第139話 聖女子会 その2
お待たせしました。
まさか椅子を退かすとは思ってもいなかっただろう。
床に落下した瞬間、パチンと力みのない、大きく透き通った音がカフェ&バーの個室に響き渡った。
もしかすると、外にまで届いているかもしれない。
それ程までに見事な音を奏でた公爵令嬢は、その場で体を丸めて悶絶している。
そして、余りの出来事にリーチェとレティシアは呆然としていたが、ふと我に返るとクティスリーゼの側へ行った。
「お怪我はありませんか?」
「凄い音でしたが、体に異変はありますか?」
「精霊よ、大いなる癒やしを〝ツヴァイブ・ヒール〟これで痛みも引きましたよね?クゥちゃん」
リーチェとレティシアが心配している時に、ルティアはクティスリーゼに回復魔法を掛けて、完治したかの有無を伺う。
笑顔を浮かべて入るが、その内には圧が籠もっていた。
「ルゥちゃんが最近冷たいですわ」
「最近ではなくずっとです」
「ハグは一般的なスキンシップと聞きましたわ!」
「クティスリーゼ様のは、雰囲気もあって過激すぎるかと…」
レティシアが間に入ってはっきり言った。
それに対してルティアは力強く頷いた。
「私は貴族令嬢です。本来はこのような行動や言動は慎むべきものですわ」
突然語りだしたのは、自分の事を省みるような内容だった。
どうやら今回は本当に反省したようだ、とルティアはホッと息を吐いた。
「それでも、私は殿方よりも同じ令嬢、女性が好きです。可愛く、可憐で、儚く、美しく、そして逞しい精神を持ち併せている。そんな女性の会話する姿、お茶を楽しむ仕草と笑顔。大変素晴らしく尊いですわ!」
「クティスリーゼ様?」
レティシアが声を掛けた瞬間、クティスリーゼが彼女に顔を向けた。
「ですが、私は!女性とそれ以上に触れ合いたいのですわ!同性だから出来る、同性だから口に出来る事を、聖女という対等の立場、無礼講を使ってしたいのですわ」
熱く語り出すと、レティシアに体を向けて、両手を伸ばしながら近付いていく。
目は獲物を狩る肉食獣のよう。
手は指をいやらしく動き、レティシアの戦闘用に仕立てたであろう紺色の修道服の乳袋と軽装によって押し上げられた豊満な胸に向かっている。
「ク、クティスリーゼ様!」
「ぐへへ、良い乳房をぶら下げていますわねぇ」
「何か視線が、視線がいやらしいです!」
レティシアは胸を腕で隠しながら後ろに退いていく。
「その羞恥心に染めた表情良いですわ!」
しかし、それも彼女には舌舐りする極上のスパイスの一種でしかないようだ。
「リーチェ様、レティシア様に防御魔法を掛けてください」
「は、はい」
「遅いですわ!」
そう言って、クティスリーゼはレティシアに向かって突っ込む。以前と手はいやらしく蠢いている。
「っ…お止めください!」
レティシアは手が触れる直前で右に回避した。
直後、ぶるんぶるんとレティシアの胸が上下に揺れる。
その時、クティスリーゼが目を見開き笑みを浮かべた。
「揺らしましたわね」
意味深な言葉を言った瞬間、彼女の右手があり得ない曲がり方でレティシアの方へ伸び、そして、むにゅ、と胸を揉んだ。
「あっ…ふ…」
艶っぽい声と息がレティシアから漏れた。
すると、クティスリーゼはレティシアの背後に周り瞬時に胸の揉み手を左手に変えて、右手で左胸を揉みだした。
「はぁっ…あっ…んっ…ひぅんん!」
必死に手で覆い我慢しているレティシアの口から、激しく焦らす様に揉みしだかれる度に小さく喘ぎ声が漏れ聞こえる。
そんな二人の姿をルティアは飲めり込んだように集中した様で見ている。
同じ女性の筈なのに、目の前の出来事をあと少し見ていたいと、可笑しな気分になっていた。
対して、リーチェは白目を向いて立ち尽くしていた。
十四歳の子どもにはまだ早かった。
「指が沈み込む柔らかさなのに張りがあるなんて…最高ですわ」
「し、真剣に…あん!語らないでくだしゃい。それより…ルティアさん、んんっ、たすけて…」
「ハッ、そうでした。今助けます」
「あら。近付いたその瞬間、今度はルゥちゃんの番ですわよ?重量感も凄いですわね」
レティシアは助けるが、クティスリーゼに揉みくちゃにされるのは嫌。
しかし、このままではレティシアが犠牲になるだけ。
なのに、もう少しだけ見てみようという邪な考えがチラチラと過ぎる。
早くしないと可笑しな扉を開けてしまう。そして、その元凶は目の前でレティシアの胸を心地良さそうに堪能している。
「……あ……分かりました。私を好きにしていいのでレティシア様を離してください」
「それは…だめ」
「大丈夫です。私は聖女ですから!」
「イミフで…意味不明です」
「さあどうぞ!」
ルティアはクティスリーゼを迎え入れるように腕を大きく広げた。
「ゴクリ。では……遠慮なく、いただきますわー!」
目をハートにしてクティスリーゼが凄まじい勢いでやって来る。
そして、またギリギリの所で右に避けた。その直後、ルティアは自ら胸を揺らした。
「揺らしましたわね!」
口にした瞬間、クティスリーゼの右手がレティシアの時の様に不可解な曲がり方をしてルティアの胸に伸びる。
だが、その左手はルティアに手首を掴まれて止められた。
「来ることが分かっていれば、対応出来るんです!」
「私の
「そして【天秤の聖女】のクティスリーゼに代わっておしおきです!」
ルティアはクティスリーゼの右手を引いて、自分の方に勢いよく引き寄せ、右手を開いて引き構えた腕を彼女に向かって突き出した。
「クティスリーゼ直伝、
突き出された掌はクティスリーゼの顎を突き上げ、同時に右手首を掴んでいた左手を離して、軽く突き飛ばした。
「ま、まさか私が教えた技でやられるなんて…思いませんでたした…わ」
「久しぶりに会った日に言ったじゃないですか。素晴らしい師に会えたってあれクゥちゃんなんですよ」
ソリトと出会うずっと前に、しつこく何度も関わってきた聖女がいた。
それがクティスリーゼ。
ある日、自主的に魔物を討伐していた時に「格闘術を覚えませんか?」と茂みから突然現れたクティスリーゼに言われたことがあった。
結構です、とルティアは冷たく即答で断ったが、その後。
「それでは死にますわよ」とはっきりと断定して言われた瞬間足を止めた。
「剣を失った時に使えるのは自分の体だけ。その時近接格闘術は役に立ちますわ」と、言われたその時のルティアは説得され、クティスリーゼに指導を受けた。
ルティアが放った技はその時教えてもらった一つ。
ただ、クティスリーゼのは武技では無いので過信はしてはいけないと言われているので、使い所に困っていた。
「なるほど。でも、それにしてはかなり容赦がないように見えましたが」
「こう言う人ですから」
「確かに」
レティシアが苦笑しながらルティアの返答を肯定した。
「女子会どうしますか?」
「リーチェ様を起こして三人で楽しみましょう」
「そうですね」
そして、ルティアはクティスリーゼを椅子に凭れかけさせ、レティシアが立って気絶していたリーチェを起こして席に戻った。
「あの、ルティアさん」
「なんですか?レティシア様」
「その前に様は止めませんか?私普通の村人ですので」
「では、レティシアさんと」
「はい」
「でしたら私もリーチェ様ではなく、〝ちゃん〟か〝呼び捨て〟でお願いします」
「「申し訳ありません」」
「で、ではせめて、〝さん〟付けで」
「出来ません」
「恐れ多いです」
「………では、王女命令です!〝ちゃん〟付けで呼びなさい」
そう言われればルティアもレティシアも断れない。
「リーチェちゃん」
「はい。レティシアさん」
「………」
リーチェは今か今かとルティアに呼ばれるのを待ち構えている。もしかすると案外ずる賢いかもしれない。
「リ、リーチェ…ちゃん様」
「ちゃん様!?」
「ちゃん様ウケる!」
「え?」
「へ!あ、いえこれは私が幼い時に両親が言っていたのを覚えてしまって時々出てしまうんです。私も意味はわからないのですが」
「そうなんですね」
「それより、ルティアさんはソリト様に恋をしてるのですか?」
「そうでした!」
ルティアは有耶無耶になっていたと思っていたが、レティシアの中ではそうでもなかったらしい。
もう好きだと言ってる様な事を口に出してしまっているので避けて通れないが、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
「そんな気になります?」
「当然じゃないですか!?戦場で後方支援にあたる日々で色恋沙汰には関わりがないのですから。それに聖女なら尚更です。でもルティアさんはソリト様に恋をしている。聞かないわけがないじゃないですか!」
「私もルティアさんの恋の話を聞きたいです」
何度も恋を連呼され恥ずかしさが増したルティアは真っ赤になった顔を両手で隠す。
その間も熱い視線が刺さる。
女の子は基本的に恋バナが大好きなのだ。
意を決して、ルティアはゆっくりと深呼吸して口を開いた。
「分かりました。私の主観ですけど、お話します」
そして、ルティアは顔を真っ赤にしながら一つ一つ語り始めたのだった。
―――
どうも、
やっぱり聖女子会の回をそのまま続けて書いたら筆がなりまして、最後まで書いてしまいました。
なろうで一気読み出来るので、一気読み希望の方はそちらへ。
最後の方を修正加筆してるので、前話を覗いて見てみてください。
別サイトのURL転載していいのかわからないので載るのは止めます。
ご迷惑おかけしました。
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