見極めと拾い物②

彼女が触れた幹を始点とした魔術はいくつもの花と蔦を生み出し、森の中にいる人間を目標として呑み込んでいく。

青い花を咲かせた蔦が触れた枝は凍りつき、紫の花を咲かせた蔦は紫電を帯びて。


「くそ、大地系の魔術師か!」


火炎球を放っていた敵魔術師は、ピアから自身に近づいてくる蔦群へ矛先を変え、数本をまとめて燃やしていく。

しかし、燃やそうもその後ろから新しい蔦が生えてくる始末で、安全域が着々と削がれていく。

そして、いよいよ彼らのところまで蔦が到達したのか、木より高く跳躍して街道に転がり込んでくる人影が2つ。

跳躍のために枝で裂いたのか、服装の至る所が破れていた。


「やっと出てきてくれましたか」

「っく! ただのお偉い様じゃなかったのか。魔術師・・・・・・それも高ランク。

お前たち、ギルドか国のまわし者か」

「いえ、ごく普通の学生身分ですよ。少し魔術が得意で、あなたたちを捕らえる、もしくは殺めることが可能というだけです」

「学生!? 嘘を言ってんじゃねぇ!!!」

「やはり、そいつらと組むのは失敗だったか。クリウス、俺はあそこの姉ちゃんをやる。お前はこいつを―――!」


二人のうち、顎髭を生やしていた白髪男の首が空を舞った。

赤い血が糸のように首と胴体の間を縫い、地面に落としていく。


「僕がいる前でピアに危害を加えようとしている奴が要るのに、行かせると思ったかい?」

「……ら、ラガ―――!!」


彼の骸を視認した相方は、彼に駆け寄ろうと僕から視線をそらし、走りだそうとした。

しかし。


「―――グブッ!」


突如、地面から生えた棘が彼の下半身から直情に貫き、文字通りの串刺し状態となった。

棘の表面に沿って血が滴り、彼は絶命するのである。


ピアの方を向くと、俯きながらこちらへ歩いてきていた。


「ありがとう。ただ、こいつらが何者だったかの捕虜が欲しいところだったけど……」

「カリュアを殺った奴らなんていらない。ましてや、あんたを殺そうとした奴なんか、もっといらない」


僕の胸のなかで踞るように、ピアは泣き出した。

声を出さず、涙とふるえだけで。


「……カリュアさんを探しに行こうか。奴らのことだから、そんなに遠くへ連れていったことはないと思うけど」

「……うん」


彼女の左手をとり、森の方へ進もうと歩き出す。そんな時。


「お疲れ様でした、ピア様、リクラ様」

「「!!!?」」


突然背後から声が聞こえ、2人で森の方向に跳躍する。

そして、反対側を向いて魔術を構えると、見知った男性が。


「か、カリュア!?」

「はい、カリュアです」


ピアが彼の名前を驚いて呼ぶと、『そうですけど、どうしました?』という顔で返事をしてくるカリュアさん。


「あ、あなた、殺られたんじゃ……」

「? 私が、こんな奴らに殺られますかって。ダリアント家で下の方だからって、後手に廻るようなら元々今まで生きていられません。

それよりも、お二人の勇姿、このカリュア、感動いたしました! ピア様の魔術で大半を片した後、リクラ様魔術の広範囲探知で敵の居場所を特定。それをピア様が追いたてる!! 最後は相手の敵になる奴らをバサバサと。私、涙が出ます」


カリュアさんは、胸ポケットからハンカチを出すと『オヨヨ』というように嘘涙を拭う。

いや、さっきの探知、貴方の反応は無かったんですけど!

僕が思っていたことはピアもそうらしく、ムスッとした顔で問い詰める。


「あんた、リクラの探知に引っ掛からなかったじゃない!」

「それは、ライナック様直伝の魔術によるものです。今回は旦那様の命により、わざと盗賊被害が多発している道を通り、お二人の行動を観察しておりました」




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