第112話 ついに決着!二人の最後の一撃!!

 ソリトは後ろに跳びバルデスと少し距離を取る。


 その時、バルデスが両腕を引いて構え、右拳に紅蓮の獅子、左拳に紅蓮の狼を纏った。

 どうやら、先程の武技を魔闘技で放つらしい。


 ソリトも右足を一歩分後ろに、左腕を拳が体の真横に来るまで引きながら拳に白狼を纏わせ、体を少し右に捻り、魔力砲を放つ為に右掌に魔力を集中させる。


 すると、ソリトとバルデスから凄まじい爆風が吹き荒び出した。


「獣王牙双爆炎裂波!!」

「はああああああああ!!」


 ソリトは巨大な白狼と魔力の砲撃が放ち、バルデスは先程の武技よりも巨大な二体の紅蓮の獣を放った。

 互いの敵を目指して二つの攻撃が衝突した瞬間、互いの技が激しく衝突し合い、その中心は荒波のように揺らぎ始める。


「かぁぁぁ…ぜああ!」

「くうぅぅああ!」


 衝突し押し合う巨大な攻撃は大地を抉り、徐々にその範囲を広げていく。


「………くっくそ」


 衝突し合う巨大な攻撃が徐々にソリトの方へと傾いてきている。

 ソリトは完全に押されていた。

 それでも、勝つためには堪えるしかないと諦めずに抵抗する。


「私の方が勝っているぞソリト!」

「やろ…ま、まだ……はあああああ!」


 ソリトは一割だけ魔力消費を上げた。

 すると、少しずつ二つの巨大な攻撃がバルデスの方へと傾き始めた。


「消費量で威力を上げたか。しかし、それは私も上げれば済む事だ」

「くっ……」

「答えられんか。ならば終わりだ、終わりにしてやる!」


 バルデスがそう言った瞬間、衝突し合う中心まで押し返していた攻撃が再びソリトの方に傾き始めた。


 しかし、このままではソリトは確実に負けてしまうだろう。

 

「くっ……」


 やはり、駄目なのだろうか。

 やはり、自分は【調和の勇者】の時から変わらない。強くなった所で一人では強敵には勝てないのか。

 いや、だとしても負けるわけにはいかない、絶対に諦めるわけにはいかない。

 何か方法はないか、とソリトは模索する。


「……そ、そうだ!」


 デメリットがあるからと【破壊王】と【狂戦士】は使わないでいた。

 しかし、今なら【破壊王】のデメリット敏捷の減少は関係ない。一時的に理性が消えるからと使わなかったが一段階目だけなら【狂戦士】は堪えられる。


 使い所はここしかない。


「【破壊王】、【狂戦士】フェ、フェイズワン!!」


 物理攻撃力と魔法攻撃力が上昇した瞬間、二つの巨大な攻撃はバルデスの方に再び傾き始めたが、中央まで押し戻すまでしか届かなかった。


「そ、そんな」


 聖剣が弱音のような一言を漏らした。

 もしかしたら、長年多くの勇者と共に戦闘を経験してきたからこそ、この戦いでソリトは負けてしまうと悟ったのだろうか。


「せ、聖剣…俺は、負けると思うか」

「……」

「……そうか」


 聖剣の沈黙の肯定に納得していると、ソリトの体がズズッと後ろに押され始めた。

 それでも諦めず、何とかソリトは堪える。


「………さ…ん………リト……ん…ソリト……!」

「…る…さま…ある…さ……あるじ…ま…!」


 その時、何処からかソリトは自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「ソリトさーん!!」

「あるじ様ー!!」


 右に顔を向ける。

 その視線の先にいたのは離れた場所にルティアとその背中に聖槍、そしてドラゴンの姿のドーラだった。


「聖女…ドーラ…」

「マスター聖槍忘れてる」

「ソリトさん!!【天秤の聖女】と合流しました。ソリトさんの冤罪も晴らしてくれます!!……だから、勝ってください!!」


 こうして、戦えているのは聖剣やルティア達が天空島という場所へ連れていって貰ったため。

 それから、ソリトの冤罪を晴らそうと【天秤の聖女】がいるであろう皇国へ行っていると、ここに来る間に聖剣はソリトに聞かれ教えた。


 そして、どうやらルティア達は上手く【天秤の聖女】に出会い協力してもらえる事になったらしい。

 喜ばしい。それは喜ばしいことだ。

 だが、


「くそ……負けられなくなったじゃねぇか…あいつら」

「ん」

「覚えてろよ、あの付き纏い聖女」


 ルティアのツッコミが聞こえた気がしたものの、既にソリトは【並列思考】を発動して【狂戦士】本来の段階へ上げステータスを上昇させて理性の維持する事に思考を向けていた。


「持てよ理性………【狂戦士】フェイズ3ー!!」


 直後、ソリトは理性の半分だけのまれるだけに何とか留まった。同時に魔力砲と武技〝牙王白狼拳〟の威力が急激に上昇し、衝突し合うエネルギーの塊を押し戻していき、ついに巨大な攻撃はバルデスの方へ傾き始めた。


「か…ぁぁ……ずあああああ!」


 バルデスの攻撃が更に勢いを増すと、ソリトの攻撃が再び押され中央まで戻された。


「Gu…MADa……HAAAAAA!!」


 半狂化状態のソリトは残りの魔力を一割だけ維持に残して威力向上に注ぎ込んだ。

 すると、押し合う攻撃は激しく荒れ揺ぎ、ぐにゃりと歪み出した。

 そして、突如二つの攻撃はエネルギーの塊となって収束していき、大爆発を起こした。

 その中心にいたソリトは、爆発に巻き込まれた。


「……マスター大丈夫?」


 空中に吹き飛ばされて地上に落下し、仰向けに倒れていると、聖剣から心配する言葉を掛けられた。

 少しだけ混濁していたソリトの意識が戻った。


「あ…ああ、つ…【痛覚軽減】のお陰で…何とかき、気は保ってる」

「半分安心。【狂戦士】は?」

「…解除……した。た…ただ、体が…妙に…お……重い」

「魔力と精神力枯渇は?立てる?動ける?」

「待て、心配しなくても…大丈夫だ」

「昨日の件がある。する、当然」

「……こ…枯渇はしてないが、た…体力も……身体も…ボ…ボロボロで、う…動くのは…無理だ。そ……それより…あ…アイツは……」


 自分の事よりも、ソリトはバルデスがどうなったのかの方が気になった。


「右、約二十メートル先」


 右に顔を向けるとバルデスらしき影が倒れていた。

【気配感知】でソリトが気配を感じ取れた為、あの爆発からバルデスも生き延びたらしい。


 足音が自分の近くでコツッと鳴った。

 顔を向けると、カロミオ、ラルスタ、老執事がソリトを見下ろす距離まで来ていた。


「良くやってくれた、ソリ…」

「ソリトさん!!」


 カロミオの声に被せて名前を叫びながら、ドーラの背中から降りてルティアがソリトの側へやって来た。


「このお馬鹿、お馬鹿様お馬鹿様!……」

「ハハハ……さ…最初の一言が……それか」

「当たり前です!!こんな、ボロボロになるまで無茶して、魔力は枯渇してませんよね!?」

「ああ……てか…お…お前さっき……俺に負けられない…ように……ししてた…よな」


 今更な事をルティアは怒って、心配している。

 加えて慌ててもいるらしい。

 その前に鼓舞までしているというのに、何時もせわしい聖女である。


「目の前で死ぬ所なんて見たい人なんて誰もいませんよ。報告だって、私は聞きたくありません」

「ぎゅあ〜」



 そう言うルティアと他に人がいるために心配そうな鳴き声を出すドーラの二人の目尻には涙が溜まっていた。

 確かに、病み上がりで来たのだから心配するのは当然の事かもしれない。今回はルティアの『お馬鹿』という発言を、ソリトは甘んじて受け入れることにした。


「今治しますから。拒否しても無理矢理治しますから」

「お…おう……ん?」


 その時、ソリトはバルデスの方に頭から耳のように見えるものが生えた女性の影が見えた。


「な…なあ……アイツの所に立っているのは」


 訊ねると、ラルスタが答える。


「【雨霧の勇者】シュオン様だ。彼女は南へ行ったのをアルス兵に追ってもらったのだ。後は君と同じ勇者のシュオン様に任せよう」


 再度視線をバルデスに向けるとシュオンが片方だけ腕を上げ、振り下ろそうとしていた。

 今からバルデスを殺す気なのだ。

 ソリトはシュオンへ向けて精一杯の声量を張り上げて発した。


「待ってくれ!!」


 直後、カロミオ達の視線がソリトに集まり、ルティアの回復魔法とシュオンの動きがピタッと止まった。

 掠れた声で誰に向けた言葉かも不明なのに良く止まってくれたと思いながら、ソリトは【念話】を発動してシュオンに繋げた。


 〈そ……そいつを、バルデスを…こ……殺さないでくれ。た……たのむ〉

 〈その声、ソリトか?だ大丈夫なのか!?というか、え?なぜ頭に!?いやいや、それよりも今の言葉どういう事!?見逃して回復すればまたここへ来るかもしれない。私達に取って今魔王四将の一人を討つのはチャンスなんだ!〉

 〈そ…そうだろうな…けど、たのむ……〉

 〈…それは、なぜだ?〉


 ソリトに戦う為の体力は既に尽きている。【自己再生(中)】でボロボロな体を治せば多少は動けるかもしれない。

 そして、聖剣でバルデスに止めを刺す。

 普段なら自身の強化のためにその選択を簡単に取っていた。

 しかし、今は別の選択肢がソリトの行動の邪魔をしていた。


 もし、バルデスを討てばシュオン言った通りの人間族側にとっては大きなメリットになる。

 それでも、バルデスとの戦いで生まれた選択肢を選びたかった。


 自身のスキルを極めた所でその先に何を求めるのかまだ見つけられてないが、その過程での目的にバルデスが成り得る、とソリトはそんな気がしていた。

 また、この戦いに納得がいかなかった。


 〈お…俺は……この戦い……な…納得…出来て……い…いないんだ〉

 〈……そ、それで勇者である君が見逃すのか!!〉

 〈…ハハ…ど……どうせ俺は……国に…見捨てられた…名ばかりの……勇者だ……〉

 〈それでも君は人種。人間族だろ!?〉

 〈…こ……ここまで追い詰めておいて、み……見逃す俺の…考えが…ま……間違ってるって…のは…わかってる…が、た……たのむ…〉

 〈……………駄目だ。勇者として狼牙族の戦士として私は……〉

 〈それでも…たのむ……こ…こどものわがままだと…思って…さ…もう一度だけ闘わせてくれ……〉


 ソリトがそう言うと振り上げていた腕をゆっくりと下ろした。


 〈わかった。後から来た私がソリトの手柄を横取りするのは違うからな〉

 〈ハハハ……勇者の言葉かよ…〉

 〈お互い様だ。けど、私だけの話ではない。この場にいる全員にも意見を聞かないと〉


 そして、ソリトはルティア達にこの場でバルデスを見逃してほしいこととその理由を告げた。

 当然、反対の声が上がった。

 しかし、意外にもカロミオだけはそれを了承した。


「同意が馬鹿な事だとは思っているが、ソリト君にはこの場で無理を通す資格がある。それに私も気持ちが分からなくはないからね」


 カロミオがそう言うと、ルティア達はその通りだと賛同した。

 それよりもソリトはカロミオも戦闘を楽しめる感覚を持っているらしい事に驚いた。

 そして、シュオンに全員から同意を貰ったことを言った。


 〈そうか………なら次は絶対に、あの魔王四将を倒してくれ〉

 〈ああ!〉


 ソリトは精一杯の声でシュオンに力強く返し、ルティア達とバルデスがいる所まで掠れた声を張り上げた。


「なあ…バルデス……お前が…お、俺にそう思わせる場所に立たせたんだ!この戦い…な……納得いかない気持ち…あるよな?」


 それから少ししてゆっくりと疲弊し切った声を張り上げながら、バルデスが返答してきた。


「…あ゛……ああ…その通りだ……ソリト!私も…納得していない!」

「なら…行け…全員見逃すってよ。だ……だから……生きて……強くなって…次に会った時に……決着を…つけようぜ……」

「……ああ……も…勿論だ!」


 その答えを聞いた瞬間、目蓋が重く、徐々に視界が遠くなっていき、そして、ソリトの意識は深く落ちていった。

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