第31話 悪徳生徒会の脱獄準備

 生徒会室の円卓に無線機を置き、シュウは監視モニター前の席に座わった。

「……むぅ、わたしを殺したと、なぜ嬉しそうに言えるのだ?」

 むくれた顔を見せてきながら、日傘がシュウの隣に座った。

「ま、完全な演技ってわけでもないからな、最初はお前を裏切るつもりだったし」

「今更だが、シュウは放っておけば人間と吸血鬼の双方に迷惑をかけそうだな」

「迷惑ついでに利益も押しつけるから、まァ、誰もが苦笑いで許してくれるさ」

 口端を上げたところで、背後から雫の声がした。

「シュウ、あんたの演説通り、なんとかなりそうよ」

 この校舎からの逃亡ならびに人化血清と甲一号ワクチンを奪取する悪だくみを、シュウは皆に演説していた。雫たちも賛成してくれて、その要となるモノを別室で制作している。

「赤紫色の結界が連中へのブラインドになって屋上の大規模トラップ、生ゴミ袋もしっかり回収できたわ。書記の言うとおりにする会長っていうのが、アレだっただけ」

「おう、こっちも無線で鎌かけに成功。征治朗が人化血清を持ってるっていう言質を取った」

 人化血清を成功報酬に約束させたのは、それが狙いだった。

「後は実際に、この包囲網を突破して人化血清も甲一号ワクチンを奪い取るだけさ」

 雫とうなずき合っていると、日傘が口を開いた。

「……雫、本当に良いのか?」

「ん? あたしらの命を危険に晒してって、ことかしら?」

 言いながら、雫は日傘に優しくたおやかに微笑みかけた。

「実家、|博徒≪ばくと≫系の極道なのよ。だから悪友たちの野望に命を賭けるとか、心躍るわけ」

 日傘も雫に微笑みかけた。

「雫たちの友情に応えるためにも、わたしは二度と今のようなことは聞かぬよ」

「おい、女同士の友情もいいってのは分かったからさ。琴音と楓の進捗を……」

 割って入ったシュウに、雫と日傘の半眼が同時につきつけられる。

「……これだから、シュウは。空気を読みなさいよ」

「許そうではないか、こやつは空気を読むと死ぬ難病なのだ」

「おいこら、俺イジりで連携すんな。女同士の友情はもういいって言ってンだろ」

「はいはい、分かってるわよ。琴音からの報告によれば、風速も風向きも問題ないって。地図と照らし合わせてもいたから、平気でしょ」

「おう、狙撃技術も応用きくな。で、楓は?」

「……泣きながら、手縫いでミシンばりのスピードを実現してたわ」

「お、おう。その涙の理由は日傘のコトでか、労働条件かは聞かないようにしよう。ともあれ、あいつが大家族の長女らしく家事マスターで助かった」

「あはっ、皮肉かしら? あたしと琴音の女子力の低さを笑ってるわけ?」

「そのコンプレックスと一緒に持ち場に帰ってくれ」

「黙りなさい。っていうか、プロパンの本数が足りないの。どうする?」

「ああ、それなら日傘が代わるさ」

「あ、炎が出せたんだったわね。任せるわよ、日傘」

「うん、信頼してくれ。生徒会長の期待には、わたしは応えるぞっ!」

「ん、よろしく。じゃ、あたし持ち場に戻るわね」

 背を向けた雫が、不意に言った。


「……ね、今の話合いってさ、文化祭の準備みたいよね?」


 誰かが答える前に、雫は生徒会室を出て行った。去り際に、こう続けて。

「本当にただの準備なら、明日はただの文化祭だったのにね」

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