第143話 濃霧の幽霊船 その1

お待たせしました。

急にフォローしてくれた方が増えてビックリしてます。

ありがとうございます。











 

 

 船内に入ると、突然船員が駆け寄って来た。


 ソリトが尋ねると、ダンジョン島への船には勇者専用の船室が用意されるらしく案内するという事だ。

 しかし、ソリト達が乗った船は運悪く通常運転で一般客室として開放していた為、部屋を用意出来なかったらしい。


「誠に申し訳ございません!」


 船員が直立不動の如き謝罪をソリトとクティスリーゼにしている。


「俺達は一般客として乗ったんだ。謝罪は要らん」

「そうですわね。寧ろこちらが申し訳ないですわ」

「そんな!すぐに一般の方に違約金をお支払いして下船してもらい部屋を空けますのでお待ちを」


 クティスリーゼがひっそりと呟いた一言に、ソリトは内心で同意する。

 一般客室は少々値が張る。

 ダンジョン島が開放されると、当然レベルを上げに冒険者、兵士、騎士等が来ようとするため島への入場制限が設けられるらしい。


 そんな中で、取れた乗船出来た者達に違約金が支払っても納得いくわけがない。

 もしかしたら、ソリト達に白羽の矢が立つ恐れがある。


「俺達を含めて乗船者は四人だ。空いてるならそのまま案内してくれ、無理なら相部屋で分かれても構わない」

「か、畏まりました。すぐに空き部屋を確認しますので!」


 一部の船員達が去ってから暫くしてから、部屋が見つかった。

 但し、一部屋は三人部屋らしく、一人だけ二人部屋で相部屋になるという事。

 部屋分けは当然男一人の他は女性陣なので、相部屋はソリトとなった。

 ちなみに、部屋は隣同士である。

 クティスリーゼが場所は隣なのかを拘るように必死に尋ねていたので、ソリトも聞き間違いようがなかった。


 それから、クティスリーゼは部屋を確かめた後、ルティアとドーラに報せる為に船内を探しに行った。

 ソリトも相部屋になる部屋に荷物を置いて、一応探しに行こうと扉を開けた。


 船室内は左側に二段ベッドが設置され、右側に小さなスペースのある狭い場所だった。

 そして、その相部屋の一段目のベッドに足を組んで仰向けになっている男性がいた。


「お?青年が相部屋の相手かな?」


 ソリトが入ってきたことに気付き、起き上がってベッドに座った男性が尋ねてきた。


「まあな」

「よろしく、ね。あ、おっさんの事は気にせず楽にしなよ〜」


 ベッドに寝転がり直すと、軽く手振りしながら飄々な口調で男性は言った。

 これがどうにも胡散臭い。


 ボサついた髪の毛を後ろに束ねた髪、少し焼けた肌、胸元をは開けた黄色のポロシャツに、少し大きめなヨレた緑色の羽織、ダボッとしたブラウンのスウェット。


 人は見かけによらない、見かけだけで警戒はしても判断はするべきではない、とソリトは思っている。

 だが、今のところ姿に関しては、ベッドに寝ている男性は胡散臭さ満天の怪しいおっさんだった。


 とりあえず、おっさんの言葉に甘える形で、二段目のベッドに旅袋を軽く放り投げて、狭いスペースにある二席の内一つの椅子に座る。

 そして、おっさんを観察する。


「ん?なに、おっさんが気になっちゃう?」

「相部屋相手とはいえ、一応警戒をしておこうと思ってな」

「初対面のおっさんに酷くない!?」

「初対面だからだ」

「えぇ、おっさんは青年に興味津々なのにぃ」

「数回の会話でか?」

「あ〜なに、おっさんの勘ってやつ?」

「ふーん」


 ソリトは椅子から腰を上げ、上段のベッドに放った旅袋を回収して肩に下げて扉前まで行く。


「あら、どっか行くの?」

「……散歩。船は初めてなんでな」

「なるほど。船は男のロマンだからね。戻ったらおっさんと語り合いましょうよ」

「暇があればな」


 船旅だけの間の関係。気が向いたら、話をするのもいいだろう等と考えながらソリトは部屋を出た。

 その後、ルティア達が隣の部屋にいるかを確認したが、案の定いなかった。

 まだクティスリーゼは見つけていないのか、見つけたまま一緒に行動しているのかもしれない。


「変なおっさんと相部屋になっちまったなぁ。とりあえず散策に行くか…………放っておけない、か。はぁ、焼きが回ったかな…俺も、聖女の事言えないな」


 独り言を言いながら、ソリトは船の散策ついでにルティア達を探しに歩き回りに行った。





 船内を回っていき、最後に甲板を残して上がった先で、ルティア達を発見した。

 しかし、甲板の縁に手を置き、心配そうな表情を浮かべてルティアが海に顔を覗かせており、クティスリーゼがルティアの背に何故か顔を埋めながら、船から落ちないよう支えていた。


「何してんだ」

「ソリトさん…ドーラちゃんが海に飛び込んだんです」

「うみー!」


 ルティアが心配していた矢先、ドラゴンの姿に戻っていたドーラが飛沫を上げて海から現れた。

 再び海へと飛び込むと翼を上手く動かして泳いでいる。


「大丈夫そうだな」

「でも、海にも魔物が」

「言っている傍からあの子の背後に影が見えますわよ」


 ソリトも顔を船から出して覗くと、ドーラに物凄い速度で接近する影があった。


「ドーラちゃん後ろ!」

「うしろ〜?」


 ドーラが翼で海を掻いて振り返る。

 同時に影が海から飛び出した。

 頭の一部が一本槍のように鋭く伸びた魚の魔物が急降下し、ドーラに襲い掛かる。


「ジャマなーん!」


 ドーラも海から飛び出し、素早く空を飛んで魔物の横に回り込み、船の甲板に目掛けて蹴り上げた。

 魔物が船を損傷しかねない勢いでソリト達のいる甲板に前向かってくる。


 その方向にいた船員や冒険者等が甲板から退散する。

 ソリトはその場へ飛び出し、差し迫った瞬間に一本槍の魚の魔物を頭上に来るように軽く蹴り上げ、降りてきた所を受け止めた。

 ただ、やはり一撃でドーラが倒したらしく、ソリトのステータスは上昇しなかった。


「あっ!あるじ様〜!ごはんとれたやよー!」

「船を壊すから加減しろ」

「はーい!」


 返事して、ドーラは再び海の中に戻っていった。


「良かったです」

「過保護だな」

「逆にソリトさんは心配しなさすぎです!」

「それより、後ろの変態は良いのか?」

「へ?って、何してるんですかクティスリーゼさん!」

「船から落ちないようにルゥちゃんを支えていたのですわ!」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 感謝しているが、きっと支えていただけではなくルティアの抱き締めた感触や顔を埋めていた事から臭いを堪能していたな、と思ったが、自分から教える理由はない、とソリトは口にしなかった。


 それから、クティスリーゼが合法的にルティアを堪能していた事がバレたり、船からの海を眺めていた。


「アンタらが勇者様と聖女様達かい?」


 その時、船内に続く階段から長身の海賊衣装風の右に眼帯をつけた女性がソリト達に声を掛けてきた。


「あんたは?」

「ああ、申し遅れたね。あたしはこの船の船長のブレイクってんだ。船旅の間よろしく頼むよ」

「私は【癒しの聖女】のルティアと申します」

わたくしは【天秤の聖女】クティスリーゼ・サフィラスと申しますわ」

「俺はソリト。一応勇者だ。で、何か用か?」

「別に用ってわけじゃないさ。船に勇者と聖女様が乗ってるってのをウチのもんに聞いたからね。ちょいと挨拶に来たのさ。ただ、あたしは根っからの平民だからね、礼儀に関しては多めにみてくれ」


 ブレイクの言葉に、ソリトとルティア達聖女二人も気にせず普段通りにしてほしい事を伝えると、彼女は歯を大きく出した笑顔で、悪いね、と謝罪する。


「ん?」


 突然、ブレイクが怪訝な表情を浮かべた。


「海の空気が変わりましたね」

「分かるかい【癒しの聖女】様」

「育ちが海の側だったので、海の天気は何となく」


 ルティアとブレイクが話していると、唐突に霧が発生した。

 暫くすると、周囲の景色を隠すように徐々に霧が濃くなっていった。


「妙だね。霧が急に深くなってきた」

「ぶ、不気味です……」

「こういう霧って、何か良くないことの前触れと言いますわよね」

「クティスリーゼさ〜ん。止めてくださいよ〜」


 怖いのか体を震わせて怯えるルティア。その姿にクティスリーゼが鼻血を勢いよく吹き出した。


「大丈夫かい!」

「ええ」

「ルティアお姉ちゃんは大丈夫やよ?」

「だ、だだ大丈夫です!……な、何も出てきませんように」

「余計な事言うと、本当の事になるぞ」


 そんなことを言っていると前方から影が見えてきた。


「このままだと…ぶつかりますわね」

「ブレイクさん」

「これは、間に合わないね」


 直後、前方から来る影とソリト達の船が衝突した。

 激しく揺れ、ルティア達から悲鳴が上がる。

 対して、ソリトは、おっと、と平然な反応でバランスを取る。


 右に顔を向けると、古く巨大な船が衝突して停船していた。

 どうやら、幸先が不安に変わったソリトの予感は運が良いのか悪いなか見事に的中してしまったらしい。






――

どうも、翔丸です。

幽霊船…ファンタジーの船旅で定番イベントですよね。

ちなみに夏期だから急遽いれたわけではありません。

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