第26話 生徒会の天敵の本領発揮

『――聞け、籠城犯ども』

 硝煙を上げる自走砲の砲口、校舎の二階中央に穿たれた砲弾痕を指揮車の監視モニターで確認した征治朗は、同じく指揮車の外部拡声器にてシュウたちに告げた。

『今、その校舎に放った砲弾には、特殊な鬼道術が積載してある』

 モニターに映る包囲網の装甲車列。その装甲に設えた呪印が鬼道術の防御結界を展開し、赤紫色の燐光が校舎を覆っている。鬼道術を防ぐその結界は今、あの学舎を隔離している。

『積載していたモノは鬼道術の疑似生命――ウイルス兵器だ』

 このウイルスは鬼道術結界以外では防げず、校舎のどこにいようと罹患する。

『その、|甲一号≪こういちごう≫ウイルスは魂を喰らう。特に異形の魂が好物だ。必然、吸血鬼は飢餓の進行を加速させ、退魔士は吸血鬼の飢餓を体験できるだろう』

 エボラ出血熱よりも酷い症状だろうと前置いて、征治朗は本題に入った。

『ウイルスといっても、あくまで比喩だ。感染後の潜伏期間はなく、すぐに魂を喰らう。もともと魂が劣化した吸血鬼ならば保って数時間――退魔士でも二、三日で死に至る。普通の魂を持つ人間には実験した例がないのでな。残りの日数は不明だ』

 甲一号ウイルスが普通の人間の魂にどのような効果をもたらすか。それも確かるべき一つだった。でなければ、籠城犯の少女たちを見逃していなかったし、シュウを部下に勧誘するといったような遠回りな手段を取っていない。

『さて、貴様らにひとつだけ朗報があるとすれば、甲一号ウイルスは感染力が乏しいことだ。罹患者に接触しようが感染しない。パンデミックはあり得ん』

 自暴自棄になったシュウたちの突撃を牽制、ならびに希望をくれてやる。

『ここまで言えば察しているな、桜塚? ウイルス兵器を運用するなら、専用のワクチンが無ければおかしいと。その通りだ、甲一号にもワクチンの用意はある』

 その甲一号のワクチンが未完成だと、征治朗は言わなかった。確かに、ワクチンは甲一号ウイルスを抑制する。それ以上に、体内で働く鬼道術を停滞させる。だが、それだけだ。甲一号ウイルスを根絶できないのだ。よって、定期的にワクチンを投与し続けなければならない。

『甲一号ワクチンを渡して欲しければ、俺が提示した条件を覚えているな? |退魔士≪きさま≫が吸血鬼を殺すこと。日彰の鬼道術研究……遺言を教えることだ』

 日彰の鬼道術研究で、甲一号ワクチンを完成品へと発展させる。あるいは甲一号ウイルスを改良する。そうすれば甲一号ウイルス兵器を、対吸血鬼の戦略兵器として完成させられる。

『抗体』という防衛的な手段だけでなく、また退魔士の討伐などという小規模な駆逐ではなく、街、県、国家――戦略レベルの吸血鬼殲滅が可能となる。そう、『抗体』の普及率の低い第三国だろうと、甲一号ウイルス兵器ならば一気に吸血鬼を絶滅させられるのだ。

 そう考えて、征治朗はかすかに口角を上げる。

『桜塚。よもや、日彰の遺言に虚偽を交えることはあるまいな。先の口約束とは違い、貴様らの命は実際、俺が握っている――どこにも逃げられん』

 独り言のように、征治朗は続けた。

『この甲一号ウイルスは日彰の人化血清『人魚姫』の試作品を、俺が強奪して発展させたものだ。退魔士はやはり吸血鬼を殺すことにしか生きられん』

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