第131話 これはハーレム?それとも混沌?

 お待たせしました。














「師匠、何ですか…これ」

「?要求。説明して」

「魔力は――――――――――ではない。肉体も問題―――。でも精神が――酷い状態です。ど―――――――」

「あるじ様!」


 聖剣とルティアの話し声が聞こえた。

 ドーラの今にも泣きそうな声が聞こえた。

 再び浮き上がるソリトの意識。

 目を閉じてしまった為に、声だけが聞こえていた。

 ガチャ、と話し声の中から音がした。

 扉を開ける音だ。


「ルゥちゃんどういう事ですの?宿部屋にいないので、―――いをたどって探したら―――院で、ソリトが倒れた――――」


 変態聖女クティスリーゼがやって来た事をソリトは認識する。

 時々途切れる言葉から聖剣は治療院に到着したらしい。そして、ルティアに処置をされている途中という事を、ソリトは理解した。


「しかた―――せん。師し―――も――」


 何かを言っているけれど、上手く聞き取れない。

 ここずっと強制的に意識を失ってばかりなソリト。

 そろそろまともな眠りつきたいと辟易しながらも、再び意識を手放した。






 ソリトは、身体全体に暖かく柔らかいものに包まれながら心地よい風を感じた。

 窓が開けっぱなしになっているのかもしれない。

 その時、感覚が分かる程に意識がある事にソリトは気が付いた。


 またルティアに助けられた。

 その事に悔しくなった。

 まだ一人で身に起きた事を解決出来ない程に自分は弱い。

 それが堪らなく嫌になる。


「答えが子どもだな」


 だが、今はそれで良いのかもしれない。

 そう。今はバルデスと再戦する事を起爆剤に、道程にしてスキルを極めていけばいい。

 力の正しい使い道など結局は自分が決める事なのだから。


 一旦思考を止めると意識は自分の置かれた状況へと戻っていった。

 何だか、懐かしさのある感触に包まれていた。

 ベッドには眠っているのだろう。だが、ベッドとは違うものがある。


 左右に動かしたり、握ったりして手探る。

 ムニュ、ムチと深く沈む中に反発する弾力のある滑らな何か。

 手を動かす度にぷにぷにした何かを感じる度に、身体が不調を報せる。

 それは、ここ最近まともに触れてこなかった人肌のよう。


「……ぁん……ん…」


 自分の状況を分析しようと思考を巡らせていると、艶かしい喘ぎ声のような声が聞こえた。

 その瞬間、ふわふわしていたソリトの意識が明確に覚醒した。


 毛布やシーツごと巻き込んで飛び起きると、ベッドに寝ていることが判明した。

 白い部屋に金属の柵の取り付けられたベッド。

 場所は本当に治療院のようだった。


「………ぁぅ……ソリト…さん……」

「…………………………………は?」


 ベッドの周囲を見ると、そこにはルティア、ドーラ、聖剣、クティスリーゼ、そして見知らぬ黒のロングヘアーの女性が眠っていた。

 ソリトはコート・オブ・ジャケットを着ていないだけだった。


 それでも問題事項である。

 だが、もっと問題なのは、その全員が下着姿、もしくは全裸で寝ていることだ。

 そして、ソリトが手探りで触っていたのはルティアの白く豊かな胸だった。

 手探っていたのではなく、まさぐっていたらしい。

 ソリトの身体が不調を報せるわけである。


「……………………」


 あまりの出来事にソリトの思考が吹っ飛んだ。

 脳が体の不調を報せる事を忘れるほど真っ白に。

 鼻も口も呼吸さえ忘れて固まっている。


 何がどうなってこんな状況になったのか、ソリトは本気で分からなかった。

 周りには下着姿と素っ裸の女がいて、おそらく治療院の個室の一つで、事後のような状況に囲まれている事しか分からない。


「むにゃ…ありゅじしゃま〜……ごは〜ん」

「……んぅ〜……ソリト………そこですわぁ」

「……マスター…」


 思考放棄状態に陥るほどの混乱状況なのに周りの女共がのんびり寝ていることに苛立ちが募り、額とこめかみに青筋を立てる。そして、


「てめぇらはぁ…俺を精神から殺す気かゴラァ!」


 聖剣、ドーラ、見知らぬ黒髪ロングの女性、クティスリーゼの順に【破壊王】発動状態で頭に拳骨を叩き込んだ。

 そして、ルティアにはアームロックを決め、


「……あぐ…」


 次に立ち三角締めに移行して首を締める、


「あだだだだ…なに…なにがが…」


 間接が決まり始め、音を上げ始めたルティアに頭上側から締める裸締、前方首固めを最後に決める。

 ただ、こんな技ソリトは知らない。経験から得たものである。とはいえ集団戦では使えるかは難しいが今は全く問題ない。


「いたい、いたい痛い痛い何か本当にぃぃぃ」


 逃げようと強行して無理に逃げようとするが締め付けが強くなり余計に痛い目に遭っていく。


「うぐぅぅぅぅ」


 そろそろ解放してやろう、とソリトは親切心で投げ飛ばした。

 そして、ルティアは思いっ切り後頭部から落下した。


「ふぇ…うえぇぇぇぇぇん!!いたい!痛いよぉぉうぇぇ本当にいだいよぉぉぉぉぉ!!」


 ルティアは寝惚けてでもいるのか、赤ちゃんのようなおぎゃあ声で喚きながら、下着姿を露見させて転げ回ったり、魚のように跳ねたりして暴れまわり始めた。


「レア!ルゥちゃん超絶可愛いですわ!!ソ、ソリト!あのお仕置きプレイを私もやってくださいまし!」


 クティスリーゼ変態聖女が発情した目と鼻息を荒くした下着姿で下らないことをのたまってきたおねだりしてきた

 自分が公爵令嬢ということを忘れているのではないだろうか。

 ソリトにはどうでもいいのだが。


「とりあえず黙れ変態!!」

「あはぁぁヤベェですわぁ…じゅる…そうことでしたら実力行使ですみ、わっ」


 下着姿の変態は飛び上がると、ソリトに向かって落下してくる。

 服を着てもらいたく部屋から退散したいソリト。

 だとというのに、邪魔をしてくる変態クティスリーゼ


「はぁ」


 標的、下着姿の変態聖女。

 衣服を着用していないため屋外に飛ばすのは不可能。

 同時にスキル使用不可。

 素のステータスによる撃退が適切。

 手加減をする必要有り。

 先の事を考えると身動きを取れない様にすることが必要。

 手早く済ませたいので【思考加速】で軽く手順を決めたソリトは、落下地点から右斜めに一歩分避けると、頭上目前まで落ちてきたクティスリーゼに向けて上に向かって平手打ちを放った。


「何だかんだ言って、見事なスパンキンぐっ平手打ち!」


 そう言い残して、クティスリーゼはソリトの予定通りに彼女の頭は天井に突き刺さり、吊し上げ状態となった。


「騒がしいですね。起きたのですかソリト。開けますよ。…え?」


 開けられた扉の先にいたのは、シスターマリーだった。更にその足下には孤児院の子ども達もいた。

 ピシッと空間に亀裂の入った音がするような程の事態に空気が固まった。

 それを最初に壊したのはまだ幼い純粋な子ども達だった。


「まっぱ」

「まっぱー」

「まっぱだ」

「おっぱいオバケ」

「ほんものー!」

「仕送りしてる金でどんな本買ってんだよ!!」





「状況の申し開きを聞きたいんですが」


 あれからソリトはシスターマリー達と共に部屋から退出し、彼女達には何処かで待って貰う事にした。

 ソリトは話を聞くためにルティア達の着替えを待った。

 十分以上掛かったのは天井に頭が突き刺さっているクティスリーゼを助けていたからだろう。


 そして今は部屋のベッドの上に座り話を聞く所である。

 ちなみに座っている場所がベッドなのは、テーブルはあるが、人数分の椅子が無いからである。



「私は裸でも問題無い。寧ろ恥じらう私を見て欲しい。いやん」

「いやんじゃねぇよいやんじゃ」

「じゃあ、あはん」

「いやそういう問題じゃねぇよ」


 第一発言者は聖剣だったが、恥じらう乙女のような仕草で返答してきた。

 ともかく、真っ裸な事それ助けられた事これは別なので、ソリトは、助かった、と一言返した。


「こいつ同じなのはいやだけどドーラはあるじ様を助けたかったんよ。でもドーラのありのままを姿も見てほしいんのよ」

「うん。ドーラは恥じらいってのを知ろうな」

「むぅあるじ様の意地悪」

「わ、私はソリトに『俺に卑しい身体を見せつけてくるんじゃねぇ。さっさと消え失せろこの汚い牝駄犬』って欲しかったですわ」

「ふっ…お前は本当に部屋から一回消えるか」

「わふぅん!」


 変態性が悪化しんかしている気がするが無視して、ソリトは次の相手に進む。


「すすすすすみませんッス。うちみたいなこんな無駄にデカいだけのみすぼらしい身体を見せてしまって」

「・・・いやそもそもお前誰?」


 確かに、という空気に変わったと同時に見知らぬ黒髪ロングの女性に視線が集中した。


「そそそそそうッスよねうちなんか目に……」


 という事があった後聖剣が黒髪女性について教えてくれた。

 何となく予想はつく。


「マスターと弟子以下略に説明。この羨まけし…訂正。モンスターデカパイ女はあの卑屈で後輩キャラ口調の聖槍」

「色々とツッコミたい所は…」

「ついにツッコミって認めたこの聖女」

「今までは認めてはいなかったのですか?というか以下略。辛辣さがソリトと同じくらいですわ!」

「多分な。あと自重しろよ」

「お姉ちゃんのつっこみ?はすごいやよ」

「おっふ…そうなんですのね」

「誰がツッコミですか!ソリトさんや師匠が弄って来るから言い返してるだけで私はツッコミなんてしてません。ツッコミというのは人のボケに的確な言葉を突っ込むから言うのであって、私のはただの言い返しです!だから私はツッコミ役ではありません。というか人が話してるときに皆さん言葉で覆い被せないでください!後で説教です!?特に性癖を過剰解放してるクティさんに!それと私を弄って楽しむなボケ集団!」


 僅かな息継ぎで長いツッコミを終えると、はぁはぁ、とルティアは乱れた呼吸を整えていく。


「まあそんな事より」

「酷い」

「それが聖槍の人に変化させた姿か」

「そ、そうッス」


 聖槍は率直に言えば、大きい。

 身長は百八十センチ程。胸はとてつもなく大きく、逆にウエストは、キュッと引き締まっている。お尻はそこそこ大きく、脚は美しい脚線を描いている。

 顔に関しては、右目を前髪で隠しているため全面は見えないが、穏やかそうな垂れ気味の目、スッとした小鼻に、ぷっくりとした唇。

 卑屈な性格で自分を卑下しているが、聖剣同様に全体的に容姿の整った姿形をしている。

 部分的には格差のあるものがあるがソリトは決して口にはしない。


「……モンスター」

「聖剣なんすか?」

「ぺちん」


 突然、聖剣が聖槍の胸を平手打ちした。

 羨ましまけしからんと言い掛けていたので、見ていて苛っとしたのだろう。


「痛いッスよぉ」

「そんな凶器をぶら下げてる奴が悪い」

「うちのことッス?」

「あと一人いるけど、そのおっぱいオバケは弟子だから」

「私ですか!?」

「……その話は女だけの時にしてくれ。とりあえず聖槍の姿に関しては把握した」

「ん」

「さて、癒し。理由を話してもっていいか?」

「はい」


 真剣な雰囲気を纏って返事をするとルティアは丁寧に教えてくれた。

 昨夜、聖槍を通じてソリトが何らかの影響で危険な状態に陥ってしまったので、治療院で治して欲しいと聖剣から頼まれた。


 しかし、外傷は見当たらず、魔力も回復していっており、特に問題はなかったが、精神が疲弊所ではなかった。

 身体が低体温になる程に支障を来しており、尚も体温の減少は続いていたそうだ。

 先ず、ルティアは精神を回復させる為に、気を失っているソリトに一言謝罪を入れて手を握り、聖剣やドーラ達にはその間に毛布を出来るだけ重ねてもらうように頼んだが、少しだけ温まった様だが、それ以上上昇することは無かったそうだ。


 そこでルティアはソリトの肌と触れる面積を広げる事にした。

 実は【癒しの聖女】の精神回復は触れる範囲が広がる程に回復力が上昇するという効果だった。

 余りやりたく無いので、人には公言していないという。

 緊急時なので、ルティアは全身を密着させる事にした。

 また、少しでもソリトの体温を上げる為に、自分の体温を使う事にしたらしい。

 服を脱いだのは服越しでは伝わり難いからであった。

 ただ、ソリトの体が拒絶反応を起こす可能性もあるので、ルティアも賭けだったらしい。

 そこに聖剣、ドーラ、聖槍、クティスリーゼも加わって体温を温めようとしたらしい。


 ドーラと聖槍はともかく、聖剣とクティスリーゼは申し開きを改める必要がありそうだ。

 片や基本感情を表に出さない聖武具、片や公爵家の御令嬢。

 振る舞いの裏には自身の心配を見せないという気遣いが含まれているかもしれないが、自分をオープンにし過ぎである。

 やはり改めべきではないだろうか、とソリトは密かに思った。


「…そういう事なら、まあ」


 おそらく、どこぞの知らない感情を注ぎ込まれた事で精神が可笑しくなっていたのだろう。

 それを治すための行動という事なら、とソリトは今回のことは我慢した見逃すことにした。


「また迷惑をかけた。ありがとう」


 女性陣は嬉しそうに微笑んだ。

 しかし、ソリトが、ただ、と前置きすると空気が引き締まった。


「聖剣と変態聖女。お前らには話がある」

「ドーラちゃん先に子ども達の所に行きましょう。聖槍様も行きましょう」

「いやうちが行くときっと畏縮しちゃうッス。デカいッスから」

「大丈夫です。寧ろ遊ばれます。そう、ホントに、先程の、事に、関して、隅々。なので行きましょう」

「それってうちを道ずれにしようとしてないッスか!」

「……さて」


 ルティア達が足早に部屋を出ると、ソリトは殺気と怒りに加えて【威圧】を放った。


「マスター。私、心配もしてた」

「分かってるでも、それを先に言ってくれ。それが聞きたかった」

「ん、分かった」

「じゃあ後でな」


 聖剣も部屋を後にしてルティア達の所へ合流しに行った。


「で?」

「行動は行き過ぎたものでしたが、あれには明確な理由があっての事」

「丁度改めて申し開きを聞こうと思っていたんだ。聞かせてもらおうか」


 物怖じせず貴族令嬢然とした堂々とした振る舞いと真剣な言葉。

 本当に心配しての事だったのかもしれない、とソリトは理由を逃さず聞こうと耳を傾ける。


「ああすればソリトが罵ってくれると思いましたので」

「何も言えねぇ…」


 もじもじ恥じらうような仕草で話すクティスリーゼを目前に、それは間違いだったと理解させられた。


「つまり無視という放置プレイ!」

「ちくしょーこの変態がぁぁぁぁ!」

 

 



 ――

 どうも、翔丸です。


 鬼ヤバい空間です。

 この回にあうサブタイトルが見つからない程に。

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