第140話 聖女子会 その3

お待たせしました。





「ちなみにルティアさんは、いつから【調和の勇者】様の事が好きなのですか?」


 これまでの旅の道程を、戦いに関しては長くなりそう、と詳細を省きながらルティアが話し終えると、レティシアが直球で尋ねてきた。


「さ、さあ。自覚したのはあそこで気を失ってる人に言われて気付いたので」

「じゃあ今まではどう見ていたのです?」

「危なげで放っておけなくて、少し意地悪な人?あ、少しなのは落ち込んだりした時に元気付けようと弄ってくれていたので。それに気付いたのは、気遣う時は声が少し優しげなんです。でも、すぐに意地悪に戻るんです。でも、それが多分今のソリトさんらしいというか、不器用な部分というか…それがちょっと可愛くて……」

「惚気じゃん!」

「「え!?」」


 突然の叫びにルティアは驚きの余りに体をビクッとさせる。

 リーチェも不意を突かれたように同様の反応をする。


「あっ…いえ。ルティアさんは本当に好きなんですね」

「そ、そうですか?」

「危なげな人なのは、私も僅かながら同行させていただいたので分かりますが、意地悪な所を聞いているとこちらまで熱くなります」

「リーチェ様まで!」

「ちゃんです!」

「「凄いこだわり」」


 リーチェの圧力のあるちゃん付けのこだわりようにルティアはレティシアと声がハモった。


「御二方は気になる方はいないのですか」

「私は次期女王として教育ばかりでしたし、聖女としても未熟なのでそういった方は…それに王女ですし」

「私もさっき言った通り前線での戦いで恋愛に向ける余裕がないですね」


 でも、と二人は前置きして言った。


「強いて言うなら、【調和の勇者】ソリト」

「私も、ソリトお兄さんです」

私もわたくしはソリトの事が気になっていますわ」

「「「ぎゃあああ!」」」


 いつの間にか会話の輪に戻ってきて、ルティアの隣にクティスリーゼがいた事に気付いた三人から女性らしからぬ声が部屋に響き渡った。

 その所為で、店の人に心配と迷惑を掛けてしまった。


「先程のは私としても凄く傷付くのですが」

「日常生活で最大のホラー体験!」

「ルゥちゃんそこまで言わなくても宜しいのではなくて。なくて〜?」


 また知らぬ間にヌッと下から登ってくるように現れると、クティスリーゼはルティアに抱きつきながら嘆いてくる。


「ルゥちゃーん」

「何故か井戸から現れそうな感じがして怖いです!」

「何となく分かります。なのでどうにかして宥めてください」

「レティシアさんの裏切り者〜」


 レティシアに距離を取られた。そして、背中から抱きつき始めたクティスリーゼ。

 引き剥がそうと奮闘しながらルティアは不躾だと思いながらも、リーチェに視線を向けて助けを求めた。


「被害が出ないよう、ルティアさん達の周囲に防御結界魔法を展開しておきますね」


 しかし、先程までの年相応の振る舞いを消して、社交的な笑顔を浮かべたリーチェは魔法を唱えてルティアとクティスリーゼの周囲に防御魔法を展開した。


「ってクゥちゃんは胸を揉まないでください!」


 思わず放った肘。それは背中から抱きつくクティスリーゼの鳩尾みぞおちに入った。


「は…ひ…ナイスエルボー、ですわ」

「全く。はい、自分の席に戻って普通に話してください」

「わぁ、ルティアさん容赦無い」


 そんな言葉がレティシアから漏れた。


「……それで、クゥちゃんはソリトさんが気になるっていうのは」

「ええ。もぢろん、いぜいとしてですわ。ぐふ」

「SF小説の魔導兵器の名前を今何故言ったのですか?」

「レティシアさんも意外と鬼畜」


 リーチェからボソッと呟かれたが、ルティア達は当然気付かなかった。

 ただ、ルティアもクティスリーゼもレティシアの言葉に返すことはなかった。


「でも、良かったです」

「良かった、ですの?慕う殿方が他の女性と親密になるかもしれませんのに?」

「そうですね。変態のクゥちゃんと親密になるのは躊躇いますが、二人なら嬉しいです」


 首傾げるクティスリーゼ達三人に、ルティアは話し続ける。



【調和の勇者】のスキルは知っていますよね?【調和の勇者】は他人の力を借りなければ強敵と渡り合うのも難しい。何らかの理由で今はそうでは無いみたいですけど」

「そうみたいですわね」

「確かに、アルスの防衛の時の仮面の人がお兄さんと聞いた時は驚きましました」

「そんなに凄かったのですね。私の場合は気になるは興味としてなので、益々気になりました。いつか話してみたいですね」

「是非お願いします。今は人を突き離すのは人が信じられないだけじゃなくて、自分の進む道に迷いが生まれるからだと思うんです。でも、本当は人は一人では限界があって、強さにも色々あることはソリトさんが一番理解している筈なんです」


 だからこそ、ルティアは三人が形や理由はどうあれソリトと関わろうとしてくれようとしていることが嬉しく思った。


「私は傲慢かもしれないです。けど、私はソリトにいつかまた誰かを頼ってくれる様になってもらいたい。少数でも良い。一人でも良いから心を開ける人を増やして欲しいんです」


 語り微笑むルティア。目を細め、頬を紅く染めた笑みは妖艶な色気があった。

 その表情をレティシアとリーチェは釘付けになったように視線を逸らさず、また見惚れるように見ていた。

 その時、クティスリーゼは呟いた。


「私に頼まなくとも良さそうでしたわよ」

「何か言いました?」

「いえ?それにしても最早、愛ですわね。まぁ、私も同じ意見です。ですが、特別は私がいただきますわ!」

「わぁ」

「クティスリーゼ様」


 クティスリーゼの宣言に顔を赤くするレティシアとリーチェ。

 ルティアも突然の宣戦布告にキョトンと目を見開くも、目を閉じて息を吐いて言葉を紡いだ。


「……確かに私も今は結ばれたいと思ってます。でも、ソリトさんが幸せなら、誰でも構いません。心を開ける相手がいれば独り身でも幸せながらそれでいいんです」


 その瞳には恐ろしく余裕があった。様子からも危機感を持っていない。

 ルティアの微笑みには言い知れぬ迫力があった。

 言葉通りなのか否かの解釈捉え所を狂わせてしまいそうだ。


 その当の本人の内心は言葉通りであり、迫力通りでもある。

 また、言っていないこともある。


 結ばれたいのは本当。

 心を開いて欲しい。

 好きになって欲しい。

 二人でデートという事をしたい。

 手を繋ぎたい。

 キスをしたい。


 でも、今はその段階ではない。

 今は一人でも多く心を開ける大切な人を増やして欲しい。

 そう思うと、幸せにできるなら自分でなくとも良いと思えた。

 誰かと友人のように接しているなら、独りでも良い。

 それこそ今の状態から少し進展すれば良いのだ。


 けれど、宣戦布告されて思ってしまった。

 出来ることなら一つになりたい。

 一つになりたい。なって快楽ではなく幸福感で満たしてあげたい。

 いつか必ず結婚したい。

 だから、特別な存在は渡さない。聖剣であっても、ドーラであっても、クティスリーゼでも、誰であっても。


 だから、なりたいならやってみればいい。

 受けて立つ。


 これが、ソリトの事を優先して秘めてしまうこの本心が、ルティアから溢れる迫力の正体だった。

 それを感じたのか、クティスリーゼは椅子に座りながら一歩分後退った。


「お互い頑張りましょう」

「はい」


 笑顔のルティアとクティスリーゼから圧が溢れる。

 でも、秘めてしまっている間はソリトを優先させてルティアは攻める事はないのかもしれない。


「今はソリトの心のケアですわね。まぁいつかは罵ってもらいますわ!」

「「「……変態」」」


 呆れた表情でクティスリーゼを見るルティア達に本人は、


「褒め言葉として有り難く受け取っておきますわ」


 堂々と我変態と胸を張って認知したのだった。





――

どうも、翔丸そらまるです。


スピンオフ「はんてんゆうちゃ幼稚園」も一話投稿しましたので良かったら読んでください。

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