第119話 罪状2
申し訳ございません。
大変お待たせしました。
それと、119話目の『王族女性達との対話』を加筆修正しています。
女王達にヘイトがいきすぎたみたいなので。
盗賊と結託という言葉が放たれたその瞬間、法廷全体が騒がしくなった。
それは傍聴席だけではなく、証言台にいるファル、フィーリス、アリアーシャ、グラディールの四人も驚愕の表情を浮かべ、クロンズに視線を向けていた。
「傍聴席は静粛に!」
騒がしい傍聴席へ男性裁判官が鎮める。
ソリトも驚いてはいるが、騒ぐほどではない。それよりもグラディールの時のと加えて怒りの方が湧き上がっていた。
人の人生を弄び、命を物のように搾取していた元魔王四将の吸血鬼の様に。盗賊と結託して、通り掛かった人の金品を奪い、命を奪って来たであろうクロンズに。
また、その行為はソリトの嫌いな部類の一つだ。
でなければ、吸血鬼を感情的理由を挟んで殺そうとは思わなかった。
やはり、ルティアが襲われていた時に、制止を無視して殺しておけば良かったかもしれない、という考えが頭に浮かぶ。
それでも、あの時ルティアの覚悟に免じて見逃す選択をした事をソリトは後悔していない。
「私とクレセント王妃の調査隊の調べとその全ての盗賊が自白した証言によると、被告は勇者として各地を回り、アジトを探しては、場所によって多額の報酬で雇う為に色々と交渉していたそうです。村を襲撃させて亜人種や人種の子どもを中心に拐わせる場所があれば、通り掛かる辻馬車や商人の馬車を襲撃して金品を奪わせる場所もあった様です。拐わせた子ども達は非合法の奴隷商に奴隷として売買させ、盗品に関しては一部を受け取っていたそうです。更に用意周到な事にその金品は分割して預けていたとのこと。そして、原告との関係ですが、被告と原告ソリトがパーティと合流してからもクレセント王国内で活動している盗賊に話をつけて範囲を拡大しておりました。そして、その盗賊の一つを
最初は自分とどう関係しているのか引っ掛かったが、内容を聞いてソリトは納得がいった。
ドーラの服を作るための材料を取りに行ったクレセント王国の渓谷で盗賊と遭遇した事があった。
その後は交渉で見逃した筈なのだが、壊滅したらしい。
もしくは、勇者が金品と交換を条件に盗賊を見逃したと言った外聞の悪い内容を出せないという理由も考えられる。
そうだとしても、全ての盗賊が自白したという事は結局は捕まったという事だ。
だが、もしクロンズを殺していれば何もかも終わっていただろう。
その場合、今頃この事実は水の泡に化し、闇のなかに葬られていた。
そう思えば、ルティアの覚悟の免じて見逃す選択をしたソリトの判断は間違っていなかった訳だ。
「そういえば、アポリア王国から支援が切られたはずなのにいつも通りの活動が出来てた」
「ち、違うよねぇ。ねぇクロンズゥ?」
思い当たる節があったのかフィーリスが考え込んでいる時に、アリアーシャがクロンズに訊ねた。
しかし、クロンズは声が聞こえていないのかボソボソと青褪めた顔で何か呟いている。
「ふざけんじゃないわよ!そんな金を使わせないでよ!私達関係ないじゃない!!」
「被告人、お静かに」
クロンズの反応を見てフィーリスが肯定と取ったらしく、剣幕に歪んだ顔で睨み、怒鳴り散らす。
すると、クロンズは顔を青褪めさせていた顔に青筋を浮き立たせた。
「僕に押し付けるな!一つも一度も疑問に抱かなかった癖に今更口答えするんじゃない!!」
「そんな金なんて思うわけないでしょ!」
「静粛に!!」
男性裁判官の法廷に響き渡る声は言い争い始めたクロンズとフィーリスの二人を後退らさせ、沈黙させた。
戦場でもないのに緊張と警戒心が揺さぶられる威圧。それに対して、ソリトは素直に凄いと感じた。
そして、静かになった所でロゼリアーナが再び資料を読み始めた。
「次に別の資料で続けさせていただきます。まずこの資料は本日の早朝に【雨霧の勇者】シュオン様から提供して頂いたものです」
裁判前に女王達に会っていたのはその資料を届ける為だったらしい。
そして、早朝に提供した筈なのに直前に会ったのは、手続きをする必要があり、それで同行していたのかもしれない。
「この件には私ながら不甲斐ないことに、アポリア王国の貴族の一部の手を借りて行われており、彼等はクロンズ、王太子派に属する者達で構成されており、幾つかの宝石類はその貴族達の手に渡っておりました。そして、一度に受け取る量はかなり少なくして隠蔽工作まで行っていたという事です。また協力関係にあった貴族達は現代アポリア王国の牢獄に収監しており、盗賊、関わった奴隷商も各国で収監している状態です。以上。罪状、殺人、
罪状まで聞き終えたが、ソリトはどうでも良いと感じた。
内容には反吐が出るが、クロンズ個人がどうなろうが、関わった貴族がどうなろうが、盗賊がどうなろうがもう知ったことではない、無関心に無情にもこの法廷から退出したいと感じている。
それでも行動には移さない。
グラディールの罪状を聞いていた時に見届けてやる。そう心の中でソリトは宣言したからだ。
「おいお前、何僕を見下してるんだ?」
「は?」
突然、クロンズがソリトを睨み付け、意味不明な事を言い出した。
「さっきから僕達を見下したような目で見てただろうが!!」
そんな風に見ていた覚えない。
裏切られてからクロンズ達に怒りや憎しみといった殺意の籠った目で見ることはあっても見下すような目で見たことはない。
クロンズの罪状にも引き起こした結果に対して怒りが湧く事はあっても、犯罪行動に興味は無い。
そう見えていたとするなら、それはただの錯覚。
「それは勘違いだ。プライドの高そうなお前の事だ。今の自分が哀れだと思ってるんだろ?」
「お前は、僕が自分で自分を見下してるとでも言いたいのか?」
「両者静粛に!」
「裁判官殿、無礼と承知していますが、続けさせたいただけませんか?お互い、言いたい事は言えなくなるでしょうから」
「…………分かりました。特別に許可しましょう」
男性裁判官の温情にソリトは頭を下げた。
そして、頭を上げるとクロンズの体がぶるぶると震えていた。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ、無能の分際で!」
ルティアとドーラが殴りかかろうと椅子から立ち上がろうとしたが、ソリトは手を横に伸ばしてそれを止めた。
「無能。確かにその通りだ。誰かの力を借りなければ、お前等と横に並んで戦うことすら出来なかったんだからな」
「そうだろ。僕は正しい」
「だが、お前はそれ以下だ」
「なんだとごら゛!!」
傍聴席から幾つか小さく悲鳴が上がった。
原告側や証言台の他四人は、流石に平静を保っている。
そして、荒々しい言葉を突き付けられたソリトは、その間も話を続けた。
「お前には優れた才能とスキルがある。確りと基礎となる土台を作っていれば、レベル差が十も離れた敵とも戦えた筈だ。俺が横に並んで戦う意味すら消えるくらいな」
その才能が本当に羨ましかった。
魔法の適性もなく、スキルは仲間に寄生しなければ使えず、戦闘センスは努力し続けなければ戦えない程に皆無。
だが、クロンズは旅の道中でも遊んで、アリアーシャ達と夜にまぐわう余裕とその間も努力していたソリトを軽く踏み潰せるセンスがあった。
憎む要素はあっても憎まれる要素は無かった。
だというのに、憎まれ、裏切られた。
人気を攫ったからという理由で。
今は勇者として活動するなどしたくもないが、以前は勇者は人間族の希望であり、明日を生きる為の活力源であり、安心できる存在とソリトは考えていた。
ならば、希望でありたいと思って周りの者達と接する事は、そう〝努力する事〟は間違っていないはずだ。
「勇者として活動する間も俺は努力した。それが人気として周りの希望になっていたのなら、〝以前の俺〟にとって、それは誇りだった」
そう、誇りだったのだ。
信用してくれた者は少なからずいた。それでも信用することの無い者の方が多い。
その多数も救う事になるなら、人間族の為に戦おう等とはもう思わない。
「で?その間お前等は何をしてた?お前等は鍛練を積んだのか?反論があるなら言えよ」
そう言葉を投げ掛けたが、クロンズやフィーリス達も反論の言葉はなくただ悔しげな表情で顔を歪ませていた。
しかし、ファルだけは悲しげな表情で微笑みながら泣いていた。
「………別に遊びや才能を馬鹿にしてるわけじゃない。才能だって休息だって必要なもんだ」
それでも、絶対に許せないことがある。
「遊び呆けていた奴が努力してきた人間を馬鹿にするんじゃねぇよ」
――――
どうも、翔丸です。
短い。悔しいです。
裁判難しいです。
でも頑張ります!
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