この先の考え①

卒業式から早2日。

楽しい馴れ合いを終え、講堂内は一部が修理中となった。

実行犯たちにとっては、満足のいく結果だ。


2週間後(16日後)に専門校への入学を控えつつ、一部の同級生とお茶会をすることとなった。

場所はある喫茶店の奥部屋。

店主に許された人だけが使えるような場所……と思われているが、そんな大層な場所ではない。

個室で、机と椅子があるだけの部屋だ。

どうして、この部屋があるかというと―――。


「やっぱり私、ここの子になりたいわ♪ ママさんのケーキは世界一よ!」

「あらあら、それはよかった。誰かさんは何も『美味しいよ』しか言わないんだもの。面白みがないわ」

「いつでもお呼びあらば、駆けつけますよ! お手伝いでも、味見でも!! 」

「ピアちゃんは、いいお嫁さんになるわね♪」


母さんはそんなことを言いつつ、笑顔でこちらを見てくる。


「お嫁さんになるには、リクラがまともにならなきゃできませんよ」

「ごめんなさいね、ヘタレな息子で。どこで育て方を間違えたのかしら」

「ママさんは、なーにも悪く無いですよ!

気持ちが弱いこいつが悪いんです 」


先ほどから言いたい放題の2人である。

この個室には、他に同級生のケリスとウェール、ミリシャがいるが、皆それぞれでお菓子を楽しんでいる。

僕も母さんが作ったホットケーキを食べているわけだが。

気に入らないという表情をしているとケリスがため息をつく。


「ほんと、お前の家とお前は凄いな。この町の全員がここの店の味で育ってきたってもんだ。それに加えて、息子は魔術の天才ときた」

「それはどうも。僕だってこの店を継いで、平和に暮らしたいもんだよ」

「無理だって。ピアちゃんの目が黒いうちは、道が決まっているもんだ」

「そうよ。あんたが店を継ぐんだったら、直ぐにでも結婚するわよ♪ まぁ、魔術師としても逃がさないけど」


母さんとの会話から帰ってきたピアがこちらに参加してくる。

どうしてこうなったんだろうか。


現在僕たちがいるのは、この町で200年以上喫茶店とお菓子屋をしている僕の家だ。

さっきケリスが言ったこともあながち間違っていなくて、子供たちはお菓子を買いに、大人たちはケーキや紅茶、コーヒーを楽しみに通いつめている。


これほど長く店をやってこれたのも、曾祖父ひいおじいさんと曾祖母ひいおばあさんのお陰だとか。2人は自分の店を経営しつつ、高位貴族様へお菓子をよく作っていたそうだ。

それ以降、その家に生まれた子は小さな頃から家の生業を手伝い、継いでいくという流れとなっている。


そして、今いる部屋が昔、キッチンだった場所。喫茶店とお菓子を両方行き来できる場所にある。

今日みたいに集まることがあれが、それぞれが食べたいものを注文、買い込みにいくということだ。


「君のお父さんから言われているだろう?『私の目が黒いうちは娘をやらん!』って。僕はそれに正しく従っているわけなんだが」

「あんな人はホカっておいていいわ。というか、そんな目は潰す!」

「いやいや、僕にとってはピア『姫』の面倒を見なくてすむーーー!?」

「やっぱり、殺るわ♪」


僕のホットケーキに、ローソクのようにとげを刺してくる。

あぁ、せっかくのホットケーキが。


「なぁ、ミリシャ。ピアの八つ当たりが酷いんだが」

「諦めなさい。あの子を惚れさせた、あんたが悪いんだから」

「はぁー。先が思いやられる」


ピアは刺を出したあと、また母さんとの会話に戻っていた。

この子と出会ったのは6年前。この町から少し離れた街道だった。

それ以降、この家に転がり込んでくる状態となっている。


「外ではあんなにツンツンしているのにね。私たちだけになると素に戻るんだから」

「リクラ大々好き好きだもんな。あれだろ、2人の時は猫のようにごろにゃ~んって―――!?」


愉快に話していたウェールの首根っこがピアに捕まれている。


「ママさん、お庭を少しお借りします」

「いいわよー。リクラもお願いね」

「……はいはい、わかりましたよ」


ピアと僕、遊び道具のウェールは庭に移動(連行兼ねて)し、僕だけは結界を張って戻る。

優雅なお茶会の再開だ。


「少しおバカだったのが、あいつのいいところだった」

「惜しくない人だったわ」

「はーい、初春限定のロールケーキよ~」

「わーぁ、ママさん、ありがとうございます。たくさんのフルーツが若葉に鮮やかで綺麗です」


母さんがケーキを伴って登場した瞬間には席についていた庭の少女。

多少の振動は関知していたけど、一般人には聞こえないように戻ってくるとは。

変なところで才能を伸ばしている。


ちなみに、遊び道具は部屋のどこにも見当たらなかった。


「ピア、どうやって結界を抜け出してきたんだい?」

「何言ってるの? あなたが出口を準備していてくれたじゃない、私のためのね」


ウィンクしてくると、ドキッとしつつも疲れ果ててしまう。

2人の友人から痛い視線を向けられてくるので、話の先を変えることにした。


「ところで、みんなの進路をしっかり聞いていなかったけど、どうするんだい?」

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