第110話 激烈!フルパワー決戦
【魔力放出】は魔力を消費し、自身の物理攻撃力、防御力、敏捷力を強化する。
強化後は魔力を少量ずつ消費することで身体強化を維持できる。
ただ、長時間戦闘をする場合、出せるのは今のソリトでは三割が限界。
だが、【魔力消費軽減】を平行して使えば、【孤高の勇者】で効果が上昇している為、三割分の魔力消費を一割まで抑える事が出来る。
この二つのスキルを【破壊王】と【狂戦士】を除いた戦闘系、耐性、単一、魔法スキルを駆使する。
「よし!!」
ソリトは【魔力放出】と【魔力消費軽減】を発動し、魔力消費しながら自身のパワーを上昇させて行く。
そして、本来六割分のステータス強化を二割軽減した三割まで達した瞬間、体を大きく広げると共に一気に解放した。
「はあっ!!」
直後、ソリトから凄まじい衝撃波が発生し、離れた場所にいるファル達の距離まで大地が揺れる程の影響を及ぼした。
「気配が一段と変わったか?」
「かもな。俺が今出せる所まで身体強化で力を引き上げた」
「フルパワーという事か。期待に応えてくれる。では次は、私の番だ」
ニヤ、と笑みを浮かべてバルデスは自然体のまま小指から順番に握って拳を作ると、腕を交差させながら頭上まで掲げ、そして大きく吼えながら振り下ろした。
「はああああ!!!」
直後、ソリトと同じ現象をバルデスも起こした。
だが、そんな事よりも、ソリトはバルデスの身に起きた現象に驚いた。
紅蓮色の薄い膜がバルデスの周囲に流動しながら張られたのだ。
同時に、ソリトの時と同様に大地が悲鳴を上げるように激しく揺れた。
「これが、私のフルパワーだ」
大地が震え上がるほどの凄まじい力。
しかし、ソリトとて【鬼殺し】も発動している為、攻撃力に関しては物理防御力や敏捷力よりも格段に上がっている。
その上で、自分とどれだけ力量差があるのか少しだけ確かめてみたくなった。
バルデスの方まで歩み寄っていく。
ソリトの考えを察してか、同じ考えを持っていたのか、彼は自分の所まで来るのを待っている。
そうして、目の前で向かい合う距離まで来ると、百七十センチ台のソリトとの身長差がはっきりと分かる程、バルデスの身長は高かった。
推定二メートルと言った所だろう。
そんな事を考えていると、バルデスが来いと指を数回動かす。
ソリトは頷いた後、先ず腹に一発、浮き上がり無防備な背中に跳び上がって肘鉄を一発、【空間機動】で空中で膝蹴りを入れて突き上げ、顔面に一発打ち込み、最後に両手を組み地面に叩き付けた。
地面に弾かれて空中に放り出されたバルデスは〝空歩〟で体を宙にバッと止めた。
バルデスはソリトが地上に降下している間に、口元から細い糸のように滴る血を拭う。
「予想以上だ。おそらく私と実力は近いかもな。しかし、戦いとはこうして実力が近くなければ面白くない」
「そうか。覚えておく」
「いや、頭で覚えなくても、私自らその体に叩き込んでやる」
地上に降りた瞬間、バルデスが突っ込んできた。
左からの拳撃を受け止めると同時に、ソリトも肘鉄を突き出すが、バルデスも攻撃を受け止める。
互いに受け止めた手を離した瞬間、バルデスが拳撃の猛攻を繰り出してきた。
至近距離攻撃を後退しながら、反撃をチャンスを探りつつ両腕で防いでいく。
そうして、一瞬だけ攻撃を振り払い体を低く落として、スネを狙って右足で蹴りを放ち、バルデスの体勢を崩す事に成功した。
前に倒れていくバルデスへ、ソリトは蹴りを放った体をそのまま左回転させて真正面へ向き直し、倒れてくるバルデスに向けて下から即座に拳を放ったが、寸前の所で回避され背後に回られた。
背後から来る拳撃を空中に跳んで回避し、攻防一対の戦闘を縦横無尽に繰り広げながら上空へ上昇していき、逆さまのまま戦いながら地上へ降下する。
拳撃をぶつけ合った反動でソリトとバルデスは距離を取り、着地したと同時に大きく跳躍し、凄まじい速度で上下左右に移動しては互いに攻撃パターンを撹乱させつつ空中を駆け突進する。
接近すると同時にソリトは右半身を上空に向け蹴り下ろす。それを左前腕を前に出して受け止めるとバルデスはすかさず右拳を振り上げ、ソリトの腹に重い一撃を入れ反撃した。
圧迫される威力に堪えながらソリトも顔面に蹴りを叩き込み追撃で右拳を繰り出すと、同時にバルデスは左拳を放って打ち消し、続けて左膝蹴りを繰り出してきた。
ソリトも右膝を突き上げて攻撃を打ち消すが、足を即座に引いてバルデスに顎へ鋭い蹴りの一撃を入れられた。
仰け反り飛ばされていく体を丸め、回転しながら体勢を立て直し着地と同時に背後へ振り返って、バルデスへと突進する。
その前にこちらへ接近してきていたバルデスに蹴りを突き出すが〝空歩〟で瞬時に上へ回避され、降下した勢いを乗せた蹴りを、ソリトは逆に喰らってしまった。
ソリトは即座に回り込み右側から、重い拳撃を一発右頬へ打ち込み、バルテスを地面に殴り落とす。
着地した瞬間、ソリトはすぐに腰を落として構え直す。
地面を擦りながら停滞した後、バルデスは体を起こした。
背を向けたまま突っ立っている。
油断せず、警戒しながら構える。
「フッフッフッ…フッハッハッハッ…フハハ、フハハハ!!」
すると突然、バルデスが肩を震わせながら大きく高笑い始めた。
ソリトは目を見開き、笑い続けるバルデスの姿を観ていた。
「…ハハハハハ!面白い、楽しいぞソリト」
直後、バルデスは脇を締めて腕を曲げると、ぐっと両手を握り締めながら後ろに引いた。
「っ!?なんだ、このピリつく感覚」
そう思った事を呟いていると、バルデスの右拳に獅子、左拳に白い狼の顔が纏った。
その瞬間、体の本能と【危機察知】が反応して危険だと騒ぎ出した。
背後には中央都市アルス、少し離れた場所にファルやカロミオ達の気配がある。
「獣王!」
「くそっ迷ってる暇がねぇ!」
ソリトは早急に上空へと大跳躍した。
「牙双裂波!」
すると、バルデスは両腕を上空に跳んだソリトへ向けて上下に突き出し、獅子と狼の巨大な精神力の塊を放った。
巨大な塊が凄まじい速度で徐々に迫りくる。
「くっ…!!」
〝流水〟の再使用までまだ少し時間があり、予想以上の威力はソリトの速度を持ってしても自力で避ける事は出来ない。
そう思っていた。
実際そうだった。
だが、間近まで攻撃が接近してきた直後、バルデスの正面まで降下していた。
「なっ!!」
「なんだと!」
ソリト自身も突然の事にバルデスと共に呆けていたが、先にソリトが正気に戻った。
「牙狼拳!」
バルデスへ拳を狙い定め、狼の拳の二連撃で反撃し吹き飛ばした。
地面へ直撃する直前、バルデスはバク宙で体勢を戻して、ソリトへ向き直した。
「………………何故だ、間違いなく当たった筈だ。どうやって避けた」
「ああ、間違いなく当たっていた。俺も正直驚いてる」
「…そうか。どうやらお前自身でも知らない力があるようだな」
「どうだろうな。武技や魔法でもない。習得も何もしてない力があるか?」
そんな事スキルでも覚えない限りまず不可能だ。そもそも、あるかどうかも分からない。
それに、ソリトはスキルをタグで確認をしている。
そんな力があれば、バルデスの背後にでも回り込んで反撃している。
あるとすれば、現在のところは【反転顕現】という不思議なスキルだけ。
だが、ルミノスとの戦いで過った能力には一瞬で回避するようなものは無かった。
本当に、自分の身に一体何が起きたのか疑問が晴れなかった。
「あれば厄介な技とだけ答えておこう。だが…」
「ああ。自覚して使えない技を俺も頼りにするつもりはない。それより、あの技は俺が飛び上がると思って放ったのか?」
「どうだったかな。ただ、私のあの攻撃をどう避けるかは観てみたかった」
「なるほど試されたって訳か。もし、回避出来てなかったら?」
「戦いが終わりただ楽しみが減る。それだけだあ!」
そう言った瞬間、バルデスが突進してきた。
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