第42話 悪党勝負

 征治朗は桜塚驟雨を蹴り上げ、盾として掲げ持ちながら身を伏せた。シュウがなんの勝算もなく、自身をも巻き込む攻性結界を発現するはずがない。しかし結界内には、なにも発現していなかった。爆炎も、氷河も、毒ガスや、電撃も、なにも現れていないのだ。

(……不発?)

 習熟していない鬼道術では、よくあることだった。そして充分にあり得ることだった。

「残念だったな、桜塚」

 掲げ持っていたシュウを再び床に叩き付け、拳を握りしめる。籠手に包まれ、なおかつ極限にまで筋力を上げた拳打ならば、シュウの頭蓋をたたき割れる。

(悪あがきをされても面倒だ――もう殺す)

 右拳を振り下ろす。

 そこで異変に、気づいた。

「……ッ!?」


 右腕の鎧――籠手が消失している。


「――な、ぜ」

 右拳を振り下ろしながら、大鎧を素早く確かめる。炉心は良好。鬼道術の不発ではない。胴当てや、脚甲は存在している。

 ただ右腕の籠手だけが――

「ははっ、アンタの鬼道術なかなかだなァ」

 地に伏したシュウの右腕に、見慣れた右の籠手がある。

「なにをしたッ!?」

「気まぐれに教えてやンぜ……親父の遺産の攻性結界は、|強奪≪ごうだつ≫結界って名前でなァ……」

 ニヤついたシュウが立ち上がってくる。

「結界領域内の鬼道術を奪うンだよ」

 立ち上がりながら、シュウが装甲化された右拳を振ってくる。

「――実にタチ悪くて、実に俺向きだろォッ!」

 奪われた|鬼道術≪籠手≫が振るわれ、征治郎の生身の右腕を破壊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る