとーられた。これは、どうにかしてもらわないとね♪」

「ちょっ、ちょっと待った!

今のはピアからでしょ!!」

「そんなの関係なーいの。見たわね、カリュア」


笑顔でピアがカリュアさんを見ると、彼もニコッと笑いお辞儀する。


「この眼差しに焼き付けました。何時でも証人となり得ます」

「父様には伝えないでね。リクラに有効なカード無くなっちゃうから」

「承知しております、ピア様」


2人で楽しそうな会話をするが、僕には窮地の状態となる。

一瞬のことであり、カリュアさんが他の人たちとの間に立っていたため、他に見られることは無かった。

しかし、一番厄介な人に見られた。


「それでリクラ。間に合うのかしら?

私にとっては、間に合わないことが一番良い手なんだけ『ごめん!』きゃっ!」


これは、是が非でも急ぐ必要がある。

僕は直ぐにピアを抱き上げ、近くに置いていた媒介板を目指す。

魔術を全力で使用すれば、まだ間に合うからだ。


そんな焦る僕を1人の女性が止める。


「お待ちください!

あなた方、専門校生と仰っていましたよね。なら、私も連れていってください!」


「急いでいるんで!」


そのまま彼女の問い掛けを凌ぎきろうとしたが、服の端を掴まれ、彼女はあるものを取り出した。


「今回、レガード専門校に入学します『マイア・シーシェル』です!」

「シーシェルさん? ……シーシェルさん、て!」

「り、リクラ、下ろして!!」


僕たちは2人して慌て、身なりを整える。

そして、ピアが代表して挨拶をする。


「大変失礼しました、マイア姫様。私、オルベス国ダリアントの娘、ピア・ダリアントと申します」


僕らの前に立たれる彼女は、まさかの隣国シーシェル共和国の姫様だった。

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