この先の考え③

……はぁ。

ピアの容姿で「一緒」と言われると心臓に悪い。

この方17年。ピア以外の女性から好意を向けられたことは無いため、耐性は皆無に等しい。


「面倒をみるのは僕なんだけどなぁ」

「あら、私を独り占めできることを光栄にお『思いません』―――ヘタレ!」


苦笑いでこの場は過ごす。

実際のところ、ピアのことはそれほど嫌いではないのだが、彼女の身分と父親に問題がある。

それは、後々だと考えられるが。


そうしていると、拘束されていたウェールがやっと自由となり、自分の席に座る。

先程までの無茶振りに指関節を鳴らしつつ、さっと治癒魔法をかける。


「お前ら夫婦の遊び相手は大変だわ。もう少しは大事にしてほしい」

「大事にして欲しければ、問題発言はよせ」

「ちょっとした言葉のじゃれ合いじゃんか。まぁ、それはそれとして、お前もよく金を貯めたな」


ウェールは入学費の話に戻してくる。


「普通の高等校生なら無理な金額だろうに」

「専門校の一番下だからこそ入学できたってところかな。学力や魔術は、皆のお陰でどうにかなったし」

「嬉しいことを言ってくれる」

「お金だったら私が出すのに。合わせて婚約もしてくれれば、色々安泰よ?」

「それじゃ、君を好きでも胸を張って『夫』だと言えないだろ? そんな将来があるかはわから―――。」


ピアは『お、夫!? 夫、旦那様、結婚……』とぼやきつつ、うつむいていった。

あぁ、これは墓穴ぼけつだった。


少し気まずい雰囲気になるが、ケリスが話を進めてくれる。


「貯めると言っても、おまえは講師の手伝いと『つづりり家』で稼ぎきったんだから、凄いよ」

「綴り家って、そんなに貰えるの?」

「直球だな。できた話によるけど、ちまたで評価がある人にとっては、沢山貰えるらしいよ。僕はせいぜいたなに並んで選ばれるくらいだと思うけど」

「そりゃあ過小評価ってもんだ。5年で専門校に通う金だと、稼ぎは凄いもんだろ? それに、巷側の俺にとっては、お前のピアちゃんはそれなりに『綴り家』として有名人だ」

「そうよ。うちのギルドでも読んでいる人がいるんだから。噂だと、同じタイトルに6回の再印刷があったとか?」

「……どこから情報が漏れてるやらっと思うが、ギルド長の娘様だった」

「そして、あんたの作品はここにあるの」

「!!?」


ピアの手によって高く掲げられた一冊の紙束。

僕はすぐに辞めさせるため、紙束めがけて手を伸ばす。

しかし、手はギルド娘とおもちゃの2人に抑えられ、蔦によって椅子に縛られる。


「今回の新作、朝早く並んで買ったんだから」

「俺も買いたかったけど、昼には売り切れていたしな。人気は上がるばかりだ」

「こいつの書く物語、殺伐としているところが何回もあるけど、ちゃんと登場人物が生きている。一生の人生を送っているところが好きなのよ。ねぇ、『殺伐者さつばつしゃ』さん?」


勝ち誇ったように笑みを向けてくる。

僕は取り押さえている2人に振り向き、話してくれと無言で伝える。

そんな僕を二人は、首を振る。

(就職先が悪くても、死ぬわけにはいかないの)

(今日のおもちゃは、もう無理だ)


そうか、僕の命より我が身ですか。

状況的に諦めつつ、ピアの方を見る。


「君の小説には前回勝てなかったよ。売上順位が先々月1位の『楽園姫らくえんひめ』。わざわざ僕の発売月に合わせて出さなくても、君の方が人気なんだし」

「売り上げや人気は関係なーい。さっきも言ったけど、あんたと一緒じゃなきゃ、意味がないの」


はぁぁぁ……。

今日何度目かのため息を床に吐く。


今後も楽しみなことで。

取り押さえが解かれ、仕切り直しとしたお茶会はもう少し続いた。

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