ついでに『綴り家』の世界
桜空みかたまり
1章 今ここで
卒業と次へ
学校内の大きな講堂に多くの人が集まった。
ほとんどが学校関係者で、保護者と学生が講堂内で待機している。
そして、今年の冬をもって卒業する僕らは講堂外で待機中。
「……納得いかない。何であんたと」
「文句があるなら、学校長と自分の成績に言ってくれ。僕の方が成績は上なんだし」
「んな! ちょっと最終試験が良かったからって」
「事実だ」
最前列で夕焼け色髪の女子と睨み合いながら、それぞれの片手に魔術の触媒となるものを握りしめる。
後列からは、「また夫婦喧嘩かよ」とか「いや、浮気が発覚して問い詰めているだけかもしれない」と声が聞こえてくる。
「ほら、また君のせいで変な噂が立つ。どうしてくれるんだ」
「はぁ? 今の流れを把握できないの?? だから『
「出来ていないのはそっちだ、『
「っく! やっぱり、あんたはここで、世界から退場してもらうわ!!」
そう言って、ピア『姫』は細長い葉を触媒として針のように飛ばしてくる。
「っちょ! 他にも学生がいる前で……」
「リクラ、気にすんな。既に結界は展開済み。奥さんとのスキンシップをどうぞ続けてくれ」
「そうそう、同じ専門校に行けるからって、高等校時代に愛し合えるのは今日が最後なんだし―――!!?」
僕とピアは、同期が掛けてくる言葉に向かって魔術を発動した。
この『姫』が奥さんになるなんて、胃に穴が開いてしまう。いや、そうなると負けたようなので、暴走してしまうかもしれないとしておこう。
魔術を飛ばした先の2人は、結界に突き刺さっている魔術触媒をみて引きつった笑いをしている。
「最高出力の結界でこれか。成績トップ夫婦のデレが強すぎて死にそうなんだが、どうにかなりませんかプランテル先生?」
「関わるわけないでしょ。独り身に対しての嫌味にしか見えないわ、この若夫婦が!」
「「誰が夫婦ですか!」」
講堂外のある結界内で魔術の発動が繰り返される。待機の学生それぞれが、1つの結界に対して重ね掛けをしていき、『中のもの』が飛び出さないように努力する。
魔術1つでも飛び出そうものなら、被害は計り知れない。各学生は、この行動が日常茶飯事的だったので対応はできているが、何人かは「こんな晴れ舞台前に死にたくない!」だの、「こいつら、また力が強くなってねぇか!?」と叫ぶ。
そんな中、列が並ぶ先にある扉がチョロっと開き、女性教師が顔を覗かせる。
「(プランテル先生! そろそろ入場です。どうにかしてください!!!)」
小声で、結界が展開されている震源を指しながら命令する。
それに対して、プランテル先生は大きくため息し、腰に付けていた小さな杖を地面まで伸ばす。そして、結界の方を向いて、小さく〔トントン〕と地面を叩く。
「「!!?」」
次の瞬間には、結界内が白く覆われ、極寒の世界を作り上げていた。
「そろそろ終えなさい」
「「は、はい!」」
突然の寒さが僕らの熱を一瞬に奪っていく。
どんなに現在が冬だからといって、先生の極寒は、そのさらに上を提供してくる。防寒着なんてものは意味をなさない。
『
「最後ぐらい、シャキッとして出ていきなさい」
そうして、講堂内の司会が入場を促す進行を始める。
『第160期生が入場します。主席、リクラ・ウィントリン。次席、ピア・ダリアント』
「「はい!」」
先生を先頭にして、順々に指定された席へ向かい始める。
卒業式の開始。
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