第154話 ダンジョン開放当日
お待たせしました。
―
聖槍らしさがなかったという事で加筆修正しました。
翌朝、ソリトはルティア達と話をする為に扉越しで起こし、食堂へ集まった。
「ふぁ〜…あゆじさまねみゅいやよ〜」
「なら、寝るか?」
目蓋を擦りながらドーラは頷く。
ルティアに一言謝罪を入れて、ドーラを膝の上で寝させてもらう。
「じゃあ…まずは、おはよう」
ソリトは朝の挨拶から切り出す。
「はい。おはようございます」
「ええ、おはようございます」
「ん…マスター、おはよう」
「お、おはようございますッス…」
寝ているドーラを除いた全員が挨拶を返した。
そしてソリトは、昨日海帰りに買っておいたダンジョン島の地図を広げて話し始める。
「今日の昼にダンジョンが開放される前にどのダンジョンに行くかを話しておこうと思ってな」
「そういえば、何も話してませんでしたね」
「昨日は息抜きに全力でしたもの、仕方ないですわ」
「マスターが突然飛び出したのも原因」
「その話をすると時間が無駄になるから掘り返すな」
話の方向を戻すためにソリトは切り替えて話を進める。
「ところで、聖女二人は今レベルいくつだ?」
「私はアルスの時にLv65になりました」
「
二人は間髪入れずに躊躇いもなく即答した。
言葉を詰まらせるくらいの反応は予想していたが、これは無防備過ぎる。
協力関係だからといっても少しは警戒するべきだ、とソリトは息を呑んだ。
それだけ、彼女達はソリトに信頼と信用を置いているという事なのだが。
彼にとってはそれらを知らずとも眉間に皺が寄る案件だ。
教えろと言えばある程度自分の事を教えてしまいそうな、そんな漠然とした不安を感じる。
悪気はない、悪気はないのだ。
ここで、お前等もう少し警戒心持てや!的な事を口にしても、聞いたのにその反応は、というブーメランが返ってくるだけ。
聞いたのはソリト自身なのだ。
それに、ここで時間を掛けて、ダンジョンに行き遅れるのは勿体無い。
ここは貰ったものは有り難く受け取ろう。
どうせ、レベルアップして無駄になるのだから、とソリトは気持ちに整理を付けた。
「…えぇと…ドーラが35で、ランクアップしてステータスはLv40相当には跳ね上がってるから……」
「何ですかその事実。初めて聞きましたけど!?」
「ドーラ…っょぃゃょ〜」
ルティアのツッコミにドーラの寝言が見事にシンクロした。
「初めてだからな……ええと…レベルの平均は…57くらいか」
ギリギリではあるが、パーティとして上級ダンジョンに踏み込める範囲内にはいるようだ。
それなら問題無いか、とソリトは予め、自分の方で考えていた案を提示する
「なら、初日は中級で、上級は二日目からの方が良いと思うんだが、どうだ?」
「そうですわね。いきなり初めてのダンジョンで適性レベルのダンジョンに挑むよりも一つランクを下げて少しダンジョンを理解して慣れておく方が対処は出来るでしょう」
クティスリーゼがいつになく真面目な毅然とした姿勢と顔で彼の案に賛同した。
命の危険に関わるのだから、素の変態性癖を抑えて真面目に返答するのは当然ではあるなのだが、やはり違和感がある。
いや、それよりもこの後のダンジョン開放までの話し合いをしなければならない、とソリトは違和感を振り払う。
「あと、体力、魔力回復薬にその他諸々。回復薬はある程度制限した状態で挑んで良いと思う。回復魔法は使っていい。なるべく自力で攻略しないと、上級は難しい。そう想定しての提案。ただ、危険だと判断する状況の場合は制限関係無く使う」
「死んだら元も子もないですもんね」
「【癒しの聖女】が幸先悪くなるようなことを口にすんなよ」
「これって私が…」
「悪い。キリッ」
「声にするなら顔でキメてください!なんだが無性に腹が立ってくる感じがするんで」
「すまん…しゅん」
「だから声〜!!」
「ごめん。ちょっと何言ってるか分からねぇわ」
「最強過ぎません、その言葉!?」
「ドーラが起きるから静かにしろよ」
「その通りです。その通りですけど、ソリトさんに言われたくないですぅ……」
いつの間にか、自然とルティアを弄っていると、クティスリーゼが顔で細目でやり取りを見ていることに、ソリトは気が付いた。
「本当に仲が宜しい事。その余裕が致命的な結果を招かない事を願ってますわ」
「ああ、素直に言葉を受け取っておこうかな?」
「ええ、そうしてくたまさいまし」
扇で顔下半分が隠されていて表情は読めないが、不機嫌になっているのは明確な程にソリトの肌がピリついている。
「大丈夫ですよクゥちゃん。特に何も無いですから、〝今は〟」
「そう…でも、この道に関しては譲らないので覚悟してくださいな。ルティアさん」
「はい」
不敵な笑みを向け合うルティアとクティスリーゼ。
良くも悪くも二人の方が仲は大変宜しいようだ。
「危険が高く伴うから、さっき案を取り入れるかは自分達の方で判断しろ」
「その言い方だとソリトさんは別行動を取ると言ってるように聞こえるんですけど?」
不審げに表情を曇らせ、疑惑の目を向けて、ルティアがソリトに尋ねる。
「ああ、ダンジョン攻略はお前等だけでやってくれ。俺は一人でやるつもりだ」
「無茶です!それにソリトさんと連携なんてまともにないのに」
「悪いが、俺は上級じゃ相手不足だ。最上級か極級。それくらいでないとアイツとの再戦は叶わない」
現在、ソリトはLv74。
アルス防衛戦前日、中央都市アルス支部のギルドマスターカロミオと拳を交えた事がある。時はLv62で、カロミオがLv68。
レベルにすれば差のある範囲だが、ステータスは超えていた。
お陰で、自身のステータスが、どの辺りのレベルか予測出来た。当日には無駄になったが。
それでも、現在のステータスがLv80を優に超えた位置にあるという参考にはなった。
その経験を踏まえて、ソリトは先ず、最上級で自身のステータスがどのレベル適性にあるのかを測りつつ、ダンジョンを経験しておく。
その上で極級ダンジョンへ行くかを判断する方針とした。
限界を知っている知らないでは、命を落とす危険度は下がる。
死んでしまってはバルデスと再戦は破綻。
それでは本末転倒である。
ただ、その前にソリトは昨日見つけた海底遺跡に足を運ぶ予定がある。
だが、今日はあくまでも視察。
ある程度探索したら、すぐに地上へ戻る予定。
本格的な探索は、ダンジョン開放期間が終了してからだ。
協力関係を結んでいるルティアとクティスリーゼには、その時話す予定だ。
もし、これを今話せば、クティスリーゼが報告して調査隊が派遣されるかもしれない。
本来ならそうするべきなのだろう。
だが、自分に関わる事は自分で知りたいという理由と、やはり国は信用出来ないという心情。
その二つがソリトに選択肢を切らせた。
そして、理由はもう一つ。
海底遺跡に行くにしても、海底を進む方法が確立していない。
なので同行しても無駄足になるだけ。
連れていけたとしても、精々二人か三人が限度だ。
そう言った理由からも、ソリトは一人で一度向かう事にした。
もしかすると、何処かの国が水中で自由に行動できる魔道具を独占しているかもしれないが、そこまで疑って詰め込むと切りがない。
なので、これに関してはスルーだ。
「ソリト、さん?」
「……とにかく、俺との連携は必要ない。ドーラと【天秤】で取れるようにしておけ」
「……ん〜」
どうやらルティアは、不服らしく口を尖らせる。
「【癒し】、そのモチベーションのままダンジョンに行くなよ。命取りになるからな」
「はい」
少し気の引き締めた顔付きで返事をしたルティアだが、また不満気な顔になった。
そこに、三日目辺りにでも連携の訓練をしようと言うと、ルティアは満面な笑みで元気良く返事をした。
朝から今日も今日とて、コロコロ表情が変える忙しい聖女なようだ。
「聖剣。基本的には【癒し】の剣として戦うんだ。援護は危険だと判断した時だけで良い」
「ん、了承。任された」
聖剣はソリトにピースサインを向ける。無表情で。
しかし、その内面はやる気に満ちているのをソリトは理解しているので、特に心配はしていない。
「聖槍は俺と同行な」
「…………………………………………え?ええええええええええ!むむむ無理ッス!」
絶対に無理と言う思いが伝わり過ぎているくらいの勢いで、聖槍が首を横に振っている。
「聖剣は、聖女達に同行する。良い機会だし、ダンジョンの間にお前を少しでも使いこなせるようにしておきたい」
「う、うちなんかを一週間ずっと使うなんて……おっおっ烏滸がましいにも程があるッス!死んだほうが良いんス!そうッス。そ、そういうわけで、うちは海にでも沈んで錆朽ち果てるッス」
「どんな苦行だよ」
「観念。聖槍、マスターに迷惑かけるな」
そろそろ卑屈を止めろと、聖剣が怒気の籠もった声で聖槍の卑屈な言動を制止する。
「はいッス……マスター、すぐに折れるかもしれないような役立たずのうちをどうか扱き使ってやってくださいッス」
「使い難いわ」
しかも、何故か他人に自分の身内を任せる時の様な言い方だ。
「そそそうッス…よね…やっぱり迷惑しかかけないうちなんか死んだ方が良い存在なんッス」
「聖槍、終了」
「分かったッス…」
平常運転で、聖剣の言葉を聞き入れた聖槍は、卑屈を止めてくれた。
「…これくらいか」
ルティアとクティスリーゼにも自己課題があるだろう。
それに関しては特に口出しすることではないので、ソリトはこの辺りで話を閉める事にした。
その時、体を揺すってドーラを起こすとルティアが顔を向けた。
「では、ソリトさん。一言激励を貰えますか?」
別れの挨拶でもしてこの場をさっさと立ち去ろうという考えが読まれたのか、ルティアの向けて言ってきた笑みに、ソリトは顔を引き攣らせる。
「お、俺か?」
「はい」
「………頑張れ」
「もっと具体的に」
「なら……」
【思考加速】で頭の中で閉めの言葉を考え、僅か一秒程で纏まった所で、ソリトはルティア達を見据え、再度口を開いた。
「これが俺達にとって初めてのダンジョンだ。経験者にとっても毎回が未知。差はその経験だ。だからこそ慎重に行動する事を心掛けよう。周囲を警戒し、互いの位置を把握し、役割を忘れずに、臨機応変に動け!」
そして、最後にソリトは一度口を閉じ、目を見開き、眼光鋭く、ルティア達の心に刻み付ける様に言った。
「生きろ。誰一人と欠けずに帰って来い!無様でも良い。この一週間、必ず最後まで帰って来い!」
「はい!」
「はいですわ!」
「やよー!」
「ん!」
「ははいッス!」
各々が各々らしく、ソリトの言葉に頷いた。
それから各自で準備も整え、ソリトはルティア達と別れて海底遺跡がある南島へやって来た。
その時、遠くの方から鐘の音が響き渡ってきた。
これは、侯爵家にあるらしい鐘撞堂の鐘で、ダンジョン開放の正午になると鐘を鳴らして報せてくれるらしい。
自分も行くか、とソリトは南島の南西方面の崖下へ運ぶと、右足を後ろに引き、海の方へ左腕を伸ばし、左手首を立てて左手を標準にする。
右手は腰の近くで構え、魔力を手の平に集中させ、集束させ、一つの丸い球体を形成していく。
昨夜、一周回って海を割り【空間機動】で行くという単純だが、無茶苦茶な方法を思いつき宿を飛び出した。
その方法の要が、スキル【魔力放出】のスキル効果内にある魔力砲だ。
ただ、スキルでの場合、威力調整が難しいようなのだ。
ソリトの推測に過ぎないが、補助的要因で、その時のステータスに引っ張られるのだろうと考えている。
別島で特訓を始めてそれが直ぐに判明。
そこから、自力で魔力を操作して威力調整する方向に切り替えた。
ただ、海を割るにも魔力砲の攻撃範囲と威力に大幅な魔力を消費する。その為、帰りに時間が掛り、何かトラブルが起きたときの対象法の一つを潰すというデメリットがあった。
なので、海底遺跡のある場所の一点に範囲を絞って海に
これならば、範囲が小さくなった分、威力を削減でき、少ない魔力で貫通力を増加出来る。
一人分ならそれだけでも十分だろう。
しかし、一人分の道を作るにしても、範囲の収縮と維持、加えて威力や範囲も間違えれば、上手く通る道を作れない。
意外にも緻密な魔力操作を要求された。
お陰でかなり苦労を強いる事になったが、結果として彼の魔力操作は物凄く向上した。
「ふぅ…」
大き過ぎず、小さ過ぎず、されど海を割る威力と貫通は忘れず殺すな。
周辺の情報は要らない。
崖から海、海から海底、海底遺跡へ続く道を作る情報だけを思い出し、把握しろ。
失敗はしてもいい。ただし、無駄に魔力を消費することだけはするな。
深く、深く、高く、高く、ソリトは集中し、余計な情報をカットしようと、暗示のように言い聞かせる。
その瞬間、靡く風音が聴覚から消失した。
一部視覚から闇に支配された。
【思考加速】をしていないのに、世界が遅く感じた。
これは錯覚かもしれないが、ソリトは初めて時間経過を感じなくなったのを思い知った。
後で精神的に疲れるだろうが、帰りとその後のダンジョン攻略を考えると、なるべく無駄撃ちはしたくないのだ。
「っ!!」
そうして、ソリトは見定めた先へと右手から魔力砲を放った。
腰を捻って伸ばした右腕は、一変のブレもなく、海に穴を抉じ開けるモノを解き放った。
海は見事に貫かれ、綺麗に円を描いて通り道を作っていく。
百メートル開けた所でソリトは砲撃を中断した。
やった!と喜んでいる暇はない。
これを後十回。
合計千メートル分を進みながら繰り返さなければならないのだ。
大体であろうと魔力消費量で開けた穴の長さを測りながらだ。
そして、今この間にも、海は空いた穴を塞ごうと流動している。
ソリトは急ぎ、崖下から飛び降り、海底遺跡までの道へ向かって【空間機動】で宙を蹴った。
「ぐえっ!」
「……っ!?」
その時、聖槍の苦しそうな声が漏れると同時に、ズッ!と急降下しているソリトの体に急激に重さが加わり少し位置がズレた。
もう一蹴りして、軌道修正しながら、空を切る音を上げて勢い良く穴へと突入した。
落ちると思って聖槍が人の姿に変身でもしたのか?と思いながら、原因を調べるべく、ソリトは自分の背の方に振り向いた。
「は?」
余りの驚きに、毒気の抜けたような声が漏れた。
理由は、スカート丈にスリットの入った白い修道服を来ている少女が、自分の腰にしがみついていたからだ。
「【天秤】何でここにいる!?」
「お、重いッス〜……」
「苦しくなる様な重さはありませんわ!そ、それよりソリト、急いだ方が良いですわよ!」
顔を真っ赤にしながら言っている事が容易に想像できる彼女の言葉通り、前後共に穴が塞がり始めていた。
入ってきた方向に向き直す間にも穴は塞がってしまう。
迷っている暇はない。
ソリトはこのままクティスリーゼを連れて進むことにした。
針の穴に糸を通すが如く、ソリトは狭くなった道へ入った直後、魔力砲を放った。
閃光の様に速く、雷の様に海を貫き、新たな道が開かれる。
それから何度も繰り返して先へ進み、そろそろ見える距離に到達した頃。
ソリト達は四角錐状の古びた建造物が姿を現した。
最後の一発を放つと、海に沈んでいるとは思えない光沢のある黒色が曝け出された。
「これは…遺跡ですの?」
ソリトは、ああ、と一言返す。
目の前に、階段の一部があった。
少し範囲を広げて魔力砲を斜め上に向けて放ち道を作り、一気に飛んで段の終わりに立つ。
そこにあったのは縦溝のある壁。
扉のようだ。
一先ず押してみようと、ソリトは遺跡に触れた。
すると、真ん中の扉も割れ目部分らしき溝下から光が一直線に上り、その中央に咆哮を上げているように見える四本脚の生き物の文様が浮かび上がり、すぐに消えてしまった。
直後、轟音を響かせて、真ん中から縦真っ二つに分かれると、背後から海水が遺跡の方へと吸い寄せられていく。
もしかすると、中は浸水していないのかもしれない。
ソリトは流される前に、クティスリーゼを左脇に抱え直して、遺跡内へと入った。
同時に開いていた扉が勝手に閉じていった。
その時、多少なりと海水が入ってきたが、崖に衝突して打ち上げられる程度の量と勢いだったので、少し閉まるのが遅ければ、遺跡内部に海水が押し寄せても可笑しくなかった。
中は暗い。
すぐに【夜目】を発動し、辺りを見渡す。
四角錐の遺跡の一番頂上らしき天井が近くに見える。
高さは五メートル程、屋根裏のような小ささと狭さだ。
警戒するような物は今の所見当たらない。
床や壁に罠があるかもしれないが、とりあえず今は一息入れる事にした。
ソリトは左肩にかけていた荷物を慎重に下に置き、数秒待って持ち上げ、数秒待つ。
特に何も無いことを確認して、今度はしっかり荷物を下ろした。
クティスリーゼはいつの間にか背中から離れて、すぐ後ろで拳を構えて警戒していた。
その時、【危機察知】が反応を示していないのに、近付いて声を掛けるのに、ソリトは危機感を覚えた。
それよりも、クティスリーゼは【夜目】がない。
暗闇になれるには少し時間が掛かる。
しかし、彼女は自分とは違って魔法を普通に使えるはずだ。
「……あ」
おそらく、突然の暗闇の所為で一時的に彼女自身でも気付かない程の小さなパニックが起きて、思考が狭まっているのだろう。
それではまともに探索も出来ないので、初級火魔法〝アインス・フレイムボール〟の火球で自分達の周辺を灯す。
不思議と火は心を安らげる。
これで安心感が彼女の思考を平常に戻すだろう。
「灯りを出せば良かったのですわ」
火が灯ると同時に、ソリトの方へと顔を向けると、馬鹿ですの、と自分を叱咤して言った。
「大丈夫か?」
「ええ。ありがとうございます、ソリト」
クティスリーゼは柔和な笑みを向け、白修道服のスカート部分の裾を摘み上げて、カーテシーで感謝の意を示す。
「申し訳ございません聖槍様。大丈夫でしたでしょうか?」
「だ、大丈夫ッスよ」
「良かったですわ。それと重く感じたのは落下途中だったからですの。決して
義務のように淡々と聖槍に述べるクティスリーゼからは途轍もない圧が溢れ出ている。
「おい、【天秤】」
「…っ!ぁん」
上下にピクッと体を縮こませて、息を荒くしながら、彼女は返答した。
何処に感じる要素があったのか、ソリトは分からないが、クティスリーゼが悶え始める。
「はっ!申し訳ございません。天秤と変態を聞き間違えましたわ」
謝罪の時のお辞儀は美しく、貴族令嬢そのものなのに、続く言葉がやはりコイツは変態だと毎度ながらに改めて思えた。
「それで?いつから着いてきた?」
「ソリトと別れて
ルゥちゃんはそれで昨日は日が変わる前まで眠れていなかったんですのよ、とチラチラとソリトに視線を向けながら言った。
今は他人がどうなろうと構わないが、自分が原因になる分に関しては放っておけない。
これは本格的に反省する必要があるようだ。
「帰ったら謝る」
「ええ」
「それと【天秤】も。悪かった。いや、ごめんなさい」
ソリトは腰は直角に、頭を深々と下げて謝罪した。
「無理はなさらないでくださいな」
「善処する」
「そこは、はいと仰ってくださいな」
困った方と言いたげな顔でソリトに返した。
「まぁ、何となく理由は察しましたわ。これは、水中で呼吸出来る魔道具でも作らないと無理ですもの」
全く無茶苦茶ですわ、と呟くクティスリーゼは何処か呆れ顔だ。
先程の事を思い出しているのだろう。
しかし、現状ではそれしかなかったのだと、ソリトは胸の内で弁明した。
それともかく魔道具店で聞いた通り、水中用の魔道具はないようだ。
「何処かがそれを作ってる奴を独占してる線は?」
「今の所ありませんわね」
本当は何処かにあるかもしれないし、ないかもしれない。
要は可能性はあるが、今の所はないわけだ。
「そうか。で?お前は怪しいと思って来たわけだ。お前の大好きなルゥちゃんとやらが何かあったらどうする?」
「そのルゥちゃんから少し離れる説明をする前に頼まれたんですから、断るに断れませんわ!」
頼られたことが余程嬉しかったのか、目に涙を溜めてクティスリーゼは答えた。
どれだけルゥちゃん好きなんだよ、もう結婚してしまえ。
なんて可笑しな冗談を溢す。
それに対して、するなら三人でなんて本気なのか冗談として流しているのか分からない返答を、腰をクネクネさせるのだから困ったものだ。
「そっちの事情も分かった。なら、さっさと行くか」
ソリトはあっちに、とクティスリーゼに人差し指の指す方を見るように促す。
そこには下へと降る為の階段があった。
「エスコートよろしくお願いしますわ」
「断る」
「あぁ…即答ぉ」
――
筆乗り過ぎました。
お付き合いありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます