第141話 新たな出発
お待たせしました。
そして、感想ありがとうございます!
翌日早朝、ソリトは出発の準備をしていた。ドーラは竜車に繋いだあと眠り始めた。
あれから、夜に開かれた祝賀会は
ただ、ソリトは祝賀会など聞かせれていなかった為、宿に戻った途端レティシアを除いた聖女達に中央区域の広場まで連れられ、グラスを持たされ、仮面を外され、アルス防衛戦の魔物殲滅とバルデスの一件を担ぎ上げられながら音頭を取らされ困惑の嵐だった。
どういう事か担ぎ上げて音頭を取らせたラルスタに尋ねると、言えば絶対に参加しないだろうからと助言を受け、朝から少しずつ準備を密かに進めていたと語った。
助言したのはクティスリーゼらしい。
あって間もないというのに、ソリトを意外にも理解している。
これが貴族令嬢の為せる技か、というのは違うだろう。
人間不信、女性に対しての拒絶反応、そして、単独行動。
これらから考えて思い至るのは容易だろうな。というのが、ソリトの予想。
そして、おそらくは正解だろう。
そんなこともありながら、ソリトは祝賀会に参加した。
したが、勝手に何処かに逃げないようにとルティアとクティスリーゼに張り付かれていた窮屈に感じた。
けれど、昨日の一件で、目の届く所にいてくださいとルティアが半泣き気味に言われた。
それで迷惑を掛けたので、ソリトも突き放しづらかったので受け入れた。
文句は言えない。
だが、シスターマリーや子ども達が所狭しに並ぶ料理を楽しみ騒いでいたのを見れたお陰で楽しむことができた。
ただ、一つ気掛かりなこともあった。
それは、時々ルティアから視線を感じ、振り向けば頬を紅く染めて顔を逸らすというもの。
何故なら、その視線や仕草には覚えも見覚えもあるからだった。
「まあ、いいか」
竜車の点検をしながら昨夜の事を思い出していたソリト。
結論としては、なるべく小さな面倒事は避けたい。
たとえそれが、不誠実だとしても。
故に、ルティア達が就寝している間に出立することした。
「よし。ドーラ起きろ。出発だ」
「ん〜……は〜いやよ〜」
そして、ドーラを起こして、西門へと竜車を走らせた。
ダンジョン島を目指してステラミラ皇国のある西へと向かう。
昨夜の祝賀会にシュオン達がいない事から既に向かったのだろうと、遅れを取り戻そうとガタガタと上下に激しく振動させながら進んでいく。
「ルティアお姉ちゃん来ないん!」
密林に入り少し速度を落として慎重に進み始めた時、激しく揺れているのにルティアから声が掛からないことに気付いたドーラが振り向かないまま尋ねてきた。
それに対し、ソリトは気のない返事をする。
「まあ」
「何でなんよ!?」
「同行する理由がなくなったからな。それに元々は俺といる事が可笑しい。これで聖女としての仕事に専念出来る」
「うぅイヤやよー」
「トカゲ、我儘言わない。弟子にもやるべき事がある」
聖剣の言葉を聞いても、尚不服そうに唸るドーラ。
それも仕方ないのかもしれない。
ルティアへの懐き具合は主人のソリト以上に思える程だった。
もしかすると、本当の姉の様な感情を抱いていたのかもしれない。
逆に聖剣は割り切っている。
かなり気に入っている印象だったので意外だ。
けれど、弟子はいずれ師から離れて旅立つもの。
そう考えているかもしれないが、聖剣の思考は読めない。
「あの変態お姉ちゃんが付いてくるぞ」
「やーよぉー!」
「うぐっ…」
「ならさようならだ」
「やあああぁあ…お姉ちゃーん!」
「……はぁーい」
竜車の中から気まずそうな声と共に衣擦れが聞こえた。
出発前は確かに宿の中にいた筈なのだが、いつの間にか竜車に乗り込み、布地を覆い被せて隠れていたようだ。
それにソリトが気付いたのは密林に入った時。
後戻りするのも面倒なので、ドーラを説得させて静かにお帰り願おうと誘導したのだが、別れる方が相当嫌らしく、遂に、泣き始めてしまった。
これは流石に不味いと思ったようで、申し訳無さそうに出できたのだろう。
声に反応して、ソリト達は竜車内を見る。
そこには布から上半身を出して苦笑いを浮かべているルティアが紛れもなく存在していた。
「私もいますわ!罰として罵ってお仕置きしてくださいまし!」
そう。決して付き纏い聖女の後ろでハァハァ息を荒くして妄想し始めた変態など知らない。
「あれぇ可笑しいなぁ?皇国行きの馬車と間違えてる〝奴〟がいるぞぉ」
「嫌ですよソリトさん。間違ってませんって」
「そうかぁ〜じゃあ一筆書いて、無賃乗車聖女様をアルスに投げ返そうかなぁ」
「あはは〜冗談が上手ですねソリトさん」
「俺は本気だ」
「骨が砕けるじゃないですか!」
「腰が抜けるくらい大丈夫だろ?」
「腰じゃなくて骨ぇ〜!」
「オネェ?」
「ホ・ネです!」
「俺です?」
「骨ぇ!」
「…………」
少し飽きたので、ソリトは前方に集中する。
だがしかし、ツッコミ聖女は止まらない。
「無視ー!」
「虫かぁ。それはヤダなぁ。聖剣悪いが退治頼むわ」
「ん。任せる」
聖剣はルティアにサムズアップしながら人の姿に変わる。
「向ける相手違うじゃなくてその対応自体違います!虫じゃなくて無視!イントネーション聞いてください!」
「閃いた!」
「それはインスピレーション!!」
「お姉ちゃん楽しそうやよ」
「楽しくありません!もぉ、弄りがながーい!」
「ながーーーーーーい………」
「続きは!?」
「ごめん。言ってる意味が分からない」
「お付き合い?」
「冷静に返すなら師匠にしてください」
絶望感を味わったように四つん這いになりながらも、ルティアはツッコんだ。
素晴らしきツッコミ精神である。
「早々に放置プレイなんて。でも何故ですの?全く興奮しませんの……。切なく寂しいですわ……」
「え?お前誰?」
「あはぁん!容赦ありませんわぁ!」
誰も反応してくれない状況に、放置プレイだと認識してはいたクティスリーゼが虚しさを感じたと口にして、本気でソリトは偽物だと一瞬思った。
しかし、それは困惑したことによる単なる気の迷いだった。
「黙れ変態。そのまま自分を抱き締め続けて、今すぐにここから飛び降りろ」
「はぁはぁ……自分を縛って飛び降りろだなんて、なんて鬼畜プレイッ。ですがお断りしますわ。昨日言いましたが、私はソリトに付いていきますわ!それにこんな風にした責任がお有りです。ですから断られても行くと決めましたの」
変態発言をしたと思えば、真面目に断固拒否を主張した。
興奮して蕩けた表情が台無しにしているが。
「いやいや、責任って勝手に変態に覚醒めただけだろ。罵られたいなら他の奴を探せ」
「聖女という立場の私に容赦なく罵倒出来てお仕置きをしてもらえる殿方なんてソリトしかいませんわ!それに私はソリトだからやって欲しいのであって他の方など真っ平御免ですわ!私、そんな尻軽ではありませんの」
今度は真剣な表情が発言で全て台無しである。
「ごめんなさい」
「おっふ…んん……良いっ!」
クティスリーゼは自身を抱き締めて何かを堪えるようにモジモジさせる。
それから暫くして、ソリトは溜息を吐き、疲れた表情をしながら口を開いた。
「分かったよ。このまま拒否し続けても退かないんだろ?もう勝手にしろ!クセが強いの二人相手にするのに気力が湧かん」
「やりましたわ!皆さん改めて【天秤の聖女】クティスリーゼと申します。これから宜しくお願い致しますわ」
「嬉しいですが納得いかない複雑な気分ですが、引き続き宜しくお願いします!」
最終的に歓喜の声を上げる聖女二人に、再度ソリトは溜息を吐き、ドーラは満足気に声を上げ、聖剣はやれやれと何処か呆れた様子で、聖槍は萎縮して卑屈になって挨拶を返した。
新しい同行者の変態聖女クティスリーゼ・サフィラスを加えて、ソリトはダンジョン島へと行くためステラミラ皇国へ改めて向かった。
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