第130話 急ぐなか
お待たせしました。今回はかなり短いです。
数分か数秒か。
どちらでもよいのだが、僅かではあるがソリトの意識が表層に出た。
水面に顔の一部が浮き出たような感覚だ。
浮き出たタイミングは、聖剣がソリトを抱き抱えたまま、タン、と軽い足取りで高い壁を越えた先にある観客席足場にして、闘技場の一番上へ飛び乗った時だった。
そのまま聖剣は五十メートル前後はある闘技場から外に飛び降りた。
建物の屋根に降り立つと、闘技場から離脱して一直線に突き進んでいき、中央区域に到着した。
迷惑をかけているのは理解しているが、ソリトは困った事になると思った。
魔力欠乏症では無いにしろ、黒い何らかの影響によって危険な状態になっている。
ソリトが意識を失う前、聖剣が焦燥した雰囲気で聖槍に呼び掛けていた。
状況から考えれば【癒しの聖女】であるルティアに説明させたのだろう。
無事に意識が覚醒すれば、必ず面倒くさい事になりかねない。
「――――――」
ぼんやりと意識が浮かび上がっているだけの状態の所為で、出そうと出そうと思っても声が出せなかった。
宿に戻れと言いたいソリト。だが、体はかろうじて息をするだけだった。
「っ…マスター!?……反応無し。目も反応無し。推測、朦朧と意識が出ただけと判断する」
繋がりのおかげか、聖剣がほんの僅かに意識が出たことに気が付いて、小さな変化を観てソリトの状態を分析していた。
「大丈夫。先刻、距離問題で、聖槍を通じてだけど、弟子に報告した。今は治療院に進行中」
魔力欠乏でもない訳のわからない原因不明の状態の人間を初見治療するのは不可能に近いのだから。
それは無茶な話ではないだろうか。
そう言いたいが、何も言えないことに歯痒さを感じるソリト。
「不可能な可能性が大きい。けど、私には剣としてしかマスターを、助けられない。知るなかで助ける方法は、設備万全な場所で弟子に、救助依頼することだけ。嫌かもしれない。頼りたくないかも、しれない。けど、私は生きてほしいから」
視線が動かせず視界も狭い状態なので、顔は分からないが、真剣な想いが声から小さく浮かび出た意識に伝わった。
生きたいと思うのは彼も同じだ。
そもそも、こんな無様な死に方は死んでも死にきれない。死ぬのならバルデスに敗けてその手で殺される。
現状、それがソリトの望む所である。
だから、ソリトは聖剣の言葉に同意して目を閉じる事にした。
意識を保つ事も辛くなってきていたのでソリトとしても都合が良かった。
すると、体はその意思に従うように目を閉じてくれた。
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