第14話 生徒会の天敵は着実に攻める
シュウたちによって鳥羽高校要塞化されていくのと平行して――
『各班、報告しろ』
高校の包囲網を、征治郎は強固な牢獄にしていた。指揮車の無線からは報告が上がってくる。
『狙撃班配置につきました。が、ブラインドや文化祭の看板などで校舎内への狙撃は困難』
狙撃班長の報告に、征治郎はうなずく。
「構わん、そのまま待機」
次いで技術支援班からの報告。
『鳥羽高校の|地下共同溝≪きょうどうこう≫を押さえました、いつでも送電を止められます」
「俺の指示があるまで切るな」
『了解。それと校舎内で違法電波、それも暗号無線が行き交っているのですが』
「解読と傍受を頼む」
了解と報告する班長に、征治郎はうなずく。これで鳥羽高校の封鎖はその支援体制まで整えられた。よって、征治郎は各班に厳命する。
「各班、別命あるまで待機しろ――俺が単独で突入する」
各班長の動揺が無線越しに伝わってきた。実際に反対してきたのは、例の第一隊長だった。
『ま、待ちなさい、久鬼君っ! 報道陣に桜塚驟雨の情報を隠蔽したあげく、交渉すらしないのかねッ!? 彼らの声明によれば、僕の部下や民間人が人質となった可能が、』
「報道陣や交渉班に華を持たせることはありません。これは、われわれの事件です」
『ほ、本当に、われわれだけで解決できるのかね? しかし、それにしたってなぜ単独で?』
「私にお任せを。もし敗北したならば、全て私の責任です」
『……期待しておくよ』
第一隊長の返答に無線機を切り、次いで私物の無線機を征治朗は取り出す。
「俺だ。嵐山風鈴から無事に逃げられたか?」
応答するのは非正規任務でもこなしてくれる小隊の長。出自は久鬼家の分家だ。
『命令通りに。本命の兄が見つかったとのことでしたが――』
「ああ、俺が桜塚の息子を確保する」
そう、征治朗がそもそも単独で突入するのは桜塚驟雨――シュウを略取するためだ。いや、正確にはシュウがこれから得る機密情報を奪うため。
それゆえに掴んでいた籠城犯――シュウたちの情報を、報道陣や野次馬には隠蔽した。
『了解。今後の私達は?』
「アンチ・ヴァンパイア・カンパニー(AVC)の第四|技研≪ぎけん≫から、この現場に運んで欲しいものがある」
『この街の技術研究所……例の試作弾頭ですね?』
「ああ、ちょうど先日、完成した。この籠城事件で実証試験を行う」
『隠蔽処理に時間をいただけますか?』
「無論だ。それと作戦終了後、吸血鬼の死骸も第四技研に運んでくれ』
了解という返信を聞き、征治朗は無線を切った。吸血鬼事件にあたる裏側で、吸血鬼殺害手段の獲得を目論んでいく。いつも通りだった。
(ただ今回の事件は、俺にとって特別と言えよう)
思いながら、時刻を確認。あと三十分ほどで日付が変わる。シュウが機密情報を握る刻限だ。席を立ち、征治郎は指揮車の扉を押し開ける。
「桜塚の息子も、吸血鬼の共犯者となったか」
校舎を見上げながら、征治郎は炉心を鼓動させた。袖をまくる。前腕部に彫り込まれた刺青こそが呪印だ。その呪印に量子化された魂が奔り、鬼道術を発現させる。
燐光がはれると、征治郎は戦国時代から出てきたような朱塗りの大鎧をまとっていた。その|籠手≪こて≫には|鉄棍≪てっこん≫が握られていた。魂から精製した、この甲冑と鉄棍は通常のそれよりも強度は段違い。さらに甲冑自体にも呪印が施されていて、各種感覚器官、運動能力を跳ね上げる。
鉄棍を道路に突き立てる。
「退魔士の家系に生まれついておきながら……」
その声には征治朗自身にさえ気づかないほどの、かすかな怒りが込められていた。
「なぜ、桜塚の連中は吸血鬼に肩入れするんだ?」
甲冑に施された呪印が主の闘志に呼応するように燐光を放った。
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