いちについてコンビニ

 陸上部は女子高生である。

 名前は個人情報保護のため明かせない。

 それはそれとして、競技場直結のコンビニというのは本当にありがたい。弁当を持ち込んでも熱気で痛んでしまうことがあるため、ごく近くで昼食を調達できるのはとにかくありがたい。


「あーーひんやりしてきもちぃーーー! 今年のインハイはなんか違うねー」


 だらしない声を上げる彼女は頰を緩ませる。クーラーがガンガン効いた店内は確かに快適だが、長居すると身体には悪そうだった。

 ただでさえ、今の彼女は軽装である。ランパンとタンクトップのユニフォーム姿。品揃いを物色しようとして人影に気づく。


(あ、別の学校の子たちかな?)


 180cm近くある自分の長身に比べると、とても小柄な少女。桃色のショートがゆらゆら揺れて愛らしい。横を見るとさらにちっこい少女。黒髪と山吹色の和装が奇妙な威厳を放つ。


(小さい子も多いなー⋯⋯全中の出場者かな? それにしても小柄だし短距離部門かもね)※全国中学総合体育大会


 レジから離れた女性は、大人の女性だった。気品あるただずまいにおしゃれな服装。こんな服装で歩き回っている自分が気恥ずかしくなってしまう。


(意外と締まっていると見た⋯⋯⋯⋯投擲競技かな? インハイ⋯⋯ううん、インカレかも)


 軽めのおにぎりとゼリー、後はスポーツドリンクをカゴに放る。ボルテージを上げていく。手早く済ませてアップに時間を割く気だ。


「っしゃいまっセー」

「すみませーん、これ下さい」

「っあくぉくじゅーえんにありまーす」

(滑舌悪いな⋯⋯)


 実はよく分からない人からよく分からないお金をもらっている。一万天円というらしい。とりあえず店員に渡す。


「ぁ、ざーす」


 お釣りは返ってこなかった。妙に機敏な手つきでシールを貼られる。


「⋯⋯⋯⋯あ、そうか、袋有料になったんだっけ。小さいのもらえます?」

「百億万天になります」

「嘘つけええええ――――ッ!!?」


 思わず叫んでしまった。店中から視線を集めてしまった、ような気がする。気のせいと信じながら、陸上部はシールが貼られた商品を掻き抱いてコンビニを脱出する。


(あーーびびった! マジかマジか! あーもう恥ずい!)


 袋一つ、正直どうでも良い。おにぎりとゼリーをバキュームのように飲み込んでゴミをゴミ箱に捨てる。

 スポドリのキャップを開けながら、気付いた。


(――――当たり前だけど男子もいるじゃん)


 中肉中背の制服男子。優しそうな雰囲気がドキリとする。そして黒服の男は自分よりも背の高いナイスガイだ。女子校育ちで男に免疫のない彼女はドギマギしてしまう。


(うわーーマジかマジか! 上羽織ってくればよかった⋯⋯てかこの格好でうろちょろするのはどうなんだって話だよぅ⋯⋯⋯⋯)


 ぴっちりした黒のインナーの上に、緩めの赤いタンクトップ。黒のランニングパンツからはお尻の肉が少しはみ出ている。


(完全に痴女じゃん⋯⋯⋯⋯)


 競技の時は気にならないが。

 男性陣の視界から逃げるように忍び足。自分の会場だと言われた。『1番』の扉の前に辿り着く。


「さっさと入ってアップしよーと」


 そそくさと扉を潜る。

 広がったのは――――――グラウンドではなく、円形の城郭都市だった。

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