第113話 ちょい百合?の後は惚気?

「あっ…ん…」


 妙に色気のある艶やかな声。

 深く沈んでいたソリトの意識が覚醒した。


「…………ん」


 淡い光にソリトは目を開ける。

 それと共に体の感覚が戻って来た。

 その瞬間、体の節々に重りがのし掛かっているような感覚が唐突にやって来る。 

 そして、現状は何故か知らない部屋でベッドの上で横になっていた。


 時計の針が一定感覚で小刻みに鳴る音を立て、外からは鳥の鳴き声でも聞こえてきそうな程。窓から射し込む陽光は清らかな感想を浮かべさせられる。


 気持ちの良い朝。

 ソリトは深呼吸をしてその新鮮な空気を取り込みながら、少し視線を泳がせた。

 

「ん?」


 その瞬間、ソリトの中で気持ちの良い朝は、異様な朝に様変わりした。


 瞳も生気が抜けた光のない無に変わる。

 隣に置かれているベッド奥の端でドーラが丸まった大人しそうな姿勢で寝ている。

 一方で、ベッドの真ん中では見知らぬ青髪の少女がルティアに抱き付きながら胸の感触を味わうように揉んでいた。

 服は乱れ、両者共に頬を紅く染めていた。


「あるじしゃまのごはん〜……」

「……やぁ……ニュルニュル……来ないで……ください…蛙……蛙はいやです〜……」

「……ん……ルゥちゃ〜んダメ…ですわ…逃げないで……くださいまし…むにゃ…捕まえましたわぁ〜!…うへへ〜…」


 青髪少女によってパジャマが白い滑らかな肩から美しい双丘の谷間まで大きく着崩れ、下からパジャマの中に腕を入れられ裾の捲れた所から白く引き締まりながらも滑らかなくびれと腹部が晒されて、あられもない姿を見せてしまっているルティアを見ても、欲情する事なく、死んだ魚のような目で一部始終を眺めながらソリトは思った。


 地獄絵図のようだ、と。


 ただ、その様な絵を一度も実際に観たことはない為、あるのだとしたら目の前で起きている様子の事なのかもしれない、とベッドで横になったまま冷静に感想を抱いていた。


「……よし」


 ソリトは思考を放棄して、視界に入らないように横向けに寝返りながら羽毛布団を掛け直して目を瞑った。


「寝よ」

「いや助けてください!!」


 間髪入れずに、ルティアがツッコミを入れる声がソリトの耳に入る。

 直後、バサッと布団が捲れた衣擦れの音とゴンッ!と何かが落ちた鈍い音が部屋に響いた。


「何だ起きてたのか?」

「へ……?」


 体を起こして振り向けば、ルティアの目は寝惚けていた。

 もしかして、とソリトは馬鹿な考えだ、思考が未だにぼんやりとしているからだと思った。

 それでも寝たまま反射的にツッコミを入れたのかと考えられずにはいられなかった。


 寝惚け目でルティアは顔をキョロキョロと左右に往復させる。途中、ソリトの方に顔が向くと、そのまま止まった。


「〜〜っ!!ソリトさん!」

「萌へぇ!」

「あ、ごめんなさい。ソリトさん、起きたんですね!」

「あ、ああ」


 目を見開いて飛び込む勢いでベッドの上を歩いて下りた途端、下に落ちた先程の青髪少女から可笑しな声が漏れた。

 踏んでしまったルティアは俯いて謝罪したが、辛辣で素っ気ない塩対応という意外な謝罪。

その直後、一変して歓喜に満ちた表情を向けられ、ソリトも苦笑いと戸惑った返事をするしかなかった。


「良かった……!い、いえ良くないです!三日!あれから三日も寝てたんですよ!無茶苦茶で無謀過ぎます。なんだって病み上がりでボロボロになるまでしたんですか!?」


 バルデスとの戦いから三日。

 それは体が重く感じる訳だとソリトは鼻で笑った。


「……目的の為だ。でも、途中で聖女の言う通り無謀だとは思った」


 ルティアは大きく息を吐く。


「……まったくもう。戦いが終わった後になってそんな弱音言うなんて、困った人ですね。それで?どのくらい無謀と感じたんですか?度合いは?怖いと思いました?」

「知るか。というか、子ども扱いは止めろ」


 抗議したのが悪かったのか、ルティアは余計に、


「嫌です。今くらいは私に弄られてください」

「お前……」

「悔しがるソリトさん可愛いです」


 と、楽しそうにころころと笑ってソリトを子ども扱いした。


「……………な」

「はい?」


 唇だけを動かしてソリトは、ありがとな、とルティアに感謝の言葉を口にした。

 あの時の自分は報告と鼓舞がなければ、戦いが楽しいという初めての感情に振り回されたまま、負けて満足していたかもしれなかった。

 唯に、直接は悔しい気がするという何とも下らない理由ではあるがルティアに礼を言いたかった。


 人として当然の事を、協力関係が終わる前に言わなければと。声にしていないのでソリト自身どうかと思ってはいる。


「……どういたしまして。まだ眠たいのでしたらゆっくり休んでください」


 しかし、問題なかったのかもしれない。

 きっと感情が視えたのだろう。

 厄介な事この上ない能力だ、とスキルが発動する度ソリトは思う。


 ただ、この時ばかりは感謝すべきタイミングだと考えを変えた。


「言われなくてもそうする」

「ふふ…はい。おやすみなさい」


 ルティアの子守唄のような柔らかな囁きと共に、ソリトは目蓋を閉じた。


「おやすみ。聖女お姉ちゃん」

「そこは聖女取ってや!」


 弄るなどレベル差100も早いと最後にソリトは弄って眠りについた。

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