出立

晴れの日となった入学式。

まだ早朝であるため、肌寒さが残る。


専門校は高等校と違い、入学生が多いことから、各専門科のクラスで受けることとなっているが、硝石を魔術利用した遠視技術で学長、来賓の様子を映し出すらしい。


事前に受け取っていた、専門校生の証である腕輪を着け支度は完了し、玄関に向かう。

服装は自由とのことだったが、黒のジャケットを着ることで簡素ながらシャキッとさせる。


「あら、そろそろ出る時間?」


朝早いのに、既に起きていた母さんが台所からピョコっと顔を覗かせてくる。


「今から出れば、入学式までちょうどいい時間になるかな」

「じゃあ、ちょっと待って」


そう言うと、母さんは台所で少しバタバタしたあと、布の袋を1つ持たしてくれる。


「今日のお昼はどうするか分からないから、お弁当を作ったの。持っていって」

「ありがとう。この弁当を食べたら、少しの間、母さんの料理が食べれなくなるなぁ」

「何時でも帰ってきなさい。沢山作るわよ!」


腕捲りをして言う母さんが可笑しく、2人で笑いながら外に向かう。

そして、外に出ると父さんが待っていた。

片手には赤色の少し細めの板を持ち、ニカッと笑顔。


「そろそろ出る時間だと思いましたよ」

「父さん、どうして外に?」

「専門校までの移動、途中で乗れそうな物を見つけて媒介にするんじゃないかと思ったので、父さんが作ってみたんだよ」


渡された板はとても頑丈でありながら、少しの柔軟さも持つ物。

少し荒っぽく使っても壊れそうにないものだった。


「昔、得意魔術の『振動』を使って、そり遊びとかしていただろう? 今のリクラなら、最も上手く、早く乗りこなせるかなって」

「ありがとう、父さん!こんなに良いものを。大切に使うよ」

「でも、安全に乗るんだぞ」

「分かっている」


地面に寝かした板の上に乗り、それを媒介として魔術を展開させる。

振動でフワッと浮き、乗り心地を確かめ、少しの風魔術で前、後ろと移動。

扱いも大丈夫っと。


そうしているうちに、朝日が登り始める。


「そろそろ行くね。2人とも、次に帰ってくるまで元気で」

「頑張っていらっしゃい。次には、ピアちゃんとの婚約が決まっていることを期待するけど」

「それは、色々あって難しいから。遊びには連れてくるよ。それじゃ、」


先程より強めの風を作り、徐々に移動を速めていく。


================


リクラが家を出てから30分後、喫茶店の前に声が響く。


「(コンコン)リクラ、迎えに着たわよ。一緒に専門校まで行きましょ」


ピアが扉を叩いてそう言うと、中からはリクラの母が顔を出す。


「あら、ピアちゃん!どうしたの?」

「お母様! リクラと一緒に専門校まで行こうと思っているんですが―――」

「あら、ごめんなさい。あの子なら、少し前に出発しちゃってるわ」

「そうですか。なら、直ぐに追いかけますね!」

「あ、でも……」


リクラ母は、少し心配そうな顔をする。


「あの子、お父さんから新しい魔術媒介を貰って、凄い早さで行っちゃったから、追いつけるか……」

「え……えぇ~~!」


この後、ピアは馬車の使用人に頼み、大急ぎで追いかけ、途中で休んでいたリクラと合流するのであった。


「ちょっと、なんで先に行くのよ! こんな記念日に一人で行くなんて無いでしょ」

「いや、専門校に着いたらいつものように言い合いになるでしょ。雰囲気を合わせるなら、最初から同じところにいるのはおかしいでしょ」

「そ、そんなものは、『しょうがなく乗せてあげた』設定でいいでしょ」

「それ、僕が疲れるだけなんだけど」

「いいじゃない。つべこべ言わず、一緒に行くわ!」


一瞬で後ろに回り込んできたピアに胴を捕まれ、蔦で手と足を拘束される。

そして、流れるように使用人さんが僕を馬車籠へ優しく放り込んでくれる。


「さぁ、再度出発!」









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る