第151話 ○○いのは?
大変お待たせしました。
青い空。白い雲。
独特な風に乗って吹く潮の匂い。
燦々と降り注ぐ太陽の光と陽光に照らされ輝く…
「海ー!」
「海ですわー!」
「…うみやよー!」
突然の意気揚々としたテンションで、ルティアとクティスリーゼが砂浜に入った瞬間に叫んだ。
二人の間に挟まれていたドーラも、キョロキョロとルティア達を交互に見合い、とりあえずやっておこう、というように戸惑いつつ後に続いて元気一杯に叫んだ。
それでも三人共に、砂浜の向こうに広がるコバルトブルーの美しい大海に興奮している。
そう。ソリトが彼女達に押し引っ張られてやってきたのは港の隣にある東海岸。
漠々と広がる砂浜の上では多くの観光客が楽しそうにビーチバレーというボール遊びをしており、他に、冒険者らしき体格の男性や雰囲気を纏った女性もおり、一日の休息を満喫しているようだ。
「さあ、ソリトさん行きましょう!」
ルティアは眩しい笑顔でソリトの手を取ってグイッと引く。
ソリトは、気乗りしない腑抜けた姿勢で引っ張られて付いていく。
「ここまで来たのですから、諦めてリフレッシュしてくださいな!」
クティスリーゼが後ろに回って背中を押していく。
道中、これから戦場に行くかのように水着を選んでいて、ソリトとは反対に海で楽しむ気に溢れている。
「あるじ様。ドーラ、あるじ様と一緒に遊びたいんよ」
ドーラが悲しげな顔の奥にある潤んだ瞳で、ソリトの顔を見つめながら言った。
ダンジョン島は冒険者や兵士等達が多く集う場所ではあるが、基本はリゾート地。
遊べる日があるのなら遊ばないのは勿体ない。が、やはりダンジョンの出現場所の下見に行くのも重要な事。
「…………分かった!」
「「やったー!」」
「やったやよー!」
「ただ、下見にも行きたいし、疲れて明日に影響するのは危ない。昼の間までには宿に戻るからな」
「それでは
「これソリトさんの水着なので渡しておきます。ドーラちゃん行きますよ」
「はーい!」
着替え終わったらまた同じ場所で、とルティアが言い残していきなかわら早々と彼女達は砂浜の左側へと行ってしまった。
「請願。マスター私達も遊んでみたい」
「え!う、うちは別に…」
「黙れデカ乳。拒否権は無い」
「お、横暴ッス……」
「別にどっちでも良いが、水着はどうする」
「問題ない。弟子に用意してもらった。請求は後でマスターに」
「って俺かよ!で、水着は俺のと一緒に入ってるわけか?」
そんな事無いよな、と、問い掛けた直後、聖剣が無言となった。
ソリトは水着の入った紙袋の中を覗く。
そして、入っていたのは男性用の黒水着一着のみだった。
「マスターの生まれた姿なんて普段見れない」
「却下」
仕方無く、ソリトはルティアに念話で伝え、聖剣達を迎えに来てもらい、男性用更衣室の方へと向かった。
男の水着は下一枚で済むのは便利だ、などと感想を抱きつつ、ソリトは集合場所に戻ってきた。
女性陣はまだ着替え中らしく、集合場所にはいない。
待っているのも暇な為、ソリトは適当に戻る途中の建物で購入したビーチシートを敷き、魔力の操作訓練をしながら待つことにした。
「よし…はあっ!」
【空間機動】で空中に立ち、手から魔力球を六発連続で前に放つ。
クティスリーゼには苦い経験となったが、ソリトは幽霊船での件は魔力操作能力を向上させる事になった。
射出後、直ぐにソリトは回り込み魔力球が来るのを待ち、目の前まで来た所で、自身を囲むようにそれぞれ適当な距離に散らし、その場に留める。
腕を振り下ろした瞬間、全ての魔力弾がソリトへ襲い掛かる。
一番近くの後頭部上にあった魔力弾を左方向に腰を捻り、左手から魔力球に魔力球を相殺。続けて、下から来る魔力球を大勢はそのまま、右手を下に向けて魔力弾を放つ。
残り四発の内の二発。
右斜め上と左斜め下の魔力弾を、右に腰を捻りながら下から放り投げる様に、次に左に再び腰を捻り、今度は上から投げる要領で魔力弾を放って相殺した。
そして、残りの二発は正面と背後。
これは一発目と二発目を放った時と同じ要領で放てば良い。
ちなみに、回避して衝突させ合う方法もあるが、魔力操作の特訓なのでソリトは除外していた。
「ソリト!!」
「かっ………!」
早々に終わらせようと正面に魔力弾を放つ直前、突然大声で呼び掛けられ、ほんの一瞬だけ集中力が散漫してしまい、魔力弾を誤って打ち放って、正面から来る魔力弾の横を通り過ぎ、二発の魔力弾はソリトに直撃した。
砂浜からざわめき立つ声が出た。
「………ごっふぁ」
少々汚れてしまったが、ソリトは五体満足に無傷だった。
特徴的な語尾。確認するまでもなく、ソリトはゆっくり砂浜の方へ向いた。
予想通り、クティスリーゼが立っていた。
隣には心配そうに空を見上げているドーラがいた。
短くも特訓終了の時間が来たらしい。
最後に失敗して終わるのは不満なソリト。
しかし、それは、まだ未熟だから、と自分を戒めることにして地上に降りた。
「あるじ様大丈夫やよ?」
ソリトが地上に降りて早々、ドーラが安否を確認してきた。
「ドーラさん。休息するように申し上げたのに、私達を待っている間に勝っ手に特訓していた、ソリトの自業自得ですから……心配する必要なんて無いですわよ」
そう言って、瞳の光を消した微笑みを浮かべて振り向くと、ソリトに、そうですわよね?と言うような怒りの滲み出る笑顔をクティスリーゼが向けてきた。
「それでソリト。先程まで多くの人に注目されていましたわよ。全く、リフレッシュどころではなくなる所でしたわ」
「ドーラ遊びたいやよ!」
「だそうですわよ」
「暇な時間を少しでも活用したかったんだっての」
「それでは意味がないではございませんでしょ?それに蓄積した疲労を取るために、体を休めたり、気持ちをリフレッシュするのも特訓の一貫ですわよ。でーすーのーで!今日は気楽に遊ぶ。良いですわね?」
「お、おう」
あの変態聖女にまともな説教を受けるという事に、終始戸惑ってしまっていて、ソリトは歯切れの悪い返事した。
「それで、その…どうでしょうか?」
説教が終わるとクティスリーゼは一歩下がり、水着姿の自分についてソリトに緊張した面持ちの頬を仄かに紅く染めながら感想を求めてきた。
クティスリーゼは胸下とウエスト部分が交差された、クリルクロスというタイプの上が青色の薔薇模様の入った白、下が黒のビキニ。
腰には黒のレースのパレオを巻いており、素肌を余り晒すことはせず、麦わら帽子を被り日焼け対策も怠らない。
まさに御令嬢らしい水着姿。
ただ、女体感を残しつつも身体を鍛えており、イメージ的には令嬢らしさが少し欠けてしまっている。
だが、一般的に令嬢には無い身体付きが少女なのに、大人の色気を感じさせる。
ドーラは白のフリルが飾られたセパレートタイプの赤のビキニ。明るく元気で、容姿ともに子どもらしい彼女に合っている。
「俺に聞くか?」
自分に恋愛感情を向けてきている女子に返すにしては余りにも無粋な言葉で、それは無論ソリトも理解している。
だが、それが今のソリトなのである。
「ええ。この際、客・観・的でも宜しいですわ!ソリトの感・想が聞きたいんですの!」
すると彼女は、とりあえず感想言えと言わんばかりの笑顔を向けて催促してくる。
「白と黒に分かれた水着は青色の薔薇模様もあり、可愛らしさとクールさが相まっていて、女子ながらに不思議と大人の色気がある」
「何だか客観的ですわね…」
本音で褒めてくれると思っていたのか、クティスリーゼは息を吐き、肩を落とした。
胸がまず…小さい故に妙に色気があるのかもしれない、というような言葉はデリカシーに欠けすぎている。
それは後々面倒な事が起きる為、ソリトは決して本音を語るまいと、密かに誓っていた。
「本音が知りたいなら、自分らしさを全部出すんだな」
「全部とは、どういう事ですの?」
「さあな。ドーラはお前らしい明るい水着だな」
それはお前の変態性である、とは語らずにしらを切ってドーラの水着姿を褒める。
「やったんよー!」
ドーラはクルクル回りながら喜ぶ。
「早急。弟子も化け乳もマスターを待たせるな」
その時、離れた所から聖剣の固めの口調が聞こえた。
振り向いた瞬間、ソリト、それとクティスリーゼも雷が頭上に落ちたような衝撃に目を大きく見開いた。
兇器。それは誰かを傷付け、殺める物。
おそらくクティスリーゼもソリトと同じ感想抱いただろう。
ある意味あれは兇器だ、と。
聖剣は、白紐タイプの紺のビキニだ。
金髪と肌の白さとも相まってコントラストが美しい。少女の容姿をしているのに、クティスリーゼとはまた別の大人っぽさを感じさせる。
ルティアは、黒のホルターネックビキニを身に纏っており、毛先が紫掛かったの灰色の長い髪を三編みにして前に垂らしている。
ホルターネックのお陰で、瑞々しく実った双丘が柔らかく包まれていて、大人しめのお姉さんの印象を与える。
聖槍は緑色のワンピースの水着で、それに合わせて髪をアップサイドのツインテールにしており、高身長でスタイル良さで大人っぽさを感じさせるのに、髪型と水着で幼さを感じさせるギャップがある。
意外にも、卑屈で大人しい聖槍の印象とも良く合っている。
控えめに言った場合の話だが。
では、控えめでは無い場合はというと、端的に言ったとしても、
「エッッッロいですわ………」
「あなたが選んだんじゃないですか!」
クティスリーゼは真面目な顔で鼻血を流しながら、公爵令嬢らしからぬ感想をぶち撒けて絶句する。
ソリトでさえ思わず、口にしてしまう寸前まで行くレベルだ。
ルティアはホルターネックビキニと全体的に胸を隠す筈が、色が黒の為に艶めかしい危険な色香を放っており、聖槍は色は大人しいのだが、程よい肉付きのあるお尻と巨大と言わざる得ない胸が張り詰め、体のラインがはっきり露わになってしまい、最早厭らしい。
聖剣は、大胆な際どい水着で、子どもが背伸びをした印象を感じさせる筈のに、こんな大人がいてもいいと感じさせるギャップがある。
「可笑しいですわ……。単純に三人に合う色を選んだ筈ですのに、それが逆に仇となってエロい水着になってしまうなんてぇ……」
クティスリーゼが砂浜に膝を付いて嘆き出す。
そんな彼女も、小さな膨らみでクリルクロスビキニを着用し、パレオとの組み合わせで扇情的に見える結果となっていたりする。
特に、パレオで覆われていてソリト達にはチラリとしか見えないその両脚は、目が吸い寄せられそうな生命力があり、肉付きがあるも、引き締まった流麗で美しい健脚だ。
現在、膝をついて四つん這いで嘆いている為に、その脚のシルエットが見える。
一瞬、ソリトの視線が吸い寄せられ、更に内心で思わず一言褒めてしまった。
だが、奥に突っ込むような感想を、ソリトがこの場で口にすることはない。
「意外だな。【癒し】の水着を選ぶとしても、今までの言動から見て、【天秤】は自分好みしそうだが」
「確かに…本来であればルゥちゃんには、扇情的な際どくも可愛い物を選びましたわ。たとえ周囲からはしたないと囁かれようとも!」
「選ばないでください!」
「ですが…公衆の面前でそんなルゥちゃんを見せてご覧なさいな!どことも知らない男が獣となって襲い掛かること間違いありませんわ!なのに……」
時々、こいつは本当に公爵令嬢なのか?とクティスリーゼを疑うソリト。
仕方無い。目の前で、ついには四つん這いで嘆きながら悔し涙を流す中に、ハァハァと荒い鼻息らしき音が微かに聴こえていれば疑いたくもなるものだろう。
「こんなにもエロくなってしまうなんてあんまりですわぁぁ…………!」
「エロいとか、エロくなるとかそんなエロ、エロとエロを連呼しないでください」
一番連呼しているのはルティアだが、彼女は気付いていないようだ。
この時ソリトは、この事実を言うタイミングはまだ少し先、と感じて口を閉じてスルーする。
一方で、ルティアは、羞恥心で顔を耳まで染める程真っ赤にして、腕で肌を隠すように守っていた。
その表情は複雑で、困惑や羞恥、どうにかしたい、して欲しいと、コロコロと久々に百面相をしている。
すると、突然、眉間に皺を寄せては困り顔を浮かべながら唸り出した。
何かを葛藤し始めた様だ。
「……ソリトさん…これ…どう…思いますか?」
そして、羞恥で一杯になる位の水着だがそれはまた別とでも一応の区切りをつけたのか、ソリトの方へ振り向いたルティアは、おずおずと訊ねてきた。
ソリトは少し悩んだ末、ここだな、と口周りを手で隠しながら不敵に口角を上げた。
「安心しろ聖女」
その一言を聞いた瞬間、ルティアの顔が安堵の表情に変わった。
そこにソリトは爆弾を叩き落とす。
「お前は十分にエロい」
ソリトが笑顔を向けながら慰めるように優しげな声で言うと、ルティアの顔が世界が終わったような色に染まる。
「それとお前が一番エロいと言った奴だ」
ここでソリトは、先延ばしにしていた事実を述べた。
直後、ルティアは羞恥と怒りが半々な顔で真っ赤になり、
「ソリトさんのお馬鹿ぁぁ〜!それに私、一番エロく無いですからー!」
泣きながら海に向かって走り出し、海に足を踏み入れると、約十数歩水面走行した後、とぷんと静かに海の中へと消えていった。
「鬼畜。ルゥちゃんが羞恥している所に容赦のない鬼畜発言……あはぁ〜羨ましいですわ!私も…されたい…」
嘆きから回復したのか、一部始終を見て妄想を始めハァハァ興奮して恍惚な表情で悶え始めたクティスリーゼに、ソリトは少し引いた。
「…そういえば、ソリトは何故シャツを着ているのです?」
妄想と悶絶から一転して、ソリトに問い掛けてきた。
ちなみに、ソリトの格好は、自製のスカイブルーのシャツに黒の水着で、服は旅袋に畳んで入れてある。
上を着ている理由は特に無いのだが、魔力弾に直撃してシャツはボロボロだった。
捨てるのは勿体無いので、洗って物拭き用の布にでも縫い直そうかと思案しながら、ソリトはボロボロのシャツを脱いでいく。
すると、普段は服越しで分からなかった、細身ながらに一分の無駄もなさそうな鍛え上げられたソリトの体が露わになった。
「ブフォッ!」
直後、クティスリーゼが息を勢い良く吹き出す。
その視線はソリトの上半身を紛れもなく凝視しており、近くにいた女性達からも視線が集まっていた。
結果、女性の視線に気が付いたソリトは、身の危険を感じ、まだ腕に通した状態だったボロボロのシャツをスッと着直した。
その瞬間、クティスリーゼを始めとした女性達が酷く悲しげな表情で、残念そうにソリトの上半身を見つめる絵図が出来上がった。
―――
どうも、
クティスリーゼのクリルクロスという水着ですが、分かりやすいのはFG○の水着桜セイバーさんです。
分からない場合は、検索検索ぅ。
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