第12話 立てこもり犯になってでも、生徒会会議


 生徒会室に戻ったシュウは、円卓配置の机の上に立つ日傘を目撃した。

「このたび~わたくしこと日傘は全犯罪者の憧れ――一千万の賞金首に出世いたしました!」

日傘は文化祭で『鬼ごっこ』で使用予定の『鬼嫁』と印字されたタスキを掛けている。

「あたしも嬉しいわ。牧場主が牛の成長を見守る気分ね、きっと」と、拍手をする雫。

「うぅ、賞金首になるのっておめでたいことじゃない……よね?」

 首をかしげながらも、楓は食事を配膳。で、日傘は政治家みたく手を振っている。

「これも皆さんのご声援のたまもの! ありがとう!」

 籠城犯のはずの彼女らの、なんかアホな寸劇が開幕していた。

「あっれー? 俺が居ない間に、不思議なことになってンなー」

 とかぼやいていると、シュウは監視モニターで放送されていた報道番組を見つけた。

 報道の内容は銀行強盗の続報。要するにシュウたちの高校籠城事件だ。ビルの谷間でニュース原稿を読み上げるアナウンサーの肩越しに、校舎の一部と強襲部隊の包囲網がうかがえる。

 高校を取り囲む強襲部隊の装甲車列はさながら城壁。さらには機動隊の車両や人員も野次馬&報道陣対策に配置されている。

 面倒なことに、全ての人間は敵と言っていいだろう。救いがあるとすれば、日傘以外の実名報道はなされていないコトぐらい。といっても、時間の問題でSNSで名前くらい拡散されるだろうけど、と考えて、シュウは首を傾げた。

(おかしいな、俺の悪名はこういうときこそ利用するはずなのにな)

 考え込みそうになるのを遮ったのは、楓だった。

「お帰りなさい、シュウ君。犯罪者の世界ってワンダーランドね、不思議がいっぱい」

「……落ち着け深呼吸だ、委員長。俺が言うのもアレだが、俺らに毒されすぎンな」

「あ、ありがとう! 危なかったよ! あやうく正気と常識を失うところだったわっ!」

 元気になった楓に口端を上げていると、今度は日傘が妙な自慢をしてくる。

「戻っていたか、シュウっ! わたしはテレビ出演したぞっ! 人間的にはすごいのだろう!」

「あーそうだな、すごいな」

「うん! わたしは今夜、全ての吸血鬼におとぎ話のような希望を見せるのだっ!」

 日傘の笑顔が吸血鬼の犯罪者にしてはやたら晴れやかで、シュウは目をそらした。

 

 生徒会室の円卓についたシュウたちに、雫が生徒会長な口調で号令を下した。

「これから生徒会会議を始める。議題は退魔士どもの包囲網をどう抜けるかだ!」

「うわぁ、普通の会議みたいに始まっちゃったよぅー」

 頭を抱える楓の隣で、日傘が元気よく挙手。

「はっはは、わたしの出番だな! 一千万級の犯罪者、このわたしに全て預けるがよい!」

「言ってみて、吸血鬼」

「強行突破こそ、凶悪犯の花道! それが一番、格好よいのだからな!」

「――よしっ! 今後、アホな提案をした奴は罰金とするわっ!」

「……む? あれ? 強行突破をした方が誇らしい……ぞ? アホではないぞ?」

 小首をかしげる日傘に、シュウがかぶせる。

「とりあえず、無力化した強襲班を人質にしようぜ」

「使い捨てに最適ね」

「八人の手足の指と耳、百四十四個も取って良いところがありますね」

「おお! 血も涙もないな!」

 はしゃぐ日傘を横目に、楓が立ち上がった。

「ち、ちょっと! それはいくらなんでも酷すぎるよっ!? わ、私が許さないっ!」

「ってもな、俺らの安全に人質は必須だ。ま、人質のフリをしてくれる奴でもいいンだが~」

 ニヤニヤするシュウに追随する、雫と琴音。

「あたしたちはさっき暴れちゃったから人質にはなれないのよね」

「非戦闘員は一人しかいません」

 人質役をこなせるのはお前だけ的な視線を受けて、楓が叫んだ。

「わ、わ、分かったわよっ! みんなの安全のために、私が人質やればいいんでしょ!?」

 どこまでも善人な楓に、悪徳生徒会の面々はニヤニヤしていた。

「さすが委員長、体を張って生徒を守るわけね」と、雫。

「風紀委員長の|標本≪ひょうほん≫になれます」と、琴音。

「ついさっきまで人質やってた俺がコツを教えてやるぜ」

「うあぁーっ、私はいっつもこうやって酷い目にあってる気がするよぅ」

 頭を抱えながら席に着く楓。その肩を日傘が叩いた。

「案ずるな、楓。わたしは主犯ゆえ人質を守るぞっ!」

「あ、ありがとうっ! 誤解してたよ、吸血鬼も優しいのねっ!! お願いしますっ!」

 楓が日傘の手を握った。本気の友情が育まれそうだった。

 と、雫が悪徳生徒会特製アイコンタクトを贈ってくる。裏会議が始まった。

『ね、おもしろいから委員長に人質役を呑ませたけど、本当にやらせるの?』

 雫の議題提示に、琴音が意見を表明する。

『手札は多いに越したことはないかと。委員長は私たちで守ればいいのです』

『ああ、ってもメインで戦う役は俺が貰うぜ。退魔士のやり口は二人よか知ってるし』

 シュウの提案に、琴音が補足した。

『私は狙撃で援護します。シュウくんの戦い方、近接戦に向きません』

『話が早ぇな、さすが暴力の信奉者。狙撃で敵を牽制、あるいは追っ払ってくれ』

『戦い方が決まったところで、シュウに質問。吸血鬼と退魔士って、人間とどう違うの?』

『すがすがしい差別だな、雫サンよ』

『区別よ、区別。しょうがないじゃない、違うんだから』

『その開き直りに免じて話してやる』

 軽口を叩いてから、シュウは説明を始めた。

『一般には知られてない退魔士の解釈だけど、吸血鬼は不完全な人間だと言われている。吸血鬼は生まれながらに魂を欠損してンだ。普通の人間の魂は球体なのに対して、三日月みたいな感じ。で、吸血鬼はその欠損を補うために、生き血を介して人間の魂を略奪する。そんで魂が欠けさせられた人間も、吸血鬼化するってのが定説だな』

『その理屈だと、ひとりの血で充分なはずですが?』

『や、吸血鬼は満ち足りることはないんだ。魂の密度……コレも比喩なんだが……は吸血鬼の方が高い。人間の魂でその欠損を補おうとすれば数百人でも足りないらしい。っても、魂の補完した吸血鬼の実例が確認されてないらしくてな、不明なコトが多い』

 続いてシュウは退魔士の解説に移る。

『で、退魔士の魂も人間のそれとは違う。退魔士の魂は満月、月光で輪郭がぼやけてるような感じなんだ。だから普通の人と違って魂を削って鬼道術の……材料にできる』

『よしっ、シュウ! 金の話に戻そう』『私もまだ、その方がいいです』

『お前ら途中から無視してたな!? 顔芸してただけかよ、俺!?』

 その後の裏会議では、籠城&脱出計画を練り上げていった。シュウの海外逃亡も含み、シュウは雫のコネで中国人の|周≪シュウ≫くんとして第三の人生を送るらしい。

 そして逃亡資金の獲得もかねた、日傘の所持金&賞金の強奪計画も詰めていった。

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