お言葉と登壇
卒業生全員が席に着き、金髪老人の校長先生からのありがたい話時間となる。
国内にある11の高等校の中でも、うちの校長先生は特に話が長いことで有名で、周りの生徒は顔に出すほどにめんどくさいを表現している。
僕だって、実のある話なら歓迎だが、それ以外は―――。
(!!?)
話が卒業式に関係ないことへズレ始めた今、校長の足元に槍のような刺が小さく飛び出していた。
講堂内全体ではそれに気づく人は少ないが、成績上位の卒業生と感知系の魔術師さんたちは笑顔かため息を溢す。
話を一瞬止めて刺を見た校長は、直ぐに話の流れを正した。
「き、君たちはこの3年間を有意に過ごしただろう。特に、一部の生徒は国内の現役よりも力を備え、今日卒業していく。本当に、苦労することも――!!!?」
あ、また新しい刺が足元に。
次は、校長先生が履いている靴ギリギリを
「ま、まぁ、そんな優秀な君たちを本校の生徒として育ってくれたことに、私は誇りに思う」
顔は笑顔で話していても、冷や汗を流しているのが僕の場所からでもわかる。
苦笑いしつつも、隣に座る実行犯をちらりとみると、今にも
まあ、いつものことだからいいけどね。
こうして、刺があと3回生えながらも校長先生は喋り続けたが、「最後に」と言い、僕たちの方を見ながら言葉を投げ掛けてきた。
「一人一人が思うことは、時に纏まり、時に対立する。それは、可視的に見ても、皆の行動に現れる。そんな時、自分が持てる力の中で特に
愛し合う、いがみ合う、笑い合う。皆の豊かな関係を私は心から楽しみにしている。以上だ」
講堂内を拍手が埋め尽くす。
……たまに良いことを言うから嫌いになりきれない人だ。
ただ、どうしてこっちを見た。
僕は右足に力を集中させ、校長先生の歩く先へ魔術を仕掛けておく。
そこを踏んだ校長先生は氷の上に立ったかのように滑り、次にはローブの右脇に穴を空けていた。
刺で。
『ちょっと、邪魔しないでよ。あと少しで、憎たらしい校長の足へ刺せるところだったのに』
『憎たらしいのは同意するが、僕だってやりたいんだ』
『ふん! 器用なことをして』
小声ながらも共犯とやり取り。
やっぱり反りが合わない。
前を見てみれば、校長先生がこちらをギロリ。僕たちは笑顔を送っておく。
そのあとは、在校生からの送り言葉や来賓からの言葉と続く。
そして、最後の『卒業生挨拶』に。
卒業生主席と次席が登壇することとなる。
「では、初めにピア・ダリアントさんお願いします。」
司会に促され、ピアが一段高い壇上へ。
「この度、卒業しますピア・ダリアントです。
私たちが本校に入学したのは5年前ですが、今になってとても短い期間だったと感じております。在学中は、暇という言葉はいらないほどに充実し、自身を高めていく環境でした。
特に―――」
と言って、僕の方を見てくる。その表情は、いつもの『姫』であり、悪巧みの時を告げるものだ。
「私には、全力を出してもへこたれず、粘着質のように這い上がってくる
卒業生を代表し、多くを教えてくださった先生方、支えてくださった保護者の方々に感謝し、ピア・ダリアントの言葉とさせて頂きます」
深々とお辞儀をし、拍手を招く。
シャキッとした動きで待機場所に戻ってくると、優越な笑いを向けてくる。
僕の中で、苛立ちが爆発しそうだった。視線をその先に向けると、校長先生と同級生数名が結界の準備をしている。っく、し始めようものなら、僕が下のようになってしまう。
大きくため息をした後、名前を呼ばれたので壇上へ。
やられたら、やり返してやる。
「リクラ・ウィントリンです。
私たち卒業生60名のため、このような式を催してくださり、誠にありがとうございます。卒業するにあたって、本校先生方、在校生の皆さん、保護者の皆様、そして地域の皆様に感謝いたします。
私たちが今後の社会に出る準備段階として、本校にて
その中で、」
と言って、後ろに待機するピアへ振り向く。ニヤッと。
「自身の力を見極め、成長点を磨くには多くの友人が必要であり、その点においてもとても恵まれました。やり過ぎてしまう方がいらっしゃったからこそ、私たち在校生の良い練習台ともなったのです。
同級生の皆、そしてお茶目な『姫』に感謝し、言葉とし―――」
最後の言葉を言おうとして、後ろより何かが近づいてきたのを感じた僕は、左へ大きくジャンプする。
そして、先ほどまでいた場所には幹のような枝が伸びてきていた。もちろん、先は尖りながら。
枝の始点へ視線を向けると、とびっきりの笑顔を出し、目だけが笑わないピアがいた。
「生意気な卒業生は、調子に乗らないよう
「ちょっと待とうか。折角の晴れ舞台を台無しにする気かい?」
「あら、先に台無しにしたのはあなたよ、リクラ?」
「まったく、お茶目な『
ピアは、床に手を合わせると、表面を次々と棘に変えていく。
代わりに僕からは、彼女の魔術に向けて振動を飛ばし、相殺していく。
「ッチ! ほんと、あんたは憎たらしいわ」
「君から聞けるなんて、誉め言葉だね」
「やっぱり、こいつを亡き者にしないと卒業できない!!!」
そうして、講堂外でしていたことを再開することとなった。
周りには、先ほどと違って、卒業生と在校生が結界を。
併せて、おかしな会話が聞こえてくる。
『うっし、配当を発表するぞ。あいつらが卒業式中にやり合うに賭けていたやつは配当2万ルキュールだ』
『くそ、最後だから場を弁えると思っていたが』
『無駄無駄。占いが得意なヴィア先生も、「絶対するわ」って言ってたし。』
『最後まで魔術トレーニング、もとい、あの子たちのお守なんて』
「ねえ、ちょっといいかい」
「なによ? 今頃泣きついたって許してやんないだから」
「いや、あそこの
「……へぇ。あんたが聞いたっているなら本当のことね。いいわ、今はやってあげる」
「ありがと、ピア」
それまで打ち合っていた魔術を配当とか笑い合っていた者たちへ向け始める。
突然、結界が猛烈な勢いで壊れ始めたことに、必死になって結界を張り直していく学生と一部教師。その中には校長先生も含まれていた。
あの爺さんは、次の新天地に向かっていただきたい、ぜひ。
こうして、第160期生卒業式は平和に終わるのであった。
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