第146話 濃霧の幽霊船 その4

『アサシンキャンサー討伐により全能力が上昇します』

『ガイストボーイ討伐により全能力が上昇します』

『アサシンキャンサー討伐により全能力が上昇します』

『ガイストボーイ討伐により全能力が上昇します』

『アンカーガイストマン討伐により全能力が上昇します』



 階段を下りた先は再び通路。

 しかし、その奥には扉があり、魔物二体を討伐後に扉を開けて入った先はかなり大きな広間だった。

 中央に階段、右側奥に扉が一つ。

 床は甲板と違い劣化が激しく、判別可能な程に腐り落ちて出来た大きな穴が一つあった。


 そして、広間にも魔物はおり、アサシンキャンサーという青色の殻の蟹の魔物が気配を消して、多少恐怖心が軽減されてもビクビク怯えていたルティアに奇襲を仕掛けてきたが、ドーラが本能的に感知し奇襲を防ぎ、その間に他のアンデット系の魔物の襲撃されたが、クロウが矢で撹乱していた。

 その隙を突く形でソリトが即座に討伐した。


「失礼しまーす!迷える霊はいらっしゃいませんか!?居れば、【癒しの聖…」

「しつれいしました!」


 その後、奥にある左端の扉を躊躇いも無く開けてソリトは中へ入った。

 室内は乗組員の寝室のような二段ベッドで溢れた船室だった。

 入室直後、悪霊苦手のルティアが反射的にコートの襟を掴んでソリトは引っ張り出された。


「何で閉めたんだよ。迷える霊を天に帰すのも聖女の仕事だろ」

「そうですけど、そうですけど…ここには聖女が二人もいるじゃないですか!」

「変態に頼るのはなぁ」

「酷い言いようですわ」

「ルティアお姉ちゃん、ドーラがいるんよ!」

「ドーラちゃあ〜ん」


 ドーラの心強い言葉に胸打たれ、ルティアは涙を流しながらドーラの腰に腕を回して抱き締める。


「ここまでついてきたけど、みんな楽しそうね」

「おじ様に協力してもらって私達も心強いですわ」

「協力することは大切だから!」

「俺は協力らしいしてないがな」


 ソロで探索しているのであって、パーティとして探索しているつもりは無いソリト。

 話を折る事になる事を理解した上で、クティスリーゼ達に釘を刺すように言った。


「ふふ、まあ、良いじゃないではないですか。一緒にいて怖さが和らぐのでしたら」

「そう簡単に和らぐかね?ぎゃー!あそこに亡霊の影が!」

「きゃあああ!」

「いやあああ!」

「?」


 クティスリーゼの言葉が本当かどうか確かめてやろう、とソリトは棒読みで脅かしてみようと口を開こうとした瞬間、クロウが脅かせようと驚愕の声を張り上げた。

 すると、ルティア、クティスリーゼがビクッ!と身体を硬直させながら悲鳴を上げた。

 ドーラは平然として首を傾げていた。


「あ、ごめん。鏡に映ったおっさんだったわ」

「クロウさん!許しませんよ!あなたを亡霊にして浄化してやります!」

「サラッとオソロシー」


 今回は堪忍袋の緒が切れたようで、鬼の形相の如き顔のルティアが全力でクロウを追い掛け回し始めた。


 それから一分程して、ソリトは横を通り過ぎていくルティアのドレスをひょいと摘み上げ、剣を取り上げた。

 すると、憑き物が落ちたように大人しくなったので、ルティアを摘み上げたまま、ソリトは中央にある古びた階段を上がった。


 上がった先はまた同じ広間だった。

 違いは右奥の扉が二つに増えている事。

 上へ続く階段が崩れ、連動して崩れたのか、入口を中心に上階の床が崩れ落ちていた。


 ソリトはルティアを摘み上げたまま崩れた階段の行き止まりまで上った所で跳躍し上階へ移った。

 そこは天井が低い部屋となっており、床には木箱が多く置かれていた。

 木箱を開けるとカビの生えた果実が入っており、甘臭く腐った異臭が漂った。


「「!?」」


 ソリトとルティアは鼻を摘み直様距離を取った。

 腐敗していたが果実が入っていたという事は食料庫何かだったのかもしれない。

 他の木箱も確かめ、どれも腐って食べられない何かだった。

 確認が取り終わったソリトは、早々と落下するように階下に降りた。


「何か見つけた?青年」

「腐った果実があった」

「ふへぇ。まぁ、何もないなら次行きましょ。右奥の方は下と同じような船室だったで、反対側はまた広間だったから」


 クロウを先頭にソリト達は左奥側の扉へと向かい、目の前に着いた所で、扉を開けて隣に移動した。

 全員が隣の広間に移った瞬間、扉が一人勝手に軋む音を立てて閉まった。

 ソリトはすぐにドアノブを捻るが開いた時の手応えがなかった。

 一応ドアノブを捻って引いてみたが、ガチャガチャ、となるだけでビクともしなかった。

 念の為反対側も確かめたが開く気配も手応えもなかった。

 下に繋がる階段は完全に崩れ落ちて、入り口も仕組まれたように塞がっていた。


 残された道は上の階に上がる事のみだった。


「完全に幽霊の仕業だな」

「う、嘘ですよね……!?」


 ルティアがブルブル震え、縮こまりながら受け入れたくない現実をソリトに尋ねる様に視線を向けた。


「ゆーれーは遊んでってドーラは言ってると思うんやよ」

「それはそれで……ド、ドーラちゃ〜ん。へ、変な想像は駄目ですよ」

「いやぁ、ありえねぇって」


 ここで、クロウが少し怯え始めた。

 もしかすると、精神的な面で大半は楽しんでいたが、内残りは少しビビっていたのかもしれない。


「今更後戻りは出来ませわよ。それより上に行きましょう」


 クティスリーゼの言葉に、全員頷いて上階へ向かう。

 その前に、ソリトはクロウに一つ聞くことがあった、と階段を上る前に足を止めて尋ねる。


「なぁ、おっさん。弓どこ行った?」

「ん?あぁ!弓ならここよ」


 クロウは羽織に左腕を入れて腰辺りをゴソゴソ漁ると、小さな手提げバッグのような形をした物を取り出した。


「おじ様…それは、冗談です?」

「お前は黙ってろ」

「はひん」


 何とか大声を出さないよう耐えながらクティスリーゼは悶える。

 話が逸れる前に、ソリトはクロウに聞く。


「それでそれが弓として、どう弓になるんだ?」

「良くぞ聞いた青年。とくと見よ。カチッと」


 クロウは握り部分に左手親指を添えて上に少し動かした瞬間、手提げバッグのような形の物の両側面が横に広がると、そこから徐々に形を変えていく。

 そして、上下に伸びていくと二メートル級の長弓へと変化した。


「更に〜」


 そう言ってクロウは持ち手をグッと引いた。

 すると、持ち手が伸びた。

 カチッと音が鳴ると、持ち手を戻した。その瞬間、弓は短くなり一.六メートルの弓に変わった。


「どうよ?」

「正直、驚いた」

「でしょ。この弓は東方で造られたものでさ。なんでも、ここの大陸の複合弓の技術を取り入れたんだと。速射優先なら短弓、威力優先で長弓と一つの弓で使い分けられるように」

「凄い人ですね!」

「……そ、そうね」


 ルティアは大袈裟な程に、クロウの所持する弓を造った者を誉め讃える。

 しかし、褒め言葉に対してクロウはぎこちない返事をした。


「おじ様?」

「余りに、聖女のお嬢さんの姿が衝撃的で我を忘れてたわ」


 どうやら、ソリトにドレスを摘まれてぶら下がった状態のルティアが原因だったようだ。


「でも、その人それから少し暫くして亡くなったらしいんだよね」

「そうなんですの」

「原因は何だったんでしょうか?」

「ごめん。それはおっさんも知らないんだわ」


 ルティアの疑問に、クロウは困った顔で後頭部を掻きながら答えた。


「………」

「ソリトさん?どうかしたんですか?」

「……いや、なんかおっさんの弓って聖弓に似てるなって」

「伝承で、聖武具はその形を変えて勇者を勝利に導いてきたと記された一文がありますから、それを元にしたのかもしれませんわね」

「かもな……とりあえず行くか」

「やよー!」

「はい!」

「ですわね」

「おたくら、緩すぎでしょ」

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